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7 野をひらく鍵
7-007 冨田
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「お待たせです~。じゃ、まず文書保管室に行きましょう」
事務員との話を済ませ、未夜は第一声でこんな言葉を発する。
守と須軽が問い質すと、どうも科乃は何かの都合でまだ会えないので、冨田とでも話して時間をつぶして欲しい、ということらしい。二人としても、冨田に聞きたいことはあったので、願ったり叶ったりではある。
おとなしくついていくと、さっさと勝手知ったる様子で未夜は重い鉄製の扉を開けて、その先へ入って行く。鍵こそかかっていなかったが、どうも関係者以外が立ち入るようなエリアでないことは、守にも確かなように思えた。
階段を降りていくと、すぐに『文書保管室』があった。先程まで居たのは一階なので、ここは地下ということになる。
オフィスドア風の簡素な扉だが、さっきの一階の扉のように金属製であった。ここも鍵はかかっていない。
未夜は躊躇なくドアを開く。
「すいませーん。おっはようございまあす」
未夜の大声が、広い室内に響いた。
守が想像していたよりも、文書保管室はずっと大きい。軽く、学校の図書室二部屋分くらいはある。安っぽいが、頑丈そうなスチールの棚がズラリと並び、ファイルや本がびっしり並んでいた。
「おお、未夜ちゃんかあ。ようきたようきた。まあお入り」
既に入っているのだが、奥のほうからこんな声が聞こえてくる。
やがて、冨田が歯を見せて笑いながら歩いてきた。冨田は、小太りで眼鏡をかけた人の良さそうな老人であった。
歳のわりに体つきが大ぶりである。左右に、揃えたように白髪が残っている他、頭には髪がなかった。
どうぞどうぞ、と挨拶のように言ったあと、冨田は三人を奥に導く。
一番奥まった場所には、簡単な事務机と椅子が設えられていた。周辺に、パラパラとパイプ椅子が三つある。どうやら即席の会談場であるらしかった。
「まあ、お座り」
促されるままに三人は席につくか、と思われたが未夜は椅子を引きずって、ズリズリと後方に移動させている。
「んん? なんで、うしろのほう行くの?」
冨田が訊ねたが、
「だって、メインはこのお二人でしょお?」
と素っ気なく答えて、未夜はそっぽを向いてしまった。
しばらく冨田は目を丸くしていたが、やがて何事か察したようで、ヒヒヒヒッ、と愉快そうな笑い声をあげる。
「まあそらそう。そらそうや。未夜ちゃんの言う通り……。で、どっちが付き添いのお兄ちゃんで、どっちがテキヤのお兄ちゃん?」
急にふられて二人は驚いたが、守としては声を上げないわけにはいかない。
「結構言われることありますから、そのたびに否定してるんですけど、今は僕の家はテキヤやってませんよ」
おお、こっちか、と言って、冨田はひょいっと身体を守の方へ向ける。
「なんやあ、お兄ちゃんはテキヤ気にいらんのかあ」
エビスのように相好を崩し、冨田は呼びかけた。
「別に気に入らない、ってことはありませんけど、世間ではあまりよく思われてませんから」
守が返すと、冨田は急に顔をキッと引き締める。
事務員との話を済ませ、未夜は第一声でこんな言葉を発する。
守と須軽が問い質すと、どうも科乃は何かの都合でまだ会えないので、冨田とでも話して時間をつぶして欲しい、ということらしい。二人としても、冨田に聞きたいことはあったので、願ったり叶ったりではある。
おとなしくついていくと、さっさと勝手知ったる様子で未夜は重い鉄製の扉を開けて、その先へ入って行く。鍵こそかかっていなかったが、どうも関係者以外が立ち入るようなエリアでないことは、守にも確かなように思えた。
階段を降りていくと、すぐに『文書保管室』があった。先程まで居たのは一階なので、ここは地下ということになる。
オフィスドア風の簡素な扉だが、さっきの一階の扉のように金属製であった。ここも鍵はかかっていない。
未夜は躊躇なくドアを開く。
「すいませーん。おっはようございまあす」
未夜の大声が、広い室内に響いた。
守が想像していたよりも、文書保管室はずっと大きい。軽く、学校の図書室二部屋分くらいはある。安っぽいが、頑丈そうなスチールの棚がズラリと並び、ファイルや本がびっしり並んでいた。
「おお、未夜ちゃんかあ。ようきたようきた。まあお入り」
既に入っているのだが、奥のほうからこんな声が聞こえてくる。
やがて、冨田が歯を見せて笑いながら歩いてきた。冨田は、小太りで眼鏡をかけた人の良さそうな老人であった。
歳のわりに体つきが大ぶりである。左右に、揃えたように白髪が残っている他、頭には髪がなかった。
どうぞどうぞ、と挨拶のように言ったあと、冨田は三人を奥に導く。
一番奥まった場所には、簡単な事務机と椅子が設えられていた。周辺に、パラパラとパイプ椅子が三つある。どうやら即席の会談場であるらしかった。
「まあ、お座り」
促されるままに三人は席につくか、と思われたが未夜は椅子を引きずって、ズリズリと後方に移動させている。
「んん? なんで、うしろのほう行くの?」
冨田が訊ねたが、
「だって、メインはこのお二人でしょお?」
と素っ気なく答えて、未夜はそっぽを向いてしまった。
しばらく冨田は目を丸くしていたが、やがて何事か察したようで、ヒヒヒヒッ、と愉快そうな笑い声をあげる。
「まあそらそう。そらそうや。未夜ちゃんの言う通り……。で、どっちが付き添いのお兄ちゃんで、どっちがテキヤのお兄ちゃん?」
急にふられて二人は驚いたが、守としては声を上げないわけにはいかない。
「結構言われることありますから、そのたびに否定してるんですけど、今は僕の家はテキヤやってませんよ」
おお、こっちか、と言って、冨田はひょいっと身体を守の方へ向ける。
「なんやあ、お兄ちゃんはテキヤ気にいらんのかあ」
エビスのように相好を崩し、冨田は呼びかけた。
「別に気に入らない、ってことはありませんけど、世間ではあまりよく思われてませんから」
守が返すと、冨田は急に顔をキッと引き締める。
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