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5 磁場
5-024 才能
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未夜と別れた後、男二人は夕暮れの赤みがかった街並みの中を、ぶらぶら歩いている。
「さっき、未夜さんに小人見せてたんですか?」
守はたまらず、聞いてしまった。気になって気になって仕方がなかったのだ。横であの様子を見ながら、守はひやひやしていた。
「ええまあ。あの人何かちょっと、普通と違う感じがしたので……。試してみたんですけどね」
須軽は飄々と答える。
「紫微達小人が見えていたのか、見えていないのか、私にはちょっとはっきり判断がつきませんでした。多分見えてない、とは思うんですが」
「ひつきは、僕の家の地下室にあった棺桶の中身は、今どこにあるんですかね?」
守は、とりあえず一番気になっている疑問を口に出した。
「佐一が自分のためにご神体にしようとしてて……未夜さんの話だと、まだそうなってないみたいですから、まだ行方不明ってことか」
「いえ、他の人間はともかく、少なくとも佐一って男は、在りかを知ってるでしょう。おそらく何らかの理由で、ひつきを自由にできないんだと思います」
須軽は事もなげに言う。予想外の言葉に守は驚いた。
「佐一はひつきが欲しくてたまらないんでしょう? そして守さんのお父様がそれに加担していた。もしひつきの場所がわかっていないなら、お父様がお亡くなりになったあと、必ず守さんに適当な理由をつけて接触してくるはずです。何か知っている可能性がありますから。何もなかったんでしょう?」
守は思い起こしてみたが、特にそういう事はなかった。聞いてみると当たり前のことだ。
まあ、取りあえず佐一という男に会ってみれば色々はっきりするだろう、と考え、守はもう一つ、気になっていた質問をぶつけてみることにした。
「どう思いますか? あの未夜って人。あからさまに怪しい感じですけど」
「ああ、そうですね。怪しいっていえば怪しいんですが……」
須軽は黙考している。頭の中で未夜の印象をまとめているのだろう。
「あれは『嘘つきの才能』を持ってる人間ですね」
時々いるんですよ、ああいう種類のヤツ。と、須軽は考え考えしながら言った。
「多分、あまり良い暮らしはしてきてないでしょう。俺もそうだからわかるんですが……。だからやむにやまれず、嘘をついてきた部分があります。それで磨かれてきたってこともあるでしょうけど、それとは別次元の話で、あれは天性を持ってますね。良いことかどうかはわかりませんが」
須軽は守の顔を見て、どうもよくわかっていないようだ、と思ったようで
「嘘つきに必要な才能ってのはですね、頭の回転が速いこと、とかある種の自制心、とか色々あるんですが、一番は〝嘘をつき続ける状況を楽しめること〟なんです」
と、付け足した。
テキヤの口上もデタラメが多いが、言ってしまえばそんなことは、みんなわかっていることなのだ。
そういうその場限りの嘘ではなく、須軽はもっと人間の根本的な部分の話をしているようだ、と守は理解した。
「しかし、全部がまるっきり嘘だとは思えないですけど……少なくとも、すぐウラが取れる部分ではウソはつかないでしょう?」
「まあ、用心はするに越したことはありません」
須軽は、守の言葉を曖昧に受けたあと、心もち首を傾げ何か考えている。
「ただですね、今からちょっとおかしなこと言いますが……野球の才能持ってるヤツが野球選手になるとは限りませんし、絵の才能を持ってるヤツがみんな絵描きになるか? っていうとそんなこともないんですけど、嘘つきの才能を持ってるヤツは、みんなほぼ例外なく嘘つきですよ。私の経験からすると」
「さっき、未夜さんに小人見せてたんですか?」
守はたまらず、聞いてしまった。気になって気になって仕方がなかったのだ。横であの様子を見ながら、守はひやひやしていた。
「ええまあ。あの人何かちょっと、普通と違う感じがしたので……。試してみたんですけどね」
須軽は飄々と答える。
「紫微達小人が見えていたのか、見えていないのか、私にはちょっとはっきり判断がつきませんでした。多分見えてない、とは思うんですが」
「ひつきは、僕の家の地下室にあった棺桶の中身は、今どこにあるんですかね?」
守は、とりあえず一番気になっている疑問を口に出した。
「佐一が自分のためにご神体にしようとしてて……未夜さんの話だと、まだそうなってないみたいですから、まだ行方不明ってことか」
「いえ、他の人間はともかく、少なくとも佐一って男は、在りかを知ってるでしょう。おそらく何らかの理由で、ひつきを自由にできないんだと思います」
須軽は事もなげに言う。予想外の言葉に守は驚いた。
「佐一はひつきが欲しくてたまらないんでしょう? そして守さんのお父様がそれに加担していた。もしひつきの場所がわかっていないなら、お父様がお亡くなりになったあと、必ず守さんに適当な理由をつけて接触してくるはずです。何か知っている可能性がありますから。何もなかったんでしょう?」
守は思い起こしてみたが、特にそういう事はなかった。聞いてみると当たり前のことだ。
まあ、取りあえず佐一という男に会ってみれば色々はっきりするだろう、と考え、守はもう一つ、気になっていた質問をぶつけてみることにした。
「どう思いますか? あの未夜って人。あからさまに怪しい感じですけど」
「ああ、そうですね。怪しいっていえば怪しいんですが……」
須軽は黙考している。頭の中で未夜の印象をまとめているのだろう。
「あれは『嘘つきの才能』を持ってる人間ですね」
時々いるんですよ、ああいう種類のヤツ。と、須軽は考え考えしながら言った。
「多分、あまり良い暮らしはしてきてないでしょう。俺もそうだからわかるんですが……。だからやむにやまれず、嘘をついてきた部分があります。それで磨かれてきたってこともあるでしょうけど、それとは別次元の話で、あれは天性を持ってますね。良いことかどうかはわかりませんが」
須軽は守の顔を見て、どうもよくわかっていないようだ、と思ったようで
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「しかし、全部がまるっきり嘘だとは思えないですけど……少なくとも、すぐウラが取れる部分ではウソはつかないでしょう?」
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