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7 野をひらく鍵
7-016 御霊
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「正確にいうとな、ひつきは『神様の死体』ではない。神様や。ほんでまあ『人間の死体』を媒介にして動いたり喋ったりしとる」
はあっ!? と、守が裏返ったような声で、喉を震わせる。
「じゃあ、滋野って人が誰か殺した、ってことですか?」
「ちゃうちゃう。そういうことやない。少なくとも殺したのは滋野ではない」
冨田は慌てて否定した。
「どっから話したもんか……。まあ、今から話すことはだいたい滋野が考えとったことを、ワシが補強したような感じなんやけど」
身を乗り出すようにして、冨田はポツポツ話し始める。
「そもそもな、滋野は祓戸の大神の四柱の神さんのことを、『御霊』のようなもんやろう、と考えとった。これは結論として大当たりやったわけや。この辺りはまあ、わりと非凡なところもあるな……。御霊ってわかる?」
と、冨田は眼前の三人に訊いた。
全員が当然のように否定する。
「天神さんとか知らん? 菅原道真」
「菅原道真くらいは知ってますが……」
守が口を開くと、冨田は〝おお、さすが受験生〝といってニカっと笑った。
「菅原道真は、簡単にいうたら政争に敗れて左遷された先の大宰府で死んでしもうた人やな。で、死んだ後に政敵が病死したり、御所に雷が落ちたり、天変地異がばんばか起こったもんで、これは道真が怒っとるのが原因や、と当時の人は考えた。それで天満宮という神社を造って、道真を天神さんとしてお祀りしたら、まあうまいこと治まりましたよ、という話」
「それが御霊なんですか?」
「ウン。まあそう。この天神さんはな、道真さんが学問が得意やった、ということで学問の神様と思われたりする。受験生が願掛けしたりするわな。あと、大事なところで疱瘡神の絵柄にもなった。疱瘡っちゅう怖い病気を防いでくれる、と思われたんやな」
「最初に奉った時と全然関係ない話になってますねえ」
未夜が呆れたようにぼやく。
「要するになんか、天神さんみたいに深い恨みを抱いて死んだような人とか、近世では佐倉宗五郎みたいな苦しんどる人々のために死んだとか、尋常でないような死に方をした人を神様として祀って、悪いもんを祓うてもろうたり、色々願掛けしたりするの」
「祓戸の大神って神様が、その御霊と同じようなものなんですか?」
須軽はどうにも合点がいかない様子であった。守も同じような同じような気持ちである。ウン……と、一つ唸って、冨田はしわぶきをした。
「これはな、柳田國男さんという昔の学者さんもいうとることなんやが、元々御霊というのは古代において、わざわざ人を殺して作っとったのではないか? という話なんや」
守が、思わず生唾を飲み込んでしまった、ごくり、という音が室内に大きく響く。
はあっ!? と、守が裏返ったような声で、喉を震わせる。
「じゃあ、滋野って人が誰か殺した、ってことですか?」
「ちゃうちゃう。そういうことやない。少なくとも殺したのは滋野ではない」
冨田は慌てて否定した。
「どっから話したもんか……。まあ、今から話すことはだいたい滋野が考えとったことを、ワシが補強したような感じなんやけど」
身を乗り出すようにして、冨田はポツポツ話し始める。
「そもそもな、滋野は祓戸の大神の四柱の神さんのことを、『御霊』のようなもんやろう、と考えとった。これは結論として大当たりやったわけや。この辺りはまあ、わりと非凡なところもあるな……。御霊ってわかる?」
と、冨田は眼前の三人に訊いた。
全員が当然のように否定する。
「天神さんとか知らん? 菅原道真」
「菅原道真くらいは知ってますが……」
守が口を開くと、冨田は〝おお、さすが受験生〝といってニカっと笑った。
「菅原道真は、簡単にいうたら政争に敗れて左遷された先の大宰府で死んでしもうた人やな。で、死んだ後に政敵が病死したり、御所に雷が落ちたり、天変地異がばんばか起こったもんで、これは道真が怒っとるのが原因や、と当時の人は考えた。それで天満宮という神社を造って、道真を天神さんとしてお祀りしたら、まあうまいこと治まりましたよ、という話」
「それが御霊なんですか?」
「ウン。まあそう。この天神さんはな、道真さんが学問が得意やった、ということで学問の神様と思われたりする。受験生が願掛けしたりするわな。あと、大事なところで疱瘡神の絵柄にもなった。疱瘡っちゅう怖い病気を防いでくれる、と思われたんやな」
「最初に奉った時と全然関係ない話になってますねえ」
未夜が呆れたようにぼやく。
「要するになんか、天神さんみたいに深い恨みを抱いて死んだような人とか、近世では佐倉宗五郎みたいな苦しんどる人々のために死んだとか、尋常でないような死に方をした人を神様として祀って、悪いもんを祓うてもろうたり、色々願掛けしたりするの」
「祓戸の大神って神様が、その御霊と同じようなものなんですか?」
須軽はどうにも合点がいかない様子であった。守も同じような同じような気持ちである。ウン……と、一つ唸って、冨田はしわぶきをした。
「これはな、柳田國男さんという昔の学者さんもいうとることなんやが、元々御霊というのは古代において、わざわざ人を殺して作っとったのではないか? という話なんや」
守が、思わず生唾を飲み込んでしまった、ごくり、という音が室内に大きく響く。
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