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 バルサ王国魔導学院の中庭でジョッシュと姉アレッサは人目もはばからずイチャイチャしていた。

「もう、メリーが居なくなって一週間経つね。やっぱりあんな酷いことしたから捕まったんだろうね」
「でも、私のおもち……大切な妹だから心配だわ……」
「ああ、君はとても、優しい女性だね」
「そんな……私は体が弱いだけの女よ」
「アレッサ」
「ジョッシュ」

 二人は顔を近づけキスをする。その瞬間、私は二人の前に飛び出した。

「浮気現場発見。しかも校内でやるなんて最低ね」

 突然、私が現れた事でジョッシュは驚き飛び上がったが、アレッサはおもちゃを見つけた子供の様な顔をしながら私に駆け寄ってくる。
 しかし、私はアレッサが近づけないよう魔法を唱えた。

「エアーシールド」

 するとアレッサは私が作り出した風の盾を激しく叩き始めた。

「なんで! なんでよおぉ! 意地悪しないでよおぉぉ!」

 アレッサはそう叫ぶが、明らかに口元が歪んで目が笑っていた。

 はあっ、全くこの人は私をおもちゃとしか思ってないのねえ。しかも虐げられるおもちゃ。要はアレッサは変に頭が回るタチが悪い子供って事なのね。けれど、段々と歯止めが利かなくなってしまったってことかしら。

 私は今では不気味な笑みを浮かべながら必死に風の盾を叩き続ける、哀れな姉を見つめる。すると冷静さを取り戻したジョッシュが声をかけてきた。

「やあ、メリー、心配したんだよ」
「心配してる人が不貞行為をするかしら?」
「不貞行為? なんの事だい?」

 ジョッシュはとぼけた表情をする。アレッサも私と遊べると理解したのかすぐに悲しそうな表情を浮かべた。

「そうよ。私とジョッシュはあなたが心配すぎて慰め合ってたのよ。それを不貞行為なんてあんまりだわあ!」
「そうだ! メリー、見損なったぞ! こんなに僕達が心配していたのに酷いことを言うなんて!」
「はあ、酷いことね。まあ、私が百万歩譲ってあなた達が私の心配をしていた不貞行為じゃないって信じたとしましょう。けどね、私が許しても他の人は許さないのよ」

 そう言うと眉間に皺を寄せたサマンサ学長が私達の方に歩いてきた。

「あなた達がしたのは校則違反です。はっきり言いましょう。今日付けであなた達は退学処分とします」
「はっ?」
「……」

 二人はそれぞれ驚いた表情をするが、すぐにジョッシュがニヤッと笑いサマンサ学長に言った。

「何を言い出すかと思いきや、そんな事できるわけないだろう。こんなの僕達以外もやっているんだぞ。それにそんな事をしてみろ! 貴族を敵に回すぞ?」

 ジョッシュはサラッと不貞行為を認め、更に脅迫行為をしてきた。そんなジョッシュにサマンサ学長は毅然とした態度をとる。

「そんなの怖くありません。それとあなた達みたいに校則を乱したものは全員退学にさせるわ」
「なっ、そんな事……」
「やれるのよ、ジョッシュ」

 私が途中で口を挟むとジョッシュは驚いた顔をする。しかし、すぐ私達を交互に睨んできた。

「ふざけるな、他の奴を退学させても僕をできるわけないだろう! 僕は宰相の息子、アルタール公爵令息だぞ!」

 ジョッシュはそう叫んだ後、自信があったのか不敵な笑みを浮かべる。まあ、普通なら公爵家には盾突けないからこういう態度になるのもわかる。隣にいるアレッサも権力は理解できるのか悲しげな表情を浮かべながらも器用に口角を滅茶苦茶上げていた。
 そんな二人に、現実を教えるため私は指を鳴らす。怒りの表情を浮かべたアルタール公爵が、ジョッシュを睨みつけながら歩いてきた。
 しかし、ジョッシュは何を思ったのかアルタール公爵に手を振り出したのだ。

