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「そこで困り果てた講務長さんは、思いがけない行動に出ます。あろうことか、科乃様にお伺いを立てに行くのです。会いたくない、と渋る科乃様に文字通り拝み倒し、何とか会見にこぎつけ、非公式ながら何とか〝佐一やLCCの勝手な活動を快く思っていない〟という科乃様の見解を引き出しました」
「それが状況に影響を与えたんですか?」
与えましたよぉ、と須軽に答え、未夜は店員にコーヒーのおかわりを注文する。
「やっぱり腐っても信者さんでした。教団の中の、LCC以外の信者さん達に効果があったのはもちろんのこと、LCCの内部にも亀裂が生じ始めたんです。いくら空気みたいでも、教祖様は教祖様ということで、科乃様のご意向を無視するわけにはいかない、ってLCCから離れる人も出て来ちゃったんですねえ」
「非公式ながら、ってさっきのお話で言ってましたけど、講務長さんと教祖さんってどういう状況で会ったんですか?」
「一対一で、白妙会館の、科乃様の住んでる階の大広間で会ったみたいですね。あの人、大事なことで他人と会う時は大概あそこです」
「他に誰もいなかったんですか? じゃあ本当に教祖さんがそう言ったかどうか、わからないじゃないですか」
須軽が指摘すると、未夜のニマーッと頬を緩ませた。
「ハイ。当然佐一の側はそう主張しています。講務長さん側は違うのであれば、科乃様自らみんなの前に現れて否定するはずだ、って言ってますね」
「いや、合っていようが違っていようが、みんなの前に出てきて公式に自分の意見をきちんと発表するべきでしょう。教祖なんですから」
須軽は淡々と意見する。
「ハイ。当然信者さんで、そういう意見をお持ちのかたもいます。しかし、科乃様は無視して引きこもってます。あれ以来、冨田さん以外の信者さんには誰にも会いません。それで、教祖は自分勝手だ、と批判が高まってます」
本当に徹底してるなあ、と須軽は再度呆れたような感嘆の声を漏らす。
「そんな事情でですねえ、ちょっとした窮地に追い込まれた佐一が考えたのが、さっきの神様の死体、『ひつき』を手に入れよう、って作戦らしいんです。なんせ神様ですから。自分の勢力のご神体にしてしまえば、権威としては教祖より確実に上なので、離れた信者さんも自分の元に戻ってくるだろう、と」
「そんなので離れた人が戻ってくるものなんですか?」
須軽の眉間に深い皺ができていた。どうにも腑に落ちないらしい。守も同じ気持ちだった。
「教団の歴史の中で大事な物のようですよ。古株の信者さんで、教団の事情に詳しい人なら知っているらしいです。過去の栄光をもう一度、って感じなんですかねえ? どうも、直観神理は過去にも一度ひつきをご神体にしようと思ったことがあったみたいです」
ふうん、と気の無い返事をして、須軽は腕組みする。何事か考えているようだ。
「なんで、そんなもんがウチにあったんですか?」
守が訊ねると未夜の口に運ばれる途中の、新しく注文したコーヒーのカップが空中で停止した。一瞬ののち、堪え切れなくなったように、未夜は笑い始める。
少しコーヒーをこぼしながら、未夜は辛うじてカップを皿に戻した。
「それが状況に影響を与えたんですか?」
与えましたよぉ、と須軽に答え、未夜は店員にコーヒーのおかわりを注文する。
「やっぱり腐っても信者さんでした。教団の中の、LCC以外の信者さん達に効果があったのはもちろんのこと、LCCの内部にも亀裂が生じ始めたんです。いくら空気みたいでも、教祖様は教祖様ということで、科乃様のご意向を無視するわけにはいかない、ってLCCから離れる人も出て来ちゃったんですねえ」
「非公式ながら、ってさっきのお話で言ってましたけど、講務長さんと教祖さんってどういう状況で会ったんですか?」
「一対一で、白妙会館の、科乃様の住んでる階の大広間で会ったみたいですね。あの人、大事なことで他人と会う時は大概あそこです」
「他に誰もいなかったんですか? じゃあ本当に教祖さんがそう言ったかどうか、わからないじゃないですか」
須軽が指摘すると、未夜のニマーッと頬を緩ませた。
「ハイ。当然佐一の側はそう主張しています。講務長さん側は違うのであれば、科乃様自らみんなの前に現れて否定するはずだ、って言ってますね」
「いや、合っていようが違っていようが、みんなの前に出てきて公式に自分の意見をきちんと発表するべきでしょう。教祖なんですから」
須軽は淡々と意見する。
「ハイ。当然信者さんで、そういう意見をお持ちのかたもいます。しかし、科乃様は無視して引きこもってます。あれ以来、冨田さん以外の信者さんには誰にも会いません。それで、教祖は自分勝手だ、と批判が高まってます」
本当に徹底してるなあ、と須軽は再度呆れたような感嘆の声を漏らす。
「そんな事情でですねえ、ちょっとした窮地に追い込まれた佐一が考えたのが、さっきの神様の死体、『ひつき』を手に入れよう、って作戦らしいんです。なんせ神様ですから。自分の勢力のご神体にしてしまえば、権威としては教祖より確実に上なので、離れた信者さんも自分の元に戻ってくるだろう、と」
「そんなので離れた人が戻ってくるものなんですか?」
須軽の眉間に深い皺ができていた。どうにも腑に落ちないらしい。守も同じ気持ちだった。
「教団の歴史の中で大事な物のようですよ。古株の信者さんで、教団の事情に詳しい人なら知っているらしいです。過去の栄光をもう一度、って感じなんですかねえ? どうも、直観神理は過去にも一度ひつきをご神体にしようと思ったことがあったみたいです」
ふうん、と気の無い返事をして、須軽は腕組みする。何事か考えているようだ。
「なんで、そんなもんがウチにあったんですか?」
守が訊ねると未夜の口に運ばれる途中の、新しく注文したコーヒーのカップが空中で停止した。一瞬ののち、堪え切れなくなったように、未夜は笑い始める。
少しコーヒーをこぼしながら、未夜は辛うじてカップを皿に戻した。
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