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しおりを挟むあれからハンナはどんどん回復していき、現在松葉杖を使えば、街中を歩ける様にまでなっていた。
そんなハンナの歩く練習に頻繁にルーカスが付き沿い、今日も二人はリハビリがてら街を一緒に歩いていた。
「ハンナ嬢、大丈夫かな?」
「はい、ルーカス様ありがとうございます」
ハンナは笑顔で礼を言うと側でいつでも支えるように立っていたルーカスは微笑む。
「もう少しで松葉杖もいらなくなるな」
「これも、ルーカス様のおかげですよ」
「そんな事はないよ。ハンナ嬢が毎日、歩けるように練習していたからだ。私はただ側にいただけだよ」
「その側にいて下さった事が私に頑張る力を与えてくれたのですよ」
「ハンナ嬢、君って人は……」
ルーカスはそう呟き熱を帯びた瞳でハンナを見つめる。ハンナもそれに答える様に同じく熱を帯びた瞳で見つめる。
そして、二人はしばらく見つめあった後、ハッとして目を逸らした。
最近はよくこういう事が増えており、ハンナは嫌でも自分の気持ちに気づいてしまっていた。
私、ルーカス様の事を好きになってしまったわ……。でも、私みたいな傷ものがでしゃばるのは駄目よね。
ハンナは髪に隠れているが頭にできている一生消えない傷を思い出し、意気消沈していると二人の元にエリオットが現れたのだ。
「ハンナ⁉︎」
エリオットは驚いた表情でハンナを見る。何せ、エリオットの中ではハンナはいまだに意識が戻らない状態だったからだ。
しかも、顔に醜い傷ができていると聞いていたのに目の前にいるハンナは半年前と変わらず美しい顔だった。
そんなハンナはエリオットを見るなり誰もが見惚れる様な笑顔で微笑む。
「エリオット様、お久しぶりです。それと婚約おめでとうございます」
「あっ……」
ハンナに言われエリオットは自分が今、フィナの婚約者である事を思いだし固まってしまう。そんなエリオットにハンナは続けて言ってきた。
「お二人のお子様が生まれましたら是非、私にも見せて下さいね。そうだわ。生まれる頃は私はキリオス伯爵家の当主になっていますから、何かお二人にお祝いのプレゼントを差し上げますわね」
「えっ……」
エリオットはハンナの言葉を聞き自分の耳を疑う。キリオス伯爵家を継ぐのはフィナだと現キリオス伯爵のエドモンドも言っていたから。
しかし、エリオットは目の前にいる元気そうなハンナを見て、半年前のソニアの言葉を思い出し急に不安になってしまった。
そんなエリオットにルーカスが近づいて囁いてくる。
「正式な書類でハンナ嬢はキリオス伯爵家を継ぐ事になっている。お前はどうせ書類など見ずに奴らの言葉だけ信じてしまったのだろう。貴族はそういう大切なことは口約束はしないんだよ」
「……そんな。それじゃあ、僕はどうなるんですか?」
「キリオス伯爵家に行ってみろ。今、きっと面白い事になっているぞ」
そう言うとルーカスはエリオットから離れてハンナに微笑む。
「ハンナ嬢、彼は大切な婚約者に会いに行くそうだ。私達は邪魔をしない様に向こうのカフェに行こう」
「そうですわね。では、エリオット様、どうかお幸せになって下さいね」
ハンナは微笑むと呆然としているエリオットに背を向け、ルーカスと共に去っていく。
そんなハンナの後ろ姿にはもうエリオットへの気持ちが微塵もないのを理解し、エリオットはショックのあまり膝を地面につけ、ただただ静かに涙を流すのだった。
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