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しおりを挟むああ、この方はもう駄目だわ……
私はもう我慢できなくなり口が動いてしまう。
「……勘違いしないで下さい。私はダーマル男爵令嬢に嫉妬などしません。なぜならアルバン様、あなたの事を愛してませんから」
我慢できずにそう言うと、アルバン様の表情から薄気味悪い笑みが消え、驚いた表情になった。
「えっ、な、なんて言ったのかな?」
「何度でも言いましょう。あなたの事は愛していません。せいぜい兄を慕う妹程度ですよ。ただ、それももうありませんが」
冷めた目で見つめると、アルバン様は目を見開き私を凝視してくる。しばらくその状態で私を見続けてきたが急に笑いだす。
「ははははははっ、どうやら、僕達は一度しっかり話し合った方が良いらしい。何、すぐに前みたいな愛し愛される仲になれるさ」
アルバン様は手を伸ばしてくるが、私は一歩後ろに下がる。
「あら、じゃあ、愛しのダーマル男爵令嬢はどうなさるのですか?」
「えっ……」
どうやら自分の腕にしがみついてるダーマル男爵令嬢の存在を忘れていたらしい。アルバン様は思いだしたようにそちらを見て顔が真っ青になる。そこには憤怒の表情を浮かべたダーマル男爵令嬢の顔があったから。
そんなダーマル男爵令嬢の顔を見たアルバン様は作り笑いを浮かべた。
「リ、リーシュ、なんでそんな顔をしてるんだい? ほら、笑おうよ。ねっ」
どうやら火に油を注いでしまったようで、ダーマル男爵令嬢はアルバン様に向かって怒鳴りだした。
「何が笑おうよ。ねっよ! ふざけないで! それに何でこんな地味女と愛し愛される仲になろうとしてるのよ!」
「あっ……、いや、それは、あの……。言葉のあやだよ。言葉のあやだ。はははっ」
アルバン様は笑って誤魔化そうとする。私が側にいるのにだ。正直、ここまで残念で頭がおかしい方だとは思わなかったが、おかげで周りに二人の異常さを見てもらう事ができた。
まあ、二人は軽蔑するような目で見られている事には全く気づいてないが……。だから、更にボロを出すだろうと思い、私はアルバン様に言った。
「言葉のあやですか。じゃあ、本当はなんて言おうとしたのですか?」
するとアルバン様は今度は私の存在を思い出して驚く。
「フ、フィーネ⁉︎ あ、あの、それは……あれだ。君があんな事を言うからだよ。だから君が悪い……そうだよ、君が全部悪いんだ!」
アルバン様はあろうことか、全て私の責任にしてきたのだ。そんなアルバン様を私も周りにいた生徒達も冷たい目で見ていると、ダーマル男爵令嬢がアルバン様を押しのけて私を睨みつけてくる。
「そうよ! あなたが全部悪いのよ! 責任取りなさい!」
「……責任? 何の責任ですか?」
「私の背中を押して倒したでしょう! それに教科書を破いたり、階段からも落とされたわ!」
ダーマル男爵令嬢は両手で顔を覆い泣き真似をしだした。もちろんアルバン様以外は嘘泣きだと理解している。
それに、ダーマル男爵令嬢が言った言葉は巷で流行っている、『ピンク頭の女はざまあされる』という本に書かれている内容そのままだ。
おかげで、話を知っている生徒は笑いそうになってしまい、口に手を当て体を震わせていた。かくいう私もであるが、今、私が笑うと面倒なことになるので頑張って耐えながらダーマル男爵令嬢に言ってあげた。
「何を言ってるのです? そもそも私とあなたと会うのは二回目です。それにあなたがどのクラスかも知りません……確か、次に公爵令嬢が言うのはこんな台詞でしたよね。私も周りにいる生徒もあれは読んでますよ」
ダーマル男爵令嬢は驚愕の表情を浮かべ慌てだす。
「なっ、何言ってるのがわからないわ! そうよ、あなたの言ってる事はさっぱりわからないわ! だから責任を取ってアルバンのところにもっと融資を……それと、ダーマル男爵家に慰謝料を払いなさい!」
ダーマル男爵令嬢は私に睨みつけてくるが、もう呆れて何も言い返せなかった。
……自分が滅茶苦茶な事を言ってるのを全く理解してないのね。
私は憐れみの籠った目でダーマル男爵令嬢を見つめていると、突然、私達の側に猿轡をされ、縄でぐるぐる巻きにされた偽物の女子生徒が転がってきたのだ。
どうやら、逃げ切れずに捕まったらしい。私はそんな彼女を憐れんで見ていると誰かがこちらに歩いて来た。
「学院に部外者が紛れ込んでいたから捕まえた。話を聞けばダーマル男爵令嬢の友人だそうじゃないか」
そう言って私達の方に歩いて来たのはウルフイット第三王子だった。そんなウルフイット第三王子に私は思わず駆け寄りそうになったが、踏みとどまり頭を下げる。
「ありがとうございます。この者からは聞きたい事がありましたので……」
「知ってる。こいつを追いかけてた奴から聞いた。それで、この女の友人であるダーマル男爵令嬢からも話を聞きたいんだがな」
ウルフイット第三王子は冷たい目でダーマル男爵令嬢を睨む。するとダーマル男爵令嬢は怯えた表情で私を指さした。
「こ、この女が私の背中を押したんです! 私はそれで倒れて……」
「ほお、それは本当か?」
「は、はい!」
「おかしいな。ホイット子爵令嬢に付けていた護衛はそんな事は言ってなかったぞ」
「はっ⁉︎」
ダーマル男爵令嬢は驚いて周りを見渡すと物陰から騎士が数名出てきた。そしてウルフイット第三王子に跪く。
するとダーマル男爵令嬢に偽物の女子生徒は顔が一気に真っ青になった。そんな二人を冷たい目で見ながらウルフイット第三王子は騎士に命令した。
「ダーマル男爵令嬢と侵入者を連れてけ」
「はっ!」
騎士は敬礼するとあっという間に二人を連行していく。その様子を見ているとアルバン様が首を傾げながら呟いた。
「なぜリーシュが連れていかれるのですか?」
「はあっ……。お前は今の話を聞いてなかったのか?」
「ええと、リーシュがフィーネに背中を押されたけど、証言したリーシュの友人がこの学院の生徒じゃなくて……。そうか、友人の付き添いで連れてかれたんですね。リーシュは優しいからなあ」
連行されていくダーマル男爵令嬢を優しげに見つめながらそう言うアルバン様にウルフイット第三王子は蔑んだ目を向ける。
「……少しはまともになったと思っていたが、やはりあの女がいるとアルバンは駄目になるのだな。いや、いようがいまいが駄目な奴だったか……」
ウルフイット第三王子が呆れた表情でそう言うと、私を含め周りにいた生徒達は激しく同意するのだった。
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