59 / 124
5 磁場
5-022 大嫌い
しおりを挟む
「LCCの講座って別館でやってるんですけど、今その別館、すっごい戸締りが厳重になってるんですよね。講座をやる日が一番ユルいんですが、会員以外は入れないし」
「なんでその建物に入りたいんです?」
「あ、それ言えないんです。ゴメンナサイ」
未夜は一点の曇りもない、朗らかな笑顔でぺこりと頭を下げる。
「……何か犯罪性のあるようなことをするんじゃないですよね?」
質問しながら守は、我ながら愚かなことを言っている、と自覚している。
戸締りしているようなところにこっそり入る、と未夜は言っているのだ。子供でもあるまいに、犯罪に決まっている。
案の定未夜は、えへへへ、と曖昧に笑うばかりではっきりとした返事をしない。
「やってもかまいませんよ。確かに僕もLCCってのが、どんなことやってるのか興味あるし」
守がそういうのを待っていたかのように、未夜は胸の前で柏手を一つ打って
「信じてましたよぉ!」
と、大袈裟に言った。
「ではですねぇ、まず手順として都合の良い日に、科乃様に会って一回LCCの見学をしたいので、口を聞いてくれるようにとお願いしてくれますか? 私が話しを通しておきますので」
「えっ? 科乃様にですか?」
守は、そのまま聞き返してしまう。
未夜の言葉遣いが伝染って、ついつい科乃様、と言ってしまった。
「ええ、古谷のお兄さんが直接LCCに連絡取ってもOKかとは思いますが―宗州さんに話を聞いてたとか何とか言って―それよりも、科乃様経由のほうが確実です。佐一は、ひつきをちゃんとご本尊に据えることが可能になるまでは、これ以上科乃様を敵に回したくありませんからね。立場上断れません」
「しかし、お話を聞いてる限り、教祖さんは性格的にそんな面倒なお願いされるのは嫌がるような気がしますが」
須軽が口を出すと、未夜は薄く頬を緩ませる。
「ええ、古谷のお兄さんは信者じゃありませんから、会ってくれるのは会ってくれるでしょうが、普通ならそんなお願いは通らないでしょう。しかし秘策があります」
未夜は自信ありげに、交互に目の前の男二人の目を見据えた。
「佐一に対する嫌悪感を、表に出すようにして話せば大丈夫です。きっと上手くいきます……。講務長さんと科乃様、性別も、元々の性格も育った環境も、色々な物事に対する基本的な考え方も、対人関係における対処の仕方も、何から何まで大きく違う二人です」
不審げな守に、未夜は何やら語り始める。
「しかし、共通する点があります。お二人とも佐一哲郎が大嫌いです。あたしは会見が成功した要因もそこにあると思っています」
未夜は、断言する口調で力強く言った。
「なんでその建物に入りたいんです?」
「あ、それ言えないんです。ゴメンナサイ」
未夜は一点の曇りもない、朗らかな笑顔でぺこりと頭を下げる。
「……何か犯罪性のあるようなことをするんじゃないですよね?」
質問しながら守は、我ながら愚かなことを言っている、と自覚している。
戸締りしているようなところにこっそり入る、と未夜は言っているのだ。子供でもあるまいに、犯罪に決まっている。
案の定未夜は、えへへへ、と曖昧に笑うばかりではっきりとした返事をしない。
「やってもかまいませんよ。確かに僕もLCCってのが、どんなことやってるのか興味あるし」
守がそういうのを待っていたかのように、未夜は胸の前で柏手を一つ打って
「信じてましたよぉ!」
と、大袈裟に言った。
「ではですねぇ、まず手順として都合の良い日に、科乃様に会って一回LCCの見学をしたいので、口を聞いてくれるようにとお願いしてくれますか? 私が話しを通しておきますので」
「えっ? 科乃様にですか?」
守は、そのまま聞き返してしまう。
未夜の言葉遣いが伝染って、ついつい科乃様、と言ってしまった。
「ええ、古谷のお兄さんが直接LCCに連絡取ってもOKかとは思いますが―宗州さんに話を聞いてたとか何とか言って―それよりも、科乃様経由のほうが確実です。佐一は、ひつきをちゃんとご本尊に据えることが可能になるまでは、これ以上科乃様を敵に回したくありませんからね。立場上断れません」
「しかし、お話を聞いてる限り、教祖さんは性格的にそんな面倒なお願いされるのは嫌がるような気がしますが」
