執事の恋

たかせまこと

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 気づいたら、ベッドの上だった。
 新木家が借り上げた、単身者用のマンションの一室。
 オレの部屋。
 さっきの今でオレの部屋、と言うことは誰かが運んでくれたって事で、この場合は間違いなく暖己。

「……はる?」
「目が覚めたか?」

 小さい声で問いかけたら、手が握られた。
 部屋に対して少し大きめのベッドの上。
 オレをしっかりと上掛けにくるみ込んでおきながら、自分は無造作にオレの横に転がっている。
 オレにだけ見せるそのぞんざいさが、好き。

「ごめん……どうなった?」
「まず、水分を摂れ」

 背を支えて身体を起こされ、水の入ったコップを口元にあてられる。
 仕事柄なんだろうけど、完璧に整えられたベッドサイドの看護用品が、なんか悔しい。
 オレだって逆の立場なら、これくらいは用意するけどな。
 ただ、今日、これだけ完璧にされるといたたまれないんだ。
 水差しがあったので遠慮なくおかわりを要求して、コップに二杯水を飲んだ。
 少し、ぼやっとしていた感覚が戻ってくる。

「宿酔いはなさそうだな? どれくらい呑んだ?」
「わからん。いつの間にか、飲み物に入れられてたんだろ」
「全く、笙介さまは……才能の無駄遣いにもほどがある。これは気合いを入れて叩き直さなきゃならんな」

 むうっと眉間にしわを寄せて、暖己が言う。
 暖己が、叩き直すのか。
 目を伏せたら、優しく髪を撫でられた。

「笙介さまとお前では、相性が悪いだろうと、前から言われていたろう?」

 本当のことだけれど悔しくて、オレは強い口調で言い返す。

「相性は悪くない」
「ああ。仲が良すぎるくらいだな。だが、それじゃ主人と執事の間にはなれない。お前はいつまで経っても笙介さまの『兄や』のままだ」

 そうだ。
 ずっと言われていた。
 笙介さまに対して、オレは甘すぎる。
 だってあんなにおかわいらしくて、ひたすらに慕ってくださる様子を見たら、突き放せない。
『梨本はチームリーダーには向いているけれど、個人を育てるには向いてないのですね』
 かつてオレの上司は、そうオレを評した。
 善し悪しではなく、適正の問題だ、と。

「お前が心配しているだろうから、まずは教えておく」

 オレの手からコップを取り上げて、暖己が言う。

「笙介さまはお前のいない状態で、もう一度様子見することになった。跡継ぎ候補からは外されていない。最後のチャンスにはなるだろうけどな」

 ああ。
 それは良かった。

「ほっとしている場合じゃないぞ。お前は新木家から外れて、春日井家に戻される」
「そうか……いつから?」
「存外落ち着いているな」
「オレにも落ち度はあった。当然、ペナルティは覚悟しているさ」
「気づいていたのか?」

 暖己の問いかけは突然で曖昧だった。
 だけど、予想はつく。

「笙介さまのお気持ちか? あそこまで思い詰めておられるとは、思っていなかったけど……好意を持ってくださっているのは、何となく」
「そうか」




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