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10 接近する二つの現実

10-003

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当日、守は駅で須軽と合流して、直観神理の本部に向かう。

鍵を開けたあとの未夜への合図等も、特に決めていなかった。

須軽は、まあ、なにか上手いことやるんでしょう、と楽観的な様子である。

あれから守と須軽は相談して、結局鍵を開ける役は須軽がやることになった。

そうなったわけは色々あるのだが、とりあえず須軽はLCCではおまけみたいなものなので、自由に動きやすいだろう、というのが一番の理由である。

「まああいつにとっては、誰が開けたっておんなじだから、文句は言わないと思いますよ」
というのは、須軽の弁。

十八時半に、直観神理本部の建物の前についた。もうだいぶ暗い。

LCCの講座は、別館らしいのでここからまた、もう少しかかる。講座が始まるのは十九時なので、充分間に合うだろう。

未夜はどこかに来ているだろうか、と思って守は周囲を見渡してみたが姿は見えなかった。

石畳の上を歩いて、本部の建物に入る。正面玄関には、白妙会館のものを二回り大きくしたような受付があった。

LCCの講座に来た、というと瞬間、受付嬢にちらっと嫌悪の混ざった一瞥をもらったが、すぐに何か風変わりなものを目撃したような表情になった。

守も須軽も、普段LCCの講座に呼ばれるような人間と雰囲気がだいぶ異なっているのだろう。

須軽に至っては、いつもの作業着で来ている。

ちなみに、守が気になって、なぜ普段から作業着を着ているのか?  と聞いた時には、
「ポケットがたくさんあって便利なので」
という、よくわからない答えが帰ってきた。

今日はその上に、茶色い手提げの旅行カバンを持っている。

いらっしゃいませ、と挨拶する受付嬢に名前を告げると、手早く目の前のPCにキーボードで何やら入力したあと、
「あら、あなた方お身内じゃありませんのね」
と、言われた。

最早、露骨に不愉快な人間を相手にする態度だ。

察するにお身内というのは、直観神理の信者を表す言葉だろう。

守は未夜の話を思い出していた。本来ならLCCに入会するのにも、信者にならなければならないのだ。佐一が許可したにしても、信者ではない人間がここに来るのはルール違反だ、と受付嬢は言いたいのだろう。

もし彼女がLCCや佐一に反感を持っているのなら、尚更気に入らないと思われる。

「あの、死んだ父がLCCの会員だったんです。勿論直観神理の信者でもあったんですけど」
守は、忘れずに言い足した。
「一日だけ見学させてもらえないかと思って、佐一さんにお願いしたんです」

佐一の名前が出ると、一瞬だけ受付嬢の片方の眉が鬱陶しげに跳ね上がる。

「お父さんのお名前は?」

無愛想に問うてきたので、守は〝古谷宗州です〝と丁寧に告げた。

受付嬢は、再びPCのキーボードを叩き、わかりました、と不承不承言った。
「そちらは?」

受付嬢の矛先が須軽に向いた。
「えーと、僕の友人の須軽為綱さんです。一緒に見学することになってるんです」  
守は既に話も通っていて決定していることなのだ、というニュアンスを強調する。

受付嬢は、目の前の電話の受話器を取った。おそらくLCCの誰かに問い合わせているのだろう。

どうも、と須軽さんは、屈託なくニコニコ笑いながら手を上げた。
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