上 下
14 / 20

14

しおりを挟む

ランドール・ウルフイットside.

 俺が彼女に心を奪われたのは、ある出来事がきっかけだ。その始まりがホイット子爵家がオーナーをしているティールームである。
 たまたま良い香りに釣られて入店し、飲んだ紅茶が気に入ったので茶葉を王宮にも卸せないか聞いたのだ。そうしたら考えるそぶりもなく断られてしまったのである。
 それが俺には新鮮で気に入ってしまいその後は常連になったのだ。
 そんなある日、学院にホイット子爵家の令嬢が通い出したと知った。だから、興味本位で見に行ったのだ。まあ、子爵家はやり手でかなり稼いでるから、娘の令嬢は派手な格好をしているのだろうと思っていたのだが。だが、違っていた。
 薄化粧で落ち着いた服を着ており、そして何よりも透明感のある美しい令嬢だった。だが、この時の俺は少し興味が出た程度で彼女にどうこう思うこともなかった。

 だが、ある日を境に完全に心を奪われる。それは騎士科の生徒が授業中に大怪我をした日である。その時、彼女だけは手や服などが血で汚れる事も気にせず、懸命に手当をしてくれたのだ。しかも、必死に元気付ける言葉を投げかけてだ。
 あの時、俺を含めて騎士科の連中が彼女の虜になったのはいうまでもない。すると、彼女の優しさを利用して馬鹿な事をしようとする連中も現れたのだ。まあ、大概はわざと本人の近くで怪我をして手当をしてもらいたい程度である。
 そいつらにはしっかり話し合いをして二度とやらないようにさせた。だが、中には彼女を雇った男に襲わせ、そこに颯爽と現れて男を追い払って良い仲になろうとする邪な考えをする奴まで現れだしたのだ。
 もちろん、そいつはすぐ学院を去ってもらった。だが、馬鹿な事を考える奴は沢山現れた。だから、俺は本腰をいれたのだ。まあ、おかげで俺は彼女に恐れられてしまっていたわけだが……
 そんな事を知らない俺は日々、馬鹿な連中を見張っていたが、ある日、一番縁がないと思っていた馬鹿アルバンが彼女と婚約したと言ってきたのだ。
 正直、信じられなかった。アルバンは幼馴染の女と一緒になると思っていたから。だから、すぐに調べた。何かあると。そして、今すぐアルバンを殺したくなった。
 だが、そんな事をしたら彼女が悲しむだろう。なので俺は必死に考え彼女の方からアルバンを捨てる様にもっていく方法を考えたのだ。そして、彼女が生徒会にいるアルバンにクッキーを持って来るタイミングを狙い聞いたのである。

「お前、婚約者のホイット子爵令嬢の事はどう思ってる?」
「地味ですね……。やっぱり女は華やかでないと。なんで僕がフィーネなんかと婚約しなきゃいけなかったんだろう……」

 アルバンは俺が幼馴染に悪く言うのを見越して、彼女を悪く言った。こっちの思い通りにアルバンは言ってくれたわけだが、正直、彼女を傷つける言葉を言ったこいつを殴ってやりたかった。
 もちろん、この案を考えた俺自身も。だが、赤の他人がアルバンのクズさを教えるより、自分で聞いて知ってもらった方が、アルバンへの思いを断ち切れると思ったのだ。
 だから、心を凍らせる思いで聞いた。

「金蔓だからだろ?」
「ふふ、確かに金蔓ですけど僕のじゃなくてうちの親のですよ。全く、うちの親は借金ばかり作って経営能力がないんですよ」
「ダナトフ子爵か。で、どうするんだ?」

 俺がそう聞いた時、王家の影が彼女が生徒会室を離れたと合図してくる。だからその後は適当に話をした。もうやるべきことは済んだから。
 これでアルバンと婚約解消か破棄辺りをするかと思ったのだ。しかし、翌日に影に彼女がショックで寝込んでしまったと報告された。間違いなくあの日の事が原因だと理解し俺は後悔した。
 もっと違うやり方はなかったのかと、そして日々悶々としていると影から彼女が体調も良くなり学院に来ると報告がきたのだ。俺は、なんとか元気になった彼女に一言言いたくて登校日に会いにいった。結局なんとも言えない感じで終わってしまったが。
 考えたら当たり前だ。彼女とは挨拶程度はした事はあるが初めて会話をしたようなものだから。緊張してしまい、正直、半分ぐらい何を言ったか覚えてないのだ。だが、薄ら笑いを浮かべて見てくる影を見てきっと俺は馬鹿な事をしたのだろう。
 だからこそ、次こそはと思っていたら、馬鹿アルバンと幼馴染の女が再び会い出したと報告があったのだ。俺は溜め息を吐くと町に出る。どうそろくな会話はしないだろうが、もしかしたらということもあるからだ。

 そんな時、偶然にも町で彼女に会ってしまったのだ。しかも、彼女との会話から馬鹿アルバンから心が離れていることも知ることができた。
 これで彼女は馬鹿アルバンと縁を切るだろう。そして今度こそ相応しい相手に出会えるだろうと。ほっとしてしまった。俺が決して含まれないのはわかっていても。
 何せ彼女の心をあいつと同じように傷つけてしまったのだから。だから、俺はこのまま裏方に徹しようと思った。
 だからこそ驚いてしまう。生徒会室に彼女が現れたのが。しかも、俺の事を嫌うどころか心強く思っていると……
 それだけでも満足だったのに、彼女は籠を持っていったお礼に栞とブックカバーをくれたのだ。俺は舞い上がってしまった。すぐに焦ってしまったが。急に俺に対して失礼だから捨てて欲しいと言ってきたから。
 もちろんそんな事はしない。一生、大事にすると誓いたかった。
 しかも、勢いあまって告白までしてしまったのだ。
 これには自分でも驚いてしまったが後悔はなかった。断られても満足だったから。
 案の定、嫌われたのだろう。彼女は用事ができたと足早に生徒会室から出て行ってしまった。
 だが、俺は満足していた。絶対に伝えられないと思っていた事を伝えれたのだから。その後はあくまで生徒会長の立場として、彼女を馬車まで送っていった。
 もちろん道中は話しかけないよう努め、馬車に到着するとすぐに去ろうと思ったのだ。だが、彼女の表情を見た時、気づいたのだ。
 俺はとんでもない勘違いをしていると。彼女の表情は兄上の婚約者が兄上だけに向ける表情と同じだったのだ。だから、俺は彼女の髪に口づけをした後にもう一度、宣言する様に言った。
 
