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しおりを挟む私はウルフイット第三王子の話を聞き驚いていた。
そして、つい口に出してしまう。
「……何が狙いなのですか?」
「狙いか……。半分は先ほど言ったように、少しだけ見る目がないお前の目を覚ましてやろうと思っただけだ。残りはこちらの問題になる」
「……そうですか」
「まあ、目を覚まさせるのはどうやら取り越し苦労だったようだが……」
ウルフイット第三王子は懐中時計を取り出し時間を確認すると、ゆっくりと立ち上がった。
「時間だ。良いものを見せてやる」
「えっ……」
「言ったろう……って、もしかして良いものを見せてやるって、この店のことだと思ってたのか?」
「……はい」
「違う。この店の二階のテラスから見えるものをお前に見せたかったんだ」
ウルフイット第三王子はそう言うと二階のテラス席に私とユリを連れてくとある方向を指差す。そこにはアルバン様とダーマル男爵令嬢が恋人の様に腕を組み歩いていたのだ。
そして、いわゆる休憩所という所に入っていったのである。
そんな二人を見て私は納得してしまったが、それよりもウルフイット第三王子がなぜ二人の仲を知っているのか気になってしまった。
「あの、どうしてウルフイット第三王子はこのことを……」
「あいつらはクズだ」
「えっ?」
「何度もあの二人には注意している。それでやっと考えを改めたと思っていたら俺の逆鱗に触れる事をした挙句、こそこそまた隠れて会っていたんだ」
「……」
私は正直、意味がわからなかった。なぜ、二人はウルフイット第三王子に何度も注意されていたのか。私は思わず聞いてしまった。
「詳しく教えてもらえないでしょうか?」
「ああ、もちろんだ」
ウルフイット第三王子は頷くと私に二人のことを説明してくれたのだが、中々の内容だった。アルバン様とダーマル男爵令嬢の二人は幼馴染で昔からずっと一緒にいたが悪い方向に依存しあってたらしい。
どういうことかというと二人は学ぶことが苦手ですぐに放りだしては、お互いに慰め合って終わらせてしまうので全く成長しなかったそうなのだ。
それが、学院に入るまで続いたわけなので当然二人は問題児だった。
更に将来、ウルフイット王国の一部でもあるダナトフ子爵領を二人が継ぐとなると問題もあった。そこで当時、生徒会長だった第二王子とその婚約者が二人に勉強など色々と教え始めたのだ。だが、もちろん全く効果はなく、すぐに二人は逃げ出し慰めあっていたらしい。
それで第二王子とその婚約者は無理だと諦めたのだが、当時、書記だったウルフイット第三王子がアルバン様達に言ったそうだ。
このままだと廃嫡されて平民か修道院行きになって終わるぞと……
なにせアルバン様には弟がいたし、ダーマル男爵令嬢には妹がいたからだ。そこでやっと、二人は焦って勉強などをやりだしたらしい。
もちろん、何度も逃げだそうとしたがその都度、ウルフイット第三王子が廃嫡の話をして引き止めた。
おかげでアルバン様とダーマル男爵家令嬢は段々と勉強ができるようになり、ウルフイット第三王子は二人がこれで結婚してもたまに目を光らせておけば領地経営も大丈夫かと思っていたら、突然のアルバン様と私の婚約である。
怪しいと思って探りを入れたら案の定だったと……
「全然知りませんでした……」
「それはそうだ。兄貴があいつらを思って噂が出ないようにしていたんだ。まあ、それが結果的に裏目に出たんだがな。しかし、お前と婚約するって言った時、正直あいつを……いや、驚いたぞ」
「お金目当てでしたけどね……」
「ああ、多分、経営難のダナトフ子爵の入れ知恵もあるだろう。でなければ長男のアルバンじゃなくて同い年の二男とお前を婚約させるはずだ。きっとダナトフ子爵はあの女を家に入れたくなかったのだろうな」
「要は問題あるアルバン様を我がホイット子爵家に投げたのですね。きっとダーマル男爵家令嬢も裏で付いてきますから……」
