上 下
61 / 124
5 磁場

5-024 才能

しおりを挟む
未夜と別れた後、男二人は夕暮れの赤みがかった街並みの中を、ぶらぶら歩いている。

「さっき、未夜さんに小人見せてたんですか?」

守はたまらず、聞いてしまった。気になって気になって仕方がなかったのだ。横であの様子を見ながら、守はひやひやしていた。

「ええまあ。あの人何かちょっと、普通と違う感じがしたので……。試してみたんですけどね」

須軽は飄々と答える。

「紫微達小人が見えていたのか、見えていないのか、私にはちょっとはっきり判断がつきませんでした。多分見えてない、とは思うんですが」

「ひつきは、僕の家の地下室にあった棺桶の中身は、今どこにあるんですかね?」

守は、とりあえず一番気になっている疑問を口に出した。

「佐一が自分のためにご神体にしようとしてて……未夜さんの話だと、まだそうなってないみたいですから、まだ行方不明ってことか」

「いえ、他の人間はともかく、少なくとも佐一って男は、在りかを知ってるでしょう。おそらく何らかの理由で、ひつきを自由にできないんだと思います」

須軽は事もなげに言う。予想外の言葉に守は驚いた。

「佐一はひつきが欲しくてたまらないんでしょう?  そして守さんのお父様がそれに加担していた。もしひつきの場所がわかっていないなら、お父様がお亡くなりになったあと、必ず守さんに適当な理由をつけて接触してくるはずです。何か知っている可能性がありますから。何もなかったんでしょう?」

守は思い起こしてみたが、特にそういう事はなかった。聞いてみると当たり前のことだ。

まあ、取りあえず佐一という男に会ってみれば色々はっきりするだろう、と考え、守はもう一つ、気になっていた質問をぶつけてみることにした。

「どう思いますか?  あの未夜って人。あからさまに怪しい感じですけど」

「ああ、そうですね。怪しいっていえば怪しいんですが……」  

須軽は黙考している。頭の中で未夜の印象をまとめているのだろう。

「あれは『嘘つきの才能』を持ってる人間ですね」

時々いるんですよ、ああいう種類のヤツ。と、須軽は考え考えしながら言った。

「多分、あまり良い暮らしはしてきてないでしょう。俺もそうだからわかるんですが……。だからやむにやまれず、嘘をついてきた部分があります。それで磨かれてきたってこともあるでしょうけど、それとは別次元の話で、あれは天性を持ってますね。良いことかどうかはわかりませんが」

須軽は守の顔を見て、どうもよくわかっていないようだ、と思ったようで
「嘘つきに必要な才能ってのはですね、頭の回転が速いこと、とかある種の自制心、とか色々あるんですが、一番は〝嘘をつき続ける状況を楽しめること〟なんです」
と、付け足した。

テキヤの口上もデタラメが多いが、言ってしまえばそんなことは、みんなわかっていることなのだ。

そういうその場限りの嘘ではなく、須軽はもっと人間の根本的な部分の話をしているようだ、と守は理解した。

「しかし、全部がまるっきり嘘だとは思えないですけど……少なくとも、すぐウラが取れる部分ではウソはつかないでしょう?」

「まあ、用心はするに越したことはありません」  

須軽は、守の言葉を曖昧に受けたあと、心もち首を傾げ何か考えている。


「ただですね、今からちょっとおかしなこと言いますが……野球の才能持ってるヤツが野球選手になるとは限りませんし、絵の才能を持ってるヤツがみんな絵描きになるか?  っていうとそんなこともないんですけど、嘘つきの才能を持ってるヤツは、みんなほぼ例外なく嘘つきですよ。私の経験からすると」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夜鴉

都貴
キャラ文芸
妖怪の出る町六堂市。 行方不明に怪死が頻発するこの町には市民を守る公組織、夜鴉が存在する。 夜鴉に在籍する高校生、水瀬光季を取り巻く数々の怪事件。

恋する座敷わらし、あなたへの電話

kio
キャラ文芸
家では座敷わらしとの同居生活、学校では学生からのお悩み相談。 和音壱多《わおんいちた》の日常は、座敷わらしの宇座敷千代子《うざしきちよこ》に取り憑かれたことで激変していた。 これは──想いを"繋ぐ"少年と、恋する座敷わらしの、少し不思議で、ちょっとだけ切ない物語。

