出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと

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目隠し

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「そっか……」

 ミリヒはそれだけ言った。
 だからおれも、頷いただけ。
 渡されたカップの中身を飲み干したら、そっと手の中からカップが持っていかれた。

「君は、そういう人なんだね」

 ミリヒの気配が少し離れたと思ったら、今度はすぐ近くに感じる。
 多分、テーブルに腰掛けておれをのぞき込んでいる。

「そういうってどんな?」
「たくさん考えて我慢してしまうっていうのかな……考えすぎてどかんってなっちゃう人」
「どんなだよ、それ」

 ミリヒがおれの頬を撫でた。
 それから、多分指先でおれのあちこちを確かめるように触れていく。

「知らないと考えすぎてしまうだろうから、知っていることは教えておくね」
「ん?」
「ぼくは政治のことはわからないから、全部じゃないとは言っておく」

 ミリヒは前置きしてから、知っていることを教えてくれた。
 おれが戻されたのは、後宮に集められた姫たちの一人が主導したこと。
 やきもちだったんだって。
 政治的にどうこうっていうのは、その時点ではなかったらしい。
 でも今は違う。
 よその国とのつながりや、王宮の中での縄張り争いみたいなので、水面下でごちゃごちゃしてるって。
 『聖女』の身柄がどこにあるのか、『聖女』は誰の味方をしているのかっていうのは、政治をしている人にとっては大きなことなんだそうだ。
 だからおれの安全のために、おれの身柄はミリヒに――『世界の守り人』に預けられた。
 そんな理由で西の森は治外法権というか、どこの国のモノでもない状態で、逆におれを手に入れれば、もれなく西の森と妖精族がついてくるってことらしい。
 たくさん結界や護衛がわんさかいるのはそのせい。
 しかも全部が全部、出所が違うと思った方がいいって、ミリヒは言う。
「ジュタは自覚がないようだけど、今、それくらい重要人物だからね」
「ただの穀潰しだけど」

 そう言ったらミリヒはものすごく大きなため息をついた。
 それから宝物を包むみたいな手つきで抱き込まれる。

「こんなに素敵な祈りをささげる人が、何で穀つぶしなわけ? ホントは『世界』だって取り合っているくらいなのに」

 ……ん?

「取り合うって……『世界』ってひとつじゃねえの?」
「ん~……ひとつと言えばひとつ。けど、たくさんの人知を超える存在の集合体、って感じ」
「あ、そうなんだ」
「納得しちゃうとこが、ジュタだよね」

 くつくつと喉の奥でミリヒが笑う。

「へ?」
「人知を超える存在は神であり、無二である。そう思う人が多いのに、ジュタは違う。祈りの方向は至高の方へ向かっているから、ちゃんと自分よりも上の存在があると認めていて、それが唯一無二ではなく万遍ない。だから『世界』に好かれる」
  
 ああ、だって日本人だからねって思った。
 
「おれが育ったところは、そういう場所だったんだよ。何にでも神さまが宿るんだ」

 八百万の神様がいる国。
 仏を奉る寺だって、お天道さまに顔向けできないようなことはしちゃだめで、クリスマスツリーを飾っちゃうような国。

「興味深いな……でも、その話はまた今度ゆっくり」
「うん」
「今は違う話をしよう。ジュタが何を思っているのか、たくさん聞かせて」
「思うこと?」
「そう。ぼくらが君から取り上げたもの、君に我慢させてしまったもの、君が欲しいと思うもののこと」

 それで、たくさん話をしたんだ。
 おれは目に薬を貼ったままで、ミリヒはおれを腕に囲ったままで。
 

 あ、寝てた。
 気がついたらベッドの中にいて、今度はちゃんと周りが見えていた。



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