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7 野をひらく鍵

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「それにな、死ぬる云々は置いといて、道化という立場も別に悪いもんやない。……〝その上、道化師には、なかなか馬鹿にならぬもう一つの長所があることを認めていただきたいものですね。つまり道化師だけが、率直で誠実なのです〝っちゅうてな」

「またー。今度はなんですそれ?」
という未夜の問いに、冨田は〝痴愚神礼讃〝と短く答えた。

「どんどん墓穴掘ってる気がしますねえ」

「いや、とにかくやな」

未夜に抗弁している冨田の前の机上で、電話がなる。うむ、と変な声を出して、冨田は黙ってしまった。

「取らないんです?」

未夜に促されて、冨田は不承不承受話器をとる。

「あ、それはですな、いや。はあ。まあ。いえいえ!  はい」

冨田は電話の向こうに頭を下げながら、ひたすら恐縮している様子であった。

「うん、お姫さんのほうの準備は整うたみたいやな!」
受話器を静かに置いたあと、何かを吹っ切るように、冨田が宣言する。

未夜は呆れた表情でその様子を眺めていたが、〝じゃ、そろそろ行きましょうか〟  と二人に声をかけて席を立つ。

「まあなんや、君らも色々がんばってな」

文書保管室を出て行く三人の背中に、冨田の励ましとも、何か同情のようにも受け取れる言葉が投げかけられた。

「科乃様、ってどんな人なんですか?」

緊張を紛らわすため、守は未夜に訊ねてみる。

「科乃様ですかあ……。なんていうか、そうですねえ。アンニュイな人です」

アンニュイ?  と守が訊き返すと
「気怠げな、っていいますか、いつも疲れてる感じで、周りのこととか全部突き放して見てるように、あたしには思えます」
と、未夜は思いの外真面目に答えた。

「椋戸辺科乃さんは、どんな評価なんです?」

ふと、思い出したように、須軽が会話に入ってきた。

「評価、って?」

「公調での評価ですよ。社会への影響力の。講務長さんや佐一よりは、やっぱりだいぶ下なんですか?」

不思議そうな未夜に、須軽が淡々と喋る。

「ちょっとお兄さん!  こんなところで、そんな話題振らないでくださいよ!」
未夜は、珍しく慌てて須軽を叱りつけた。

「いや、周りに誰もいないからいいかと思ったんですが」

何を考えているのかわからない茫洋とした様子の須軽を、未夜はしばらく睨んでいたがやがて根負けしたように、しょうがないですねえ、とため息をついて話し始める。

「科乃様の評価はCプラス。影響力っていう意味では中のちょい上ですかね。中、小規模集団のオピニオンリーダー、ってとこですか」

ふくれっ面で未夜が答えた。

「それって、他の団体の指導者とかと比べてみて、どうなんですか?」

『Cプラス』とだけ言われても、守にはイメージがよくつかめない。

「メッチャ低いです。だって、全国に十七個支部がある宗教団体のトップですよ?  Cプラスっていったら、ちょっと大きい小学校のPTAの会長とかそれくらいです」

性格の問題なのか、喋り始めたら喋り始めたで、未夜は科乃を一刀両断で評してしまった。

話を聞いても、守にはいまいち科乃がどういう人間なのかわからなかった。

しかしここまできたらもう腹を括るしかない、と気を引き締めていると、
「ま、そんなにお高くとまってるヒトではないんで、気を楽にしていってください」
と、未夜に背中をポン、と叩かれた。
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