上 下
93 / 124
10 接近する二つの現実

10-004 その場所は

しおりを挟む
「……LCCの講座は、別館でやっておりますので、こちらの階段を上がり左手奥の廊下を進んでいただくことになります」
ようやく、受付嬢が案内を始める。

「別館の入り口まで行けば、LCCの係の者がいると思いますので、あとはそちらでお聞きになってください。基本的にまっすぐだけなので、迷うことはないと思いますが、途中でわからなくなったら案内板をご確認ください」
と、素っ気なく言われた。

「二階なんですね」

階段を上がりながら、守は疑問を口に出す。別館と本館は渡り廊下で繋がっている、とは未夜に聞いていたが二階で繋がっているとは思わなかった。何となく妙な作りに感じる。

それはそのままLCCと、それ以外の直観神理の信者の、心理的な距離感のような気がした。

「そういや別館の鍵開けてくれ、って言ってたけど、どこの鍵なんですかね?」

ふと、須軽が口を開いた。思わず守も、あっ、と小さく声を上げてしまう。もし二階の渡り廊下部分の鍵なのであれば、あまり意味がない気がする。そこまで来るのに、本館の中を通らなければならないのだ。

「実際行ってみなきゃわからないですが、一階のどこかにも戸があるんじゃないでしょうか?」

二階渡り廊下だけが出入り口だとは考えにくい。

「うーん。まあ、探してみますよ」  

須軽はあくまで楽観的に言った。リノリウムの床を、二人の男が進んでいく。途中分かれ道もあったが、受付の女が言った通りまっすぐ歩いていくと迷うことはなかった。

薄暗い先に、渡り廊下が見えた。向こうには扉もある。あれが別館の入り口だろう。空中に、橋のような感じで廊下が接続されている。

「?  どうしたんですか?」

不意に、須軽が歩くのを止めた。今までと変って、真剣な面持ちで空間を凝視している。

「何なんです?」

守は、何か異様な雰囲気を感じ取り、周囲を注意深く見まわしてみた。勿論何も見えない。須軽がちらりと守の顔を見た。

基本的に須軽は無表情だったが、一瞬だけ何か逡巡するような色が瞳に浮かぶ。

「……いえ、何でもありません」

口早にこう言って、須軽はまた歩き始める。

聞くのも憚られる気がして、守はもう気にしないことにした。渡り廊下の向こうにも人影は見えない。

廊下を渡り、扉のノブに手をかける。鍵はかかっていなかった。何の抵抗もなくノブは回転する。
しおりを挟む

処理中です...