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5 磁場
5-012 科乃
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「この直観神理という宗教団体は、ちょっと成り立ちが複雑なんです。そうですね、図に書きながらご説明しましょう」
未夜は話しながら、手提げから紙とペンを取り出した。
「まず教祖がいます。当代の教祖様は椋戸辺科乃っていう女の子です。そうですね……歳はおそらく古谷のお兄さんと一緒くらいでしょうか。そして、これとは別に講務長という偉い人がいます。当代の講務長は塩見健二っていう四十路の坂を越えたおじさんで、確か元々は北海道に住んでた人です。この講務長という役職は、投票で選ばれます」
未夜の前の紙に、さらさらと文字が書き込まれていく。
「投票って、教団内で選挙やるんですか?」
意外に思った守は、つい口を入れた。宗教団体と選挙、というものがイメージとして上手く結び付かなかったのだ。
「いえいえ。選挙は大掛かりにやるとお金や時間がたくさん必要なので、信者さんを全員巻きこむことはしません。小規模にやります。現職の講務長が引退するか死ぬかすると、全国十七支部の支部長が集まって緊急の支部長会議が開かれ、そこで投票が行われます」
「じゃあ、講務長は支部長の中から?」
「原則信者さんであれば、誰でもいいんですけど、今までの講務長は全員支部長から選出されてますね。この投票で、支部長全員の票が入った人が、次の講務長ということになります」
「全員の票が一致することなんてあるの?」
今度は、須軽が素直に疑問を口にする。
「全員の票が一致するまで、何回でもやりなおすんですよ。まあ、全部密室でやってることですから、そこまで進歩的ってわけでもありませんね」
未夜は、ひょいっと両手を広げ肩をすくめた。
「支部長も選挙で選ぶんですか?」
「支部長はなんか合議制っていうか、支部のみなさんのお話し合いで決めるみたいです。よく知りませんけど」
へえ、と守は子供のような声を上げた。
「で、この講務長というのがですね、元々はさっきお伝えした行法の関係で、みんなで海や山に行く合宿とかの手配をする人だったのですが、これは手腕や信用がないとできない仕事だったので、いつのまにか直観神理の代表みたいな立場になっちゃったんですね。団体の外に向けて何かアナウンスする時とかも、だいたい講務長さんがやるので、事情を知ってる人以外は講務長さんを教祖だと思ってる人も多いです」
権力がそっちに集中してしまったんですか? という須軽の問いに
「いえ、そういう感じではありません」
と、未夜は首を横に振った。
未夜は話しながら、手提げから紙とペンを取り出した。
「まず教祖がいます。当代の教祖様は椋戸辺科乃っていう女の子です。そうですね……歳はおそらく古谷のお兄さんと一緒くらいでしょうか。そして、これとは別に講務長という偉い人がいます。当代の講務長は塩見健二っていう四十路の坂を越えたおじさんで、確か元々は北海道に住んでた人です。この講務長という役職は、投票で選ばれます」
未夜の前の紙に、さらさらと文字が書き込まれていく。
「投票って、教団内で選挙やるんですか?」
意外に思った守は、つい口を入れた。宗教団体と選挙、というものがイメージとして上手く結び付かなかったのだ。
「いえいえ。選挙は大掛かりにやるとお金や時間がたくさん必要なので、信者さんを全員巻きこむことはしません。小規模にやります。現職の講務長が引退するか死ぬかすると、全国十七支部の支部長が集まって緊急の支部長会議が開かれ、そこで投票が行われます」
「じゃあ、講務長は支部長の中から?」
「原則信者さんであれば、誰でもいいんですけど、今までの講務長は全員支部長から選出されてますね。この投票で、支部長全員の票が入った人が、次の講務長ということになります」
「全員の票が一致することなんてあるの?」
今度は、須軽が素直に疑問を口にする。
「全員の票が一致するまで、何回でもやりなおすんですよ。まあ、全部密室でやってることですから、そこまで進歩的ってわけでもありませんね」
未夜は、ひょいっと両手を広げ肩をすくめた。
「支部長も選挙で選ぶんですか?」
「支部長はなんか合議制っていうか、支部のみなさんのお話し合いで決めるみたいです。よく知りませんけど」
へえ、と守は子供のような声を上げた。
「で、この講務長というのがですね、元々はさっきお伝えした行法の関係で、みんなで海や山に行く合宿とかの手配をする人だったのですが、これは手腕や信用がないとできない仕事だったので、いつのまにか直観神理の代表みたいな立場になっちゃったんですね。団体の外に向けて何かアナウンスする時とかも、だいたい講務長さんがやるので、事情を知ってる人以外は講務長さんを教祖だと思ってる人も多いです」
権力がそっちに集中してしまったんですか? という須軽の問いに
「いえ、そういう感じではありません」
と、未夜は首を横に振った。
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