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9 魔術師の領土を侵犯

9-002 聖なるもの

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科乃くらい、自分もこぎつけることができれば、あとはどうにでもなると思っていたのだ。

極度に用心深いのか、それとも何か知っているのか。少なくとも、科乃は自分には制御できない。

あとは、ひつきしかない。ひつきさえ思い通りになれば、科乃の力を削れる。LCCの会員で佐一に近い者や、T.M.Mの社員の中では、講務長が実質的に教団を動かしているので、講務長さえどうにかできれば良い、という意見が多かったが佐一に言わせればそれは完全な間違いだった。講務長は確かに、運営を任されているかもしれない。

しかし、科乃という人間は言ってみれば、この宗教団体が成立している根拠のようなものなのだ。直観神理は言ってみれば、特に個性的な教義があるわけでも、攻撃的な姿勢があるわけでもないぼんやりした団体である。

行法の合同合宿はよくやっているが、それもやりかたさえわかってしまえば、後は一人でもできるような内容のものが多い。所属していてもあまり負担がなく、気楽といえば気楽なのだが、逆に言えば一緒にいる意味があまりないのだ。

宗教団体として、ここが存立できている理由は、あの普段何をしているのかよくわからない、初代教祖の子孫である十代の娘をトップに据えている、という以外にはない。

平素は信者達は意識していないが、科乃は直観神理の中で〝聖なるものヌミノーゼ〝として機能しているのだ。

ひつきをそれの代わりにできれば、仮に独立してもLCCの中のかなりの人数が自分についてくるだろう、と佐一は考えていた。ただそれが思いのほか難しいのだ。

ひつきはもう手に入れているが、コントロールできない。コントロールできないどころか、おとなしくさせているだけで精いっぱいなのだ。

神様のようなものだ、とかいや、神様そのものであるというような話はLCCの中の、古参信者達に散々聞いていたが、佐一には〝自分ならどうにかできる〝という自信があった。

自分はただの人間ではない、自分は選ばれし者だ。

佐一は奢っているつもりもなく、ごくごく自然にそう考えていたのだが、そうは問屋が卸さなかった。

反省などしている時間はない。佐一の力の源泉ともいえる連中が、ひつきが来てからどうにも、言うことをきかなくなってきているのだ。彼らの力を使えないのなら、講座など開いていても意味はない。

早急に手を打たなければ、これからの飛躍が望めないだけでなく、今まで持っていたものまで失ってしまう。ひつき自身も、今はまだお気に入りの人形のおかげでおとなしいが、いつまであのままなのかは、誰にもわからない。

……科乃とひつき、どちらのほうが与し易いか?

作業をしている手を止め、佐一は今一度考えてみる。

ひつきだ。やはりひつきのほうをどうにかするしかない。精神年齢は幼いが、ひつきとはまだ、コミュニケーションが可能だ。

二、三年に一度、LCCの会員限定で『御開帳』でもして、ちょっと見せてやればいい。基本的に、ずっとおとなしくしていてもらえればそれでいいのだ。

そうだ。佐一はハタと思い当たった。
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