真理子とみどり沖縄で古書カフェ店をはじめました~もふもふや不思議な人が集う場所

なかじまあゆこ
キャラ文芸
真理子とみどり沖縄で古書カフェ店をはじめました!そこにやって来るお客様は不思議な動物や人達でした。 真理子はある日『沖縄で夢を売りませんか? 古書カフェ店の雇われ店長募集。もふもふ』と書かれている張り紙を見つけた。その張り紙を見た真理子は、店長にどうしてもなりたいと強く思った。 友達のみどりと一緒に古書カフェ店の店長として働くことになった真理子だけど……。雇い主は猫に似た不思議な雰囲気の漂う男性だった。 ドジな真理子としっかり者のみどりの沖縄古書カフェに集まる不思議な動物や人達のちょっと不思議な物語です。 どうぞよろしくお願いします(^-^)/

ガダンの寛ぎお食事処

蒼緋 玲
キャラ文芸
********************************************** とある屋敷の料理人ガダンは、 元魔術師団の魔術師で現在は 使用人として働いている。 日々の生活の中で欠かせない 三大欲求の一つ『食欲』 時には住人の心に寄り添った食事 時には酒と共に彩りある肴を提供 時には美味しさを求めて自ら買い付けへ 時には住人同士のメニュー論争まで 国有数の料理人として名を馳せても過言では ないくらい(住人談)、元魔術師の料理人が 織り成す美味なる心の籠もったお届けもの。 その先にある安らぎと癒しのひとときを ご提供致します。 今日も今日とて 食堂と厨房の間にあるカウンターで 肘をつき住人の食事風景を楽しみながら眺める ガダンとその住人のちょっとした日常のお話。 ********************************************** 【一日5秒を私にください】 からの、ガダンのご飯物語です。 単独で読めますが原作を読んでいただけると、 登場キャラの人となりもわかって 味に深みが出るかもしれません(宣伝) 外部サイトにも投稿しています。

おしごとおおごとゴロのこと そのさん

皐月 翠珠
キャラ文芸
目指すは歌って踊れるハウスキーパー! 個性的な面々に囲まれながら、ゴロはステージに立つ日を夢見てレッスンに励んでいた。 一方で、ぽってぃーはグループに足りない“何か”を模索していて…? ぬいぐるみ達の物語が、今再び動き出す! ※この作品はフィクションです。実在の人物、団体、企業とは無関係ですが、ぬいぐるみの社会がないとは言っていません。 原案:皐月翠珠 てぃる 作:皐月翠珠 イラスト:てぃる

【アルファポリスで稼ぐ】新社会人が1年間で会社を辞めるために収益UPを目指してみた。

紫蘭
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスでの収益報告、どうやったら収益を上げられるのかの試行錯誤を日々アップします。 アルファポリスのインセンティブの仕組み。 ど素人がどの程度のポイントを貰えるのか。 どの新人賞に応募すればいいのか、各新人賞の詳細と傾向。 実際に新人賞に応募していくまでの過程。 春から新社会人。それなりに希望を持って入社式に向かったはずなのに、そうそうに向いてないことを自覚しました。学生時代から書くことが好きだったこともあり、いつでも仕事を辞められるように、まずはインセンティブのあるアルファポリスで小説とエッセイの投稿を始めて見ました。(そんなに甘いわけが無い)

100000累計pt突破!アルファポリスの収益 確定スコア 見込みスコアについて

ちゃぼ茶
エッセイ・ノンフィクション
皆様が気になる(ちゃぼ茶も)収益や確定スコア、見込みスコアについてわかる範囲、推測や経験談も含めて記してみました。参考になれればと思います。

ポテチ ポリポリ ダイエット それでも痩せちゃった

ma-no
エッセイ・ノンフィクション
 この話は、筆者が毎夜、寝る前にボテチを食べながらもダイエットを成功させた話である。  まだ目標体重には届いていませんが、予想より早く体重が減っていっているので調子に乗って、その方法を書き記しています。  お腹ぽっこり大賞……もとい! 「第2回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしています。  是非ともあなたの一票を、お願い致します。

処理中です...