「父上! いやあ、酷いんですよ! 学長が僕達を退学……」
「ジョッシュッ!」

 ジョッシュは喋っている最中にアルタール公爵に殴られた。

「ぐげえっ!」

 どうやら、アルタール公爵は魔力を込めたらしい。ジョッシュはかなりの距離を吹っ飛んでいく。私は風の魔法を使いジョッシュをまたこちらに飛ばした。
 もちろん、飛んできたジョッシュの顔を私の足の裏で受け止めてあげることを忘れてはいけない。

「ぶべっ! 何をするんだメリー!」
「あら、元気ね」
「あら、元気ね、じゃない! 僕の顔を踏みつけやがって!」
「良いじゃない。それより……」

 私は時計を見た後にジョッシュを見た。

「時間ね。ジョッシュ、今を以てあなたと婚約破棄がされたわ。理由はあなたの不貞行為よ」
「なっ、ふざけるな! なぜ、僕の所為に……」
「婚約破棄にお前の退学は決定事項だ。それと廃嫡も決定になる。アルタール公爵家はその内、弟夫婦に譲る事になるだろう……」

 アルタール公爵がジョッシュの言葉を遮り言う。吐ジョッシュはショックを受けた表情を浮かべ座り込んだ。

「そ、そんな……」
「お前とアレッサ・ロルイド伯爵令嬢との不貞行為も知っている。本当にお前にはがっかりだ……」

 アルタール公爵はそう言って私とサマンサ学長に頭を深く下げると後ろに下がった。そんなアルタール公爵に私も頭を下げた後、アレッサを見る。

「さあ、ジョッシュは終わったから次は姉さんの番よ」

 そう言うと、ちょうど騎士達がナタリアを含む侍女を連れてきて雑にアレッサの前に放り投げた。更に騎士の一人が笛を吹くと騒ぎを聞きつけた先生や生徒が何事かとぞろぞろとやってきたのだ。
 それを見たアレッサは突然、顔を両手で覆い泣き出す。

「なんで、酷い事をするのよメリー! 私を虐めて楽しいの⁉︎」

 アレッサは可哀想アピールをする。すぐに釣られた男子達とボラルまでやってきた。

「また、君の妹が虐めているのか!」
「全く酷い女だ!」
「姉と違ってパッとしない顔が!」

 若干、ボラルが関係ない事を言ってきたがここは突っ込まずに、私はナタリアに尋ねる。

「ナタリア、言うことあるでしょう?」
「は、はい……」

 ナタリアはゆっくりと立ち上がると周りを見回し、震えながら言った。

「私はアレッサお嬢様の侍女をしているナタリアと言います。私はアレッサお嬢様と一緒にメリーお嬢様を虐げていました」

 ナタリアがそう言うと他の侍女も立ち上がり言いだす。

「私達はメリー様に嫌がらせをしていました」
「部屋にある物を盗みました……」
「どうかお許し下さい……」

 ナタリアや侍女達は一斉に私に頭を下げる。周りにいた連中は戸惑い始めるが彼女達を見たアレッサが大声で叫んだ。

「メリー! ナタリア達に酷いことをして言う事を聞かせたのね! 誰か助けてあげて‼︎」

 アレッサはそう言って叫ぶが騎士団達が私を守る様に立つため、みんな怯んでしまう。そんな様子にアレッサは生まれて初めて焦った表情を見せる。そんなアレッサに私は思わず頬を緩めた。

 やっと、本当の顔が少しだけ出てきたわね。これから全部曝け出してあげるわ。

 私は指を鳴らす。今度はエリンドとアマリリスが騎士達に連れられてきた。ちなみに、二人は侍女と違い映像を見ていないので、なんで呼ばれたのかわかっていない。

 さあ、ここから本格的にロルイド伯爵家の断罪ショーをするわよ。

 私は集められた連中を見ながら目を細めるのだった。
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