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 アルバン様の馬鹿さ加減に私が呆れていると、ウルフイット第三王子が側にきて声をかけてくる。

「少し話がしたい。移動するぞ」
「はい」

 私はウルフイット第三王子と一緒に歩き始めると、後ろからアルバン様の怒鳴り声が聞こえてきた。

「フィーネ! なんで、第三王子と一緒に歩いてるんだ! それに近いから離れろ!」
「……ここは学院だから一緒に歩くのは問題ないですよ。それに、ちゃんと節度ある距離は取ってます。だから、アルバン様にとやかく言われる筋合いはありません」

 淡々とそう言うと、アルバン様は口を開けてワナワナさせるが、はっとして再び私に怒鳴ってきた。

「だ、だからって婚約者の前で男と一緒に並ぶなんておかしいだろ!」
「……アルバン様は婚約者である私の前でダーマル男爵令嬢と近い距離で接していましたよね?」
「あ、あれは幼馴染だから良いんだよ!」
「そんな言い訳通じませんし、それに幼馴染でも普通はあそこまで近づきませんよ。ああ、お二人は特別な幼馴染だからしょうがないですね」
「な、何を言ってるんだ? 僕達はただの幼馴染だよ……」

 アルバン様は挙動不審な動きで言い訳をしてくる。隣で静かに聞いていたウルフイット第三王子が冷たい目でアルバン様を睨んだ。

「それ以上、醜態を晒すなアルバン」
「えっ……」
「もう、お前とあの女の関係はわかっている」

 ウルフイット第三王子がそう言った瞬間、アルバン様は大量の汗をかき始めた。そして縋るような目で私を見てくる。だから、私は蔑んだ目で見つめ返すとアルバン様は力無くへたり込んでしまった。
 隣りでアルバン様を同じ様な目で見ながら、ウルフイット第三王子が更に追い討ちをかける。

「それと、お前には国家反逆罪の容疑がかかっている。連行しろ」
「な、な、なんだって⁉︎」

 へたり込んでいたアルバン様は驚いて飛び上がるが、いつの間にかいた騎士によって押さえ込まれ、あっという間にどこかへと連れてかれてしまう。そんなアルバン様が消えた方向を見つめながら私はウルフイット第三王子に質問する。

「あの、もう隠さなくてよろしかったのですか?」
「ああ、それを踏まえて話そうと思っていたんだ」

 ウルフイット第三王子はそう言うと談話室の一室に私を案内してくれたのだが、そこには、なぜかお父様がいた。

「お父様? どうしてこちらに?」
「ああ、ダーマル男爵家とモルドール王国との繋がりの証拠を見つけて提出してきたんだ。それと、フィーネの喜ぶ顔が見たくて寄ったんだ」
「まあっ……。それじゃあ……」
「ダナトフ子爵令息とはすぐに縁を切れるよ」
「お父様、ありがとうございます……」

 私は涙ぐみながら頭を下げる。お父様は私を抱きしめ頭を撫でてくれた。そんな、私達にウルフイット第三王子が声をかけてくる。

「これから、ダナトフ子爵家とダーマル男爵家に騎士団を向かわせる。それでホイット子爵には繋がりや帳簿関係などで手伝ってもらう事になった」
「なるほど、流石はお父様ですわ」
「はははっ、フィーネに褒められるために頑張った甲斐があった。それでだけど、アマンダに二、三日帰れないと伝えてくれるかい?」
「もちろんですわ」
「では、行ってくるよ」

 お父様は最後に私の頭をひと撫ですると名残り惜しそうに離れていく。そんな様子を見ていたウルフイット第三王子は優しげに微笑んだ。

「……良い父親だな」
「はい、最高のお父様ですよ」
「ふっ、じゃあ、俺はもっと頑張らないとな」

 ウルフイット第三王子は拳を握りしめる。しかし私はかぶりを振った。

「あなた様はそのままで良いのですよ」

 私が微笑むとウルフイット第三王子は目を瞑って俯いてしまう。

「……ありがとう。すまないがこれ以上ここにいると我慢できなくなりそうだから行くよ」
「……はい」

 私は頬を染めながら頷く。そんな私をウルフイット第三王子は名残り惜しそうにしながら背を向けた。
 私は去っていく二人に小さく手を振る。

「お二人とも気をつけて……」

 そう呟き、二人の姿が見えなくなるまで手を振り続けるのだった。



 授業も終わり私は馬車で屋敷に向かっていた。しかし、道中で馬車が急に止まってしまったのだ。何事かと思っているといきなり扉が開き顔を布で隠した男女が刃物を見せてくる。

「騒ぐな! 殺すぞ!」
「ちょっと! 殺したら意味ないでしょ!」
「うるさい! 脅してるだけだ!」
「だったら、そう言いなさいよ!」

 男女は入ってくるなり喧嘩を始めてしまう。だから、チャンスとばかりにもう片側の扉から逃げ出そうとしたが男の方に刃物を突き付けられてしまった。

「逃げたら顔に傷を付ける。それなら問題ないだろう。へへへっ」

 男は下品な笑みを浮かべると、女も笑いながら頷いた。

「ええ、邪魔をしてくれたお礼に娘にはそうしてあげましょうか」

 女もそう言って刃物を出し脅してきた。しかし、私は恐怖感よりも女の言った言葉の方が気になってしまう。

 邪魔をしてくれたお礼? 娘は? 何の話なの?

 私は怯えながらも必死に考える。そして、ある考えが浮かんだ。

「ダーマル男爵……」

 すると、男女の動きがぴたりと止まる。それで私は確信した。この男女はダーマル男爵家の関係者だろうと。

 きっと、王家が動いているのがわかって、私を人質にして隣国に逃げようとしているのね。

 そう判断していると、扉が開き顔に布を巻いたもう一人の女が現れた。

「パパ、護衛と御者は縛っておいたわ。これで馬車を奪って逃げれるわよ」

 女は扉を開けると同時に自慢げに言う。男は慌てだした。

「マニー、今はパパって呼ぶんじゃない! バレるだろう!」

 男は焦りながらそう言ったがもう遅い。私は確信する。最初に入ってきた男女はデルフ・ダーマル男爵とマミヤス・ダーマル男爵夫人で、後から来たのが二女のマニー・ダーマル男爵令嬢だ。

 どうやら、騎士団が自分達を捕まえに来るのを知って、家族で逃げ出したということかしら。でも、どうやって逃げるつもりなの? 国家反逆罪で逃亡するのに、たかが子爵令嬢を人質にしたって無理に決まってるわ……

 私は体の震えを必死に抑え込みながらそう思っていると、マニー嬢が楽しげに言ってきた。

「良いじゃない。モルドール王国に逃げたらその女は娼館に売っちゃえば良いのよ」
「マニー、そういう問題じゃ……」
「そういう問題よ、パパ。さあ、レンゲル行くわよ」
「ああ……」

 マニー嬢の声かけに誰かが答える。しかし、姿は見えないが私は名前と声でその人物が誰か理解してしまった。

 まさか、レンゲル様までいるなんて。
 でも、どうして?

 レンゲル様はウルフイット王国を支えたいと言って騎士を目指して頑張っていたはずなのだ。

 それなのにどうして、裏切る事をしたの……

 私は学院で汗を流しながら年中必死に剣を振るっていたレンゲル様を思いだし悲しくなるのだった。
 
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