「最悪は乗っ取られるかもしれないぞ。まあ、ホイット子爵がそんな事はさせないだろうがな。だが、その前に俺の手で止めたかった……」
ウルフイット第三王子は悔しそうな表情を浮かべる。そんなウルフイット第三王子を見て私はあることに気づき聞いてしまった。
「もしかして、生徒会室の話はわざと私に聞かせたのですか?」
「ああ、扉を開けて王家の影を使ってお前が来るタイミングを測った……」
「やはり、そうだったのですか……。おかげでアルバン様の本心を知ることができました。ありがとうございます」
私は頭を下げようとしたが、手で遮られてしまった。
「責められる理由はあるが礼を言われる理由はない」
「えっ……」
「お前、体調崩したろ。もしも俺がもっと早く気づけて婚約の件を止められていたらお前が傷つく事はなかった……」
「あっ……ああ……」
私はウルフイット第三王子の言葉を聞き頬に涙が伝った。そう、私は傷ついたのだ。
でも、誰にも言えなかった。言えるわけなかったからだ。すると、ウルフイット第三王子は頭を深々と下げてくる。
「さっきの態度でわかったが、王族である俺が関わってるからホイット子爵にも相談できなかったんだろう。そこまで頭が回らなかった。すまない」
ウルフイット第三王子はそう言ってきたが私はどう答えて良いかわからなかった。先ほどの話を聞いてしまったからだ。
おかげで怒りも悲しみも理解もあるのだ。どう答えていいかわからなくなってしまったのである。
私が複雑な表情をしているとユリが突然、ウルフイット第三王子の側に行き睨んだのだ。
「そうですよ。王家に逆らったら子爵家なんてあっという間に潰されてしまいますからね。お嬢様は誰にも相談できずにとても苦しみました」
ユリはそう言った後、私を見て言ってやりましたよとガッツポーズをしてきたのだ。
本来ならとんでもなくまずいのだが、私はついユリに微笑んでしまう。すると、ウルフイット第三王子は力なく項垂れてしまう。
「ああ、そうだな……。俺はお前を助けてるつもりが怖がらせてしまっていたんだな……。本当にすまなかった」
「……いえ」
私はウルフイット第三王子の姿を見て拍子抜けしていた。更に自分自身が勝手にウルフイット第三王子の事を怖い人だと思い込んでいたことに、気づき申し訳ない気持ちになってしまう。
そして理解した。
自分もウルフイット第三王子を傷つけてしまってることに。だから、ウルフイット第三王子に向かって頭を下げた。
「……私も謝らなければなりません」
「……何に対してだ?」
「ウルフイット第三王子の噂を鵜呑みにして勝手に怖がっていた事です」
「噂……。ああ、そういうことだったのか……。いや、あれはあながち間違いではない」
「えっ?」
「まあ、どう注意しても直さない素行不良な生徒達を退学にしていたが、それに尾ひれが付いたんだろうな」
「そうだったのですか……。あの、じゃあ爵位を取り上げたという噂は?」
「俺個人でそんな事は流石にできない。ただ、退学させた生徒の素行調査を提出した後にその親が犯罪関係で捕まって爵位を取り上げられたから、あながちその噂も嘘とは言えないのかもな」
「ああ、なるほど……」
要は生徒の素行調査をした時についでに親の犯罪までわかったので王家が動いたという事である。つまり、ウルフイット第三王子は言葉使いは悪いが真面目な生徒会長であり、国民が望む理想的な王族だったのだ。
これは、完全に私が悪い気がしてきてしまい、申し訳なく思っているとウルフイット第三王子が質問してくる。
「これで、お互いに疑問やわだかまりは解けたと思う。そこでお前にもう一度聞きたい。お前はアルバンとどうなりたい?」
もちろん私ははっきりと答える。
「婚約関係を解消したいです」
「よし、その言葉を待っていた。これで俺も心置きなく動ける」
ウルフイット第三王子はそう言うと、アルバン様達が入っていった休憩所を見て不敵な笑みを浮かべるのだった。
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