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18-002

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「どうしますか?  ひつきの件は」

冨田はあまり気乗りしない様子で、科乃に切り出す。

「そうですねえ」

科乃も嘆息しながらポツリとこう言ったあと、沈黙してしまった。

直観神理でも、ひつきのその後の足取りはつかめていないのである。

現時点で何かわかる可能性があるとしたら、科乃の霊媒能力を通してくらいだが、そっちのほうも音沙汰無しであった。

冨田の意見としては『ほっとくいうわけにもいかんでしょう』ということだったが、かといって実質どうにもできないのである。

「その……前の時はどうしたんでしょうね?  滋野さんの時は」
科乃は、ふと思いついたように言った。

「一応調べてはみたんですが」
冨田は腕組みしながら答える。何せその周辺の資料は、肝心な部分がほとんど散逸したり、故意に失われたりしているのだ。

「まあ、その辺りからどうにかしていくしかありませんなあ」

冨田は目の前の茶の残りをぐっと一息で呑んで、ややくたびれた様子言った。骨の折れる作業なのは目に見えているが、やるしかないのだ。

事の性質から言って、誰かに手伝ってもらうのも難しい。

「塩見さんに手伝ってもらう……のも少し厳しいですかね」

冨田の疲れた顔を見て、科乃は考え込んだ。

塩見はこういう裏方仕事にはあまり向いていない。口が軽いわけではないが、少し迂闊な部分があるので、口を滑らせてしまう危険もある、と科乃は考えている。

目の前の老人も迂闊といえば迂闊なのだが、物事の機微はきちんと弁えているので、そういう部分では信用していた。

「そういや、お姫さんは塩見の講務長続投をご希望やそうで」
冨田は首を回して、コキコキ鳴らしながら口を開く。

ええ、と科乃は短く答えた。

塩見を講務長から解任する、という意見はちらほら出ていて、一件落着したことだしそろそろ、という流れになりかけていた。

だが科乃は、本部の幹部達と支部長会議に〝自分は塩見がその任に留まることを望んでいる、という通達を正式に送ったのだ。

望んでいる、というだけなので別に強制力はないが今の教団の雰囲気からしてこれで決まりだろう、と冨田は見ている。

「意外ですなあ。あの男とお姫さんは合わんと思うとりましたが」
「合う合わないは、関係ありませんよ」

科乃は唇を湿らせる程度に、そっと湯呑に口をつけた。

「しかし、塩見もこれからは、やりにくいでしょうな。今回の件であいつの発言力もガタ落ちやろうから」

はあ、と相槌とも何ともつかぬような声を発しながら、科乃は妙な顔をする。


「だから、まかせようと思うんですけど」


当然ではないか、と言わんばかりの口調だった。

『このお姫さん、見た目はかわいいけど、やることは本当にエグい』

と、冨田は思ったが口には出さない。言えば不機嫌になるのはわかっているからだ。
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