須軽が口を出すと、未夜は薄く頬を緩ませる。
「ええ、古谷のお兄さんは信者じゃありませんから、会ってくれるのは会ってくれるでしょうが、普通ならそんなお願いは通らないでしょう。しかし秘策があります」
未夜は自信ありげに、交互に目の前の男二人の目を見据えた。
「佐一に対する嫌悪感を、表に出すようにして話せば大丈夫です。きっと上手くいきます……。講務長さんと科乃様、性別も、元々の性格も育った環境も、色々な物事に対する基本的な考え方も、対人関係における対処の仕方も、何から何まで大きく違う二人です」
不審げな守に、未夜は何やら語り始める。
「しかし、共通する点があります。お二人とも佐一哲郎が大嫌いです。あたしは会見が成功した要因もそこにあると思っています」
未夜は、断言する口調で力強く言った。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
あやかし旅籠 ちょっぴり不思議なお宿の広報担当になりました
水縞しま
キャラ文芸
旧題:あやかし旅籠~にぎやか動画とほっこり山菜ごはん~
第6回キャラ文芸大賞【奨励賞】作品です。
◇◇◇◇
廃墟系動画クリエーターとして生計を立てる私、御崎小夏(みさきこなつ)はある日、撮影で訪れた廃村でめずらしいものを見つける。つやつやとした草で編まれたそれは、強い力が宿る茅の輪だった。茅の輪に触れたことで、あやかしの姿が見えるようになってしまい……!
廃村で出会った糸引き女(おっとり美形男性)が営む旅籠屋は、どうやら経営が傾いているらしい。私は山菜料理をごちそうになったお礼も兼ねて、旅籠「紬屋」のCM制作を決意する。CMの効果はすぐにあらわれお客さんが来てくれたのだけど、客のひとりである三つ目小僧にねだられて、あやかし専門チャンネルを開設することに。
デパコスを愛するイマドキ女子の雪女、枕を返すことに執念を燃やす枕返し、お遍路さんスタイルの小豆婆。個性豊かなあやかしを撮影する日々は思いのほか楽しい。けれど、私には廃墟を撮影し続けている理由があって……。
愛が重い美形あやかし×少しクールなにんげん女子のお話。
ほっこりおいしい山菜レシピもあります。
後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~
菱沼あゆ
キャラ文芸
突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。
洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。
天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。
洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。
中華後宮ラブコメディ。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
白い彼女は夜目が利く
とらお。
キャラ文芸
真夏の夜、涼しい風が吹くその場所で、彼女を見つけた。
何の変哲もない男子高校生、神埼仄は小学生の頃一目惚れした少女を忘れられずにいた。
そんなある日、一人の少女がクラスに転校してくる。
その少女は昔一目惚れしたその少女とそっくりで……。
それからだった。
彼の身の回りでおかしなことが起こり始めたのは。
◆ ◇ ◆ ◇
怪異に恋する現代和風ファンタジー。
貴方はそれでも、彼女を好きだと言えますか?
毎週水・土曜日、20時更新予定!
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
高校生なのに娘ができちゃった!?
まったりさん
キャラ文芸
不思議な桜が咲く島に住む主人公のもとに、主人公の娘と名乗る妙な女が現われた。その女のせいで主人公の生活はめちゃくちゃ、最初は最悪だったが、段々と主人公の気持ちが変わっていって…!?
そうして、紅葉が桜に変わる頃、物語の幕は閉じる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる