上 下
90 / 124
10 接近する二つの現実

10-001

しおりを挟む
僕と須軽さんが、直観神理の教主に会ってから一週間ほど経って、LCCの会合に出席する日となった。

週に二回やっているのだから、最短ならもっと早く行けるはずだったのだが、LCC側の都合でこの日取りになったらしい。

須軽さんは、
「俺、最近ちょっと休みすぎだったから、これくらい間が開いたほうがちょうどいいですよ」
と、言っていた。白妙会館の事務室からの連絡を伝えるために電話した時のことである。

「どういうことですか?」
「ああ、俺普段は倉庫で仕分けやってるんですよ。探偵は休みの日にやってるんです」

初耳だ。

「須軽さんって、探偵が本業じゃなかったんですか?!」

「違いますよ。言ってませんでしたっけ?」

須軽さんはさらりと言ったあと、結構休み代わって貰ったから当分休日無しだなあ、ととぼけた口調でぼやいていた。

まあ、仕事はきちんとやってもらったので他で何をやっていようが、かまわないといえばかまわない。

今や事件の全容はだいたい明らかになった。科乃さんに会ったあと、約束通り須軽さんと小人が直観神理の敷地内で何を話していたのか聞いたのだ。

小人からも直接聞いたほうがわかりやすいだろう、ということでわざわざ僕の家まで移動して、例の薬を瞼に塗り彼らからも話を聞いた。

未夜の話、冨田の話、科乃の話、それにこの時に聞いた話を、全て合わせると確かに須軽さんの言っていた通り、おおよそ事件の全貌が把握できる。

「どうします?」

この時、僕は須軽さんに問われた。

「表向きの依頼は、飯豊志摩さんの行方を調べること。これはまあ一応わかりましたが建前なので置いておくとして……。本当の依頼はお父様が死んだ原因を調べること、でしたよね?」

殺した犯人を捕まえることだ、と言いたいところだったが、今回の事件にそんな人間はいない、ということが最早理解できてしまった。強いていえば、直接手を下したのはひつきだが、彼女(と言っていいのかどうかわからないが)に対して憎しみや怒りは沸いてこない。

「LCCの会合なんかもうどうでもいい、っていうんなら、ここで止めてもいいと思います」

「いえ、行きますよ。やっぱり佐一って人には興味があります」

これは本当のことである。自分の父親がその人物や、あるいはその人物の行動や言動のどこにそんなに惹かれたのかが気になった。

「どっちかって言うと、俺に付き合ってもらう感じになっちゃいますね。料金は、今までの分だけで結構ですよ。LCCの講座に行く日のお代はいただかなくていいです」

「いえ、そういうわけにはいきません。その日の分も払います」

別に僕が義理堅い性格なわけではない。後々、須軽さんにその時の話を聞いておきたいのだ。

……当日はおそらく早い段階から別行動になるだろうから。


須軽さんに、お金を受け取ってもらうことを了解してもらい、この日の通話は幕を閉じた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

処理中です...