狼の 森の子

たかせまこと

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リコの事情

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 静かに語られたリコの事情は、たぶん、エルフ族の秘密と言うべきことだ。
 ラニの中で、親という存在なくいつのまにか自然と発生する子どもがいるのだという。
 それはエルフ族と言うよりは、精霊に近い存在。
 里の中では『森の愛し子』と呼ばれる子どもたちは、ほとんどが里の中で、里の住人たちに大事にされて一生を過ごす。
 ごくまれに外からの呼び声に従って里を出る子がいて、そういった子どもは魔法という不思議をおこす、大きな力を持つという。
 確かに世界には魔力と呼ばれる力を持つモノがいて、魔法なんていう不思議な技はその魔力によっておこされるし、時折現れる迷宮や、魔獣なんてやたらめったら強い獣は、魔力によって生み出されると聞いた。
 その、魔力を持つ『森の愛し子』たちは、呼び声に従って里を出て、何に呼ばれているのかを探すのだそうだ。

「わたしは……兄さまに会わねばならないと思ったのです」

 リコはそう言った。

「兄?」
「辺境伯の元にいると聞きました。わたしと同じようにラニで生まれた『森の愛し子』です」

 なるほど、それで辺境か。

「どこにいるのか、知っているのか?」
「いいえ。でも行けばわかります……兄さまの木があるはずですから」
「そうか」

 そこまで話したリコは、少し迷うように目を伏せた。
 ぎゅっと手を握りしめ唇をかんでから、意を決したようにひたと俺に視線を据えた。

「お願いがあります」
「何だ?」
「わたしが、わたしを見つけるまで、一緒にいて……いいえ、わたしが何を見つけるのか、見届けてください」

 あまりの必死さに、笑みがこぼれた。
 何を言うのかと思ったら。

「ああ、いいぞ」

 そう応えた途端に、ぱあぁっとリコの顔が輝いた。
 本当にこいつはかわいい。

「用心棒としてだけではなく、です」
「ん?」
「わたしは……わたしは、あなたにずっとそばにいて欲しいのです……グレイに、たくさんのことを教わりたいのです」

 まっすぐな視線に、気がついた。
 まだまだ子どもだと思っていたけれど、これは恋情を含んでいるってことか?
 ジワリとリコの目に涙が浮かび始めるけどそこに色はなくて、さっき大泣きと同じように、ただ受け入れて欲しいという気持ちしか見えない。
 これには参った。
 たぶん、この恋情、リコ自身は無意識でまだ気がついていないヤツだ。

「リコ」
「はい」
「先のことはまだだ」

 他に言いようがなくて、俺は半分逃げ口上だなと思いながら、リコに告げる。

「どういうことですか?」
「お前はこれから『自分を探す』んだろ? 先のことはそれからだ。少なくとも、俺はお前が何かを見つけるまでは見届けてやる」
「……はい」

 手を握ってそう言い聞かせたら、リコはポロポロと涙を流しながらしっかりと頷いた。


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