13 / 19
目隠し
しおりを挟む
「そっか……」
ミリヒはそれだけ言った。
だからおれも、頷いただけ。
渡されたカップの中身を飲み干したら、そっと手の中からカップが持っていかれた。
「君は、そういう人なんだね」
ミリヒの気配が少し離れたと思ったら、今度はすぐ近くに感じる。
多分、テーブルに腰掛けておれをのぞき込んでいる。
「そういうってどんな?」
「たくさん考えて我慢してしまうっていうのかな……考えすぎてどかんってなっちゃう人」
「どんなだよ、それ」
ミリヒがおれの頬を撫でた。
それから、多分指先でおれのあちこちを確かめるように触れていく。
「知らないと考えすぎてしまうだろうから、知っていることは教えておくね」
「ん?」
「ぼくは政治のことはわからないから、全部じゃないとは言っておく」
ミリヒは前置きしてから、知っていることを教えてくれた。
おれが戻されたのは、後宮に集められた姫たちの一人が主導したこと。
やきもちだったんだって。
政治的にどうこうっていうのは、その時点ではなかったらしい。
でも今は違う。
よその国とのつながりや、王宮の中での縄張り争いみたいなので、水面下でごちゃごちゃしてるって。
『聖女』の身柄がどこにあるのか、『聖女』は誰の味方をしているのかっていうのは、政治をしている人にとっては大きなことなんだそうだ。
だからおれの安全のために、おれの身柄はミリヒに――『世界の守り人』に預けられた。
そんな理由で西の森は治外法権というか、どこの国のモノでもない状態で、逆におれを手に入れれば、もれなく西の森と妖精族がついてくるってことらしい。
たくさん結界や護衛がわんさかいるのはそのせい。
しかも全部が全部、出所が違うと思った方がいいって、ミリヒは言う。
「ジュタは自覚がないようだけど、今、それくらい重要人物だからね」
「ただの穀潰しだけど」
そう言ったらミリヒはものすごく大きなため息をついた。
それから宝物を包むみたいな手つきで抱き込まれる。
「こんなに素敵な祈りをささげる人が、何で穀つぶしなわけ? ホントは『世界』だって取り合っているくらいなのに」
……ん?
「取り合うって……『世界』ってひとつじゃねえの?」
「ん~……ひとつと言えばひとつ。けど、たくさんの人知を超える存在の集合体、って感じ」
「あ、そうなんだ」
「納得しちゃうとこが、ジュタだよね」
くつくつと喉の奥でミリヒが笑う。
「へ?」
「人知を超える存在は神であり、無二である。そう思う人が多いのに、ジュタは違う。祈りの方向は至高の方へ向かっているから、ちゃんと自分よりも上の存在があると認めていて、それが唯一無二ではなく万遍ない。だから『世界』に好かれる」
ああ、だって日本人だからねって思った。
「おれが育ったところは、そういう場所だったんだよ。何にでも神さまが宿るんだ」
八百万の神様がいる国。
仏を奉る寺だって、お天道さまに顔向けできないようなことはしちゃだめで、クリスマスツリーを飾っちゃうような国。
「興味深いな……でも、その話はまた今度ゆっくり」
「うん」
「今は違う話をしよう。ジュタが何を思っているのか、たくさん聞かせて」
「思うこと?」
「そう。ぼくらが君から取り上げたもの、君に我慢させてしまったもの、君が欲しいと思うもののこと」
それで、たくさん話をしたんだ。
おれは目に薬を貼ったままで、ミリヒはおれを腕に囲ったままで。
あ、寝てた。
気がついたらベッドの中にいて、今度はちゃんと周りが見えていた。
ミリヒはそれだけ言った。
だからおれも、頷いただけ。
渡されたカップの中身を飲み干したら、そっと手の中からカップが持っていかれた。
「君は、そういう人なんだね」
ミリヒの気配が少し離れたと思ったら、今度はすぐ近くに感じる。
多分、テーブルに腰掛けておれをのぞき込んでいる。
「そういうってどんな?」
「たくさん考えて我慢してしまうっていうのかな……考えすぎてどかんってなっちゃう人」
「どんなだよ、それ」
ミリヒがおれの頬を撫でた。
それから、多分指先でおれのあちこちを確かめるように触れていく。
「知らないと考えすぎてしまうだろうから、知っていることは教えておくね」
「ん?」
「ぼくは政治のことはわからないから、全部じゃないとは言っておく」
ミリヒは前置きしてから、知っていることを教えてくれた。
おれが戻されたのは、後宮に集められた姫たちの一人が主導したこと。
やきもちだったんだって。
政治的にどうこうっていうのは、その時点ではなかったらしい。
でも今は違う。
よその国とのつながりや、王宮の中での縄張り争いみたいなので、水面下でごちゃごちゃしてるって。
『聖女』の身柄がどこにあるのか、『聖女』は誰の味方をしているのかっていうのは、政治をしている人にとっては大きなことなんだそうだ。
だからおれの安全のために、おれの身柄はミリヒに――『世界の守り人』に預けられた。
そんな理由で西の森は治外法権というか、どこの国のモノでもない状態で、逆におれを手に入れれば、もれなく西の森と妖精族がついてくるってことらしい。
たくさん結界や護衛がわんさかいるのはそのせい。
しかも全部が全部、出所が違うと思った方がいいって、ミリヒは言う。
「ジュタは自覚がないようだけど、今、それくらい重要人物だからね」
「ただの穀潰しだけど」
そう言ったらミリヒはものすごく大きなため息をついた。
それから宝物を包むみたいな手つきで抱き込まれる。
「こんなに素敵な祈りをささげる人が、何で穀つぶしなわけ? ホントは『世界』だって取り合っているくらいなのに」
……ん?
「取り合うって……『世界』ってひとつじゃねえの?」
「ん~……ひとつと言えばひとつ。けど、たくさんの人知を超える存在の集合体、って感じ」
「あ、そうなんだ」
「納得しちゃうとこが、ジュタだよね」
くつくつと喉の奥でミリヒが笑う。
「へ?」
「人知を超える存在は神であり、無二である。そう思う人が多いのに、ジュタは違う。祈りの方向は至高の方へ向かっているから、ちゃんと自分よりも上の存在があると認めていて、それが唯一無二ではなく万遍ない。だから『世界』に好かれる」
ああ、だって日本人だからねって思った。
「おれが育ったところは、そういう場所だったんだよ。何にでも神さまが宿るんだ」
八百万の神様がいる国。
仏を奉る寺だって、お天道さまに顔向けできないようなことはしちゃだめで、クリスマスツリーを飾っちゃうような国。
「興味深いな……でも、その話はまた今度ゆっくり」
「うん」
「今は違う話をしよう。ジュタが何を思っているのか、たくさん聞かせて」
「思うこと?」
「そう。ぼくらが君から取り上げたもの、君に我慢させてしまったもの、君が欲しいと思うもののこと」
それで、たくさん話をしたんだ。
おれは目に薬を貼ったままで、ミリヒはおれを腕に囲ったままで。
あ、寝てた。
気がついたらベッドの中にいて、今度はちゃんと周りが見えていた。
240
お気に入りに追加
225
あなたにおすすめの小説
【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する
SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。
☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます!
冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫
——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」
元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。
ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。
その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。
ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、
——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」
噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。
誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。
しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。
サラが未だにロイを愛しているという事実だ。
仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——……
☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので)
☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!