「あのクズからお前を必ず救う。だから、待ってろ」

 すると彼女は頬を赤く染めながら頷いてくれたのだ。

「……はい」

 幸せだった。彼女……ホイット子爵令嬢と両思いになる事ができた事が……

 なのに馬鹿アルバンと幼馴染の女を拘束した日に彼女は攫われてしまった。さいわい影がしっかりと犯人を見ていたので現在、俺は騎士団を引き連れ後を追っている。

「命にかけても救い出す……」

 そう呟くと彼女が連れて行かれた方向を睨むのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜

平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。 だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。 流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!? 魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。 そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…? 完結済全6話

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

【完結】姉に婚約者を寝取られた私は家出して一人で生きていきます

稲垣桜
恋愛
私の婚約者が、なぜか姉の肩を抱いて私の目の前に座っている。 「すまない、エレミア」 「ごめんなさい、私が悪いの。彼の優しさに甘えてしまって」  私は何を見せられているのだろう。  一瞬、意識がどこかに飛んで行ったのか、それともどこか違う世界に迷い込んだのだろうか。  涙を流す姉をいたわるような視線を向ける婚約者を見て、さっさと理由を話してしまえと暴言を吐きたくなる気持ちを抑える。   「それで、お姉さまたちは私に何を言いたいのですか?お姉さまにはちゃんと婚約者がいらっしゃいますよね。彼は私の婚約者ですけど」  苛立つ心をなんとか押さえ、使用人たちがスッと目をそらす居たたまれなさを感じつつ何とか言葉を吐き出した。 ※ゆる~い設定です。 ※完結保証。

恋人が聖女のものになりました

キムラましゅろう
恋愛
「どうして?あんなにお願いしたのに……」 聖騎士の叙任式で聖女の前に跪く恋人ライルの姿に愕然とする主人公ユラル。 それは彼が『聖女の騎士(もの)』になったという証でもあった。 聖女が持つその神聖力によって、徐々に聖女の虜となってゆくように定められた聖騎士たち。 多くの聖騎士達の妻が、恋人が、婚約者が自分を省みなくなった相手を想い、ハンカチを涙で濡らしてきたのだ。 ライルが聖女の騎士になってしまった以上、ユラルもその女性たちの仲間入りをする事となってしまうのか……? 慢性誤字脱字病患者が執筆するお話です。 従って誤字脱字が多く見られ、ご自身で脳内変換して頂く必要がございます。予めご了承下さいませ。 完全ご都合主義、ノーリアリティ、ノークオリティのお話となります。 菩薩の如き広いお心でお読みくださいませ。 小説家になろうさんでも投稿します。

【完結】婚約破棄は受けますが、妹との結婚は無理ですよ

かずきりり
恋愛
王妃様主催のお茶会で、いきなり妹を虐めているなどという冤罪をかけられた挙句に貶められるような事を言われ………… 妹は可愛い顔立ち 私はキツイ顔立ち 妹の方が良いというのは理解できます。えぇとても納得します。 けれど………… 妹との未来はありえませんよ……? ------------------------------  ※こちらの作品はカクヨムにも掲載しています

決めたのはあなたでしょう?

みおな
恋愛
 ずっと好きだった人がいた。 だけど、その人は私の気持ちに応えてくれなかった。  どれだけ求めても手に入らないなら、とやっと全てを捨てる決心がつきました。  なのに、今さら好きなのは私だと? 捨てたのはあなたでしょう。

あなたがわたしを捨てた理由。

ふまさ
恋愛
 王立学園の廊下。元婚約者のクラレンスと、クラレンスの婚約者、侯爵令嬢のグロリアが、並んで歩いている。  楽しそうに、微笑み合っている。アーリンはごくりと唾を呑み込み、すれ違いざま、ご機嫌よう、と小さく会釈をした。  そんなアーリンを、クラレンスがあからさまに無視する。気まずそうにグロリアが「よいのですか?」と、問いかけるが、クラレンスは、いいんだよ、と笑った。 「未練は、断ち切ってもらわないとね」  俯いたアーリンの目は、光を失っていた。

【完結】結婚しておりませんけど?

との
恋愛
「アリーシャ⋯⋯愛してる」 「私も愛してるわ、イーサン」 真実の愛復活で盛り上がる2人ですが、イーサン・ボクスと私サラ・モーガンは今日婚約したばかりなんですけどね。 しかもこの2人、結婚式やら愛の巣やらの準備をはじめた上に私にその費用を負担させようとしはじめました。頭大丈夫ですかね〜。 盛大なるざまぁ⋯⋯いえ、バリエーション豊かなざまぁを楽しんでいただきます。 だって、私の友達が張り切っていまして⋯⋯。どうせならみんなで盛り上がろうと、これはもう『ざまぁパーティー』ですかね。 「俺の苺ちゃんがあ〜」 「早い者勝ち」 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結しました。HOT2位感謝です\(//∇//)\ R15は念の為・・

処理中です...