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7 野をひらく鍵

7-018 にせもの

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「科乃様も今そんな感じになってますよね」

未夜が口を開くと冨田は〝きっついなー、未夜ちゃん〝とぼやく。

「だってそうでしょ?  科乃様、教祖だけど、権力なんかほぼないも同然だから、何もできない。でもみんなの不満や希望を一身に集めて好き勝手言われてる。そして今この教団を実質的に動かしてる、講務長さんや佐一は上手く科乃様を利用して、自分に有利にことを進めようとしてます」

言われてみればその通りだな、と守が考えていると、
「まあ、教祖さんを利用するやり方は、確かに身代わりって言い方もできるかもしれませんね。そして、利用できない、って悟った佐一は今度はひつきを使おうとしてる、と」

  未夜の言葉を受け、須軽が微妙にやるせない様子で言った。

「まあ、お姫さんも生き神様というほど崇められとるわけではないが、確かに期せずして、そういう位置に行ってしもうた、という感はあるな……。そういう話なら、御霊やら祓戸の大神よりももっとふさわしいたとえがある。『モック・キング』や。日本語にすると……うーん、まあ、偽物の王、『道化の王』っちゅう感じになるかな」

興が乗ってきたようで、冨田の口調に熱が入り始めた。

「古代ローマでやっとったサトゥルナリア、という冬至のお祭りにな、このお祭りの間だけ権力を委ねられる特別な王様が選ばれたんや。この期間だけは好き勝手に振舞うて許される。酒池肉林も自由自在。まあ、羨ましいこっちゃ。宝くじに当たったようなもんやな」

冨田は歯を見せて笑顔をつくる。

「しかしその後がようない。祭りが終わったら玉座から引きずりおろされて殺される。あら、かわいそう、っちゅうようなもんや。わりと世界中で見られるモチーフらしい。つまりこれも、原理としてはおんなじ。罪やら穢れやら、都合の悪いモノは死にゆくもんに全部持ってってもらお、というドあつかましい発想」

よほど面白いらしく冨田は、カカカカッと大口を開けて笑っている。

「冨田さん、科乃様のたとえでそれを出すって、ちょっと……。大丈夫なんです?」

未夜が心配そうに訊ねる。

「お、おお」
指摘されて我に返ったのか、冨田は気まずそうによくわからない呻き声を発した。

「いや、お姫さんはな、こういう話わりと好きなんや。何が面白いんか知らん、いっつも熱心に聞いとる。まあ、大丈夫や。大丈夫」

冨田のこの喋り方は、自分に言い聞かせているようにも聞こえる。
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