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5 磁場

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「ちょうど昨日のことになりますが」

守は気を入れて話し始めた。

「この探偵の須軽さんが、僕の家に地下室を発見しました。昨日まで僕は自分の家の中にそんなものがあるとは知りませんでした。入ってみると棺桶みたいな箱が置いてあって、中身は空っぽだった。おそらくあの箱の中には元々何かが入っていたんだと思います」

須軽は、守と安東に雇われている探偵である。当然、調査で知り得た、古谷家のプライバシーを他人には話せない。守秘義務がある。昨日の地下室のことを未夜に伝えたいのなら、自分が口火を切るしかない、と守は気付いたのだ。

「志摩さんと、未夜さん、それに三浦さんが、僕の家や直観神理っていう宗教団体について探りを入れてたことに、このことは関連しますか?」

未夜の瞳は、猫のもののようにまん丸くなっている。

「なんと」

沈黙ののち、やっとこれだけ呟く。今日初めて見せた、未夜の戸惑いの色であった。

「そこまでわかっていましたか……。探偵のお兄さん、なかなかやりますね」
  
「関係、あるんですね?」

「ありますよ。私は半信半疑だったですけど」

守が意気込んで訊ねると、未夜はいなすように言った。

「公安調査局とかが乗り出してきたのも、それが原因なんですか?」
須軽が疑わしそうに口を挟む。

「いえいえ、公調はそんなの知りません。元々は、直観神理とLCCの内情、それに古谷家がどう絡んでるのかくらいわかればいいっていう、簡単なお仕事だったんです。ミカドのおじさんが佐一から色々吹き込まれて、ノリノリになっちゃったんですよ」

フム、と鼻の奥で言って、未夜は顎に手を置いた。

「それでは、その辺りから詳しくご説明しましょうかねえ。公調のお仕事っていうのは、基本的に『破壊活動防止法などに基づき、破壊活動を行う危険性のある団体についての調査、必要があれば団体の規制や解散等の請求を行う』というものです。まあ一種の規制官庁ですね」

「そういうお役所って、共産党とか北朝鮮とかを主に調べてるんだと思ってましたよ」

「まあ、だいたいはそういうの多いんですけど」
  
須軽の言葉を曖昧に受けて、未夜は苦笑いを見せる。

「探偵のお兄さんの仰る通り、公調は旧オウム系以外は、宗教にはあんまり熱心じゃないんです。よっぽどカルトなやつが新しく出てきたら、また方針も変わるかもしれないんですが。直観神理は、まあ、信者さんの数はそこそこ多いんですが、行法主体のストイックな団体なんで、元々あんまり重要視はされてませんでした。ヤバくて排他的な教義とかも無かったから、狂信者みたいな人もいませんでしたからね。私の知る限り。まあ、幕末、明治辺りにたくさん出てきた復古神道の流れの新宗教ですね。なんか結構どこかの会社の社長さんとか有名人とかが入ってたりします。あとまあ、議員さんとかが票田にしようと思って形だけ入ったりとか。何かの集会の時だけちょっと顔出して、挨拶したりするんですよ」

「まあ、そういう人にとったらゆるい方が都合がいいでしょうね」

須軽が言うと、未夜は歯を見せて嬉しそうに笑顔を作った。

「ですです。友好団体なら、かけもちしても何も言われないし……。で、まあそういうセレブな人がわりと信者さんの中にいるので、国政に影響が出ないとは言い切れないかもしれない、っていうんで、一応準監視対象みたいなののリストには入ってたんです。まあ、ただお仕事増やそうと思ったのかもしれませんが」

「それがまたなんで、本格的に調べるってことになったんですか?」

守はこれが疑問なのだ。直観神理とかいう宗教団体だけならまだしも、自分の家にまで探りが来ていたのだから他人事ではない。うーん、と一つ唸って、未夜は机の下で腕を組んだ。

「これがまたねぇ……込み入った話なんですが、ここを了解してもらわないと、話が進みませんので……。ウン、しょうがない。全部喋っちゃいましょう」

「まだ込み入るんですか?」

少々食傷気味らしいの須軽が訊くと、未夜は真面目な顔で頷きながら込み入るのです、と答えた。守も同じ気持ちである。
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