天使の声と魔女の呪い
狼蝶
BL
長年王家を支えてきたホワイトローズ公爵家の三男、リリー=ホワイトローズは社交界で“氷のプリンセス”と呼ばれており、悪役令息的存在とされていた。それは誰が相手でも口を開かず冷たい視線を向けるだけで、側にはいつも二人の兄が護るように寄り添っていることから付けられた名だった。
ある日、ホワイトローズ家とライバル関係にあるブロッサム家の令嬢、フラウリーゼ=ブロッサムに心寄せる青年、アランがリリーに対し苛立ちながら学園内を歩いていると、偶然リリーが喋る場に遭遇してしまう。
『も、もぉやら・・・・・・』
『っ!!?』
果たして、リリーが隠していた彼の秘密とは――!?

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

続・聖女の兄で、すみません!
たっぷりチョコ
BL
『聖女の兄で、すみません!』(完結)の続編になります。
あらすじ
異世界に再び召喚され、一ヶ月経った主人公の古河大矢(こがだいや)。妹の桃花が聖女になりアリッシュは魔物のいない平和な国になったが、新たな問題が発生していた。

ガラス玉のように
イケのタコ
BL
クール美形×平凡
成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。
親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。
とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。
圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。
スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。
ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。
三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。
しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。
三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。

騎士団で一目惚れをした話
菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公
憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。
貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~
倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」
大陸を2つに分けた戦争は終結した。
終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。
一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。
互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。
純愛のお話です。
主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。
全3話完結。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる