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5 磁場
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かなり古い物のようだ。こっちは昔なつかしのわら半紙である。
『直観神理霊御道』と横向きの紙に縦書きで大きく題字が書かれ、そのまま小さい活字で縦書きに何かの説明のような文章が続いている。
和魂、幸魂、愛、眞・善・美、などの文字が各所にあるが、内容はよくわからない。なにぶん古いので、旧字体や旧かなづかいが多く使われているし、ところどころ文字もかすれているのだ。
「ちょっかんしんりたまのおんみち、って読みます。音読みと訓読みが混ざってて、わかりにくいんですよね。無理矢理全部読み下すよりはマシですけど。ああいうのちょっと苦手なんですよねえ」
未夜は軽くため息をついた。
「何かの宗教っぽいですね……。僕は知らないなあ」
守が言うと、須軽も、俺も知りません、と横から口を出す。
「えー、これの母体が」
二人の反応を確認し、未夜は『T.M.M』の方の紙をを指差した。
「これなのです」
『直観神理霊御道』のわら半紙の方に、指の先を移動させる。
「あ、一応ですよ。一応。あくまで、つながりとしては、という一応の話」
未夜がやけに『一応』を強調しながら、言った。
「じゃあ、この『T.M.M』ってのも宗教なんですか?」
須軽が訊くと、
「そこ!」
と、言いながら、未夜はまっすぐ一本指を突き出す。
「そこ、非常に重要なポイントです。しかし、今は置いておきましょう。こっちの方に」
未夜はパントマイムのように、箱を横の方に動かす仕草をした。
「そしてこれ」
と言いながら、未夜はもう一枚の紙を手際よく手提げから取り出し、テーブルに置く。こちらは、A4のコピー用紙のようだ。
『リーダーシップ・コーチング・コミュニティ 人間力養成講座のご案内』とタイトルにある。
「あ、これは私がプリンターで印刷したものです。配ったりしてないので。特定の人にメールで送ってるものなんです」
守と須軽が内容を見てみると、こちらは企業主や、有名作家等高い収入のある個人事業主、芸能人等、要するに、ある程度社会的地位のある人間向けの宣伝メールのようだ。
内容は、さっきの『T.M.M』の『自己実現の心理学』を、もうちょっと専門的にしたような内容のようである。
授業の内容に加え、こちらはやたらと “社会的地位のある人間が集まるので、人脈を作ることができる”ということをウリにしている。
「これは、先程の直観神理とT.M.Mの間に挟まってるものです。具体的に言うと、リーダーシップ・コーチング・コミュニティ―長いのでLCCって略しますが―LCCの下位組織として今出来あがりつつあるのが、T.M.M。LCCは直観神理の中の……何て言えばいいんでしょ。同好会っていうか、クラブ活動っていうか。ま、一部の人の集まりです」
喋り疲れたのか、未夜はコーヒーを少し口に含んだ。
守は聞きながら、何となく三つを図式化してみた。直観神理〉LCC〉T.M.Mのようなイメージだろうか。
「ちょっと待って下さい、じゃあこのリーダーシップなんちゃらってのは、宗教なんですか?」
須軽が口を挟む。少し語気を強め、身を乗り出しそうな勢いだ。
「ですです。こちらは完全に直観神理の中にある集団ですから。中の人もみんな信者さんですし。今のところ」
返事をしながら、未夜の口の端が薄く三日月型に曲がっていく。
「だんだんわかりかけてきましたね、お兄さん? さすが探偵です」
未夜は口元に手をやり、んふふふふ、とくぐもった笑い声を発した。
そりゃ、初めから関連がある話として聞いてますからね、と須軽は、鼻から大きく息を出しながら答える。守にはまださっぱりわけがわからない。
「で、亡くなった古谷宗州さんと三浦正一郎さんは、このリーダーシップ・コーチング・コミュニティのメンバーだったというわけなのです」
この未夜の言を聞き、須軽は目を瞑って大きく嘆息した
『直観神理霊御道』と横向きの紙に縦書きで大きく題字が書かれ、そのまま小さい活字で縦書きに何かの説明のような文章が続いている。
和魂、幸魂、愛、眞・善・美、などの文字が各所にあるが、内容はよくわからない。なにぶん古いので、旧字体や旧かなづかいが多く使われているし、ところどころ文字もかすれているのだ。
「ちょっかんしんりたまのおんみち、って読みます。音読みと訓読みが混ざってて、わかりにくいんですよね。無理矢理全部読み下すよりはマシですけど。ああいうのちょっと苦手なんですよねえ」
未夜は軽くため息をついた。
「何かの宗教っぽいですね……。僕は知らないなあ」
守が言うと、須軽も、俺も知りません、と横から口を出す。
「えー、これの母体が」
二人の反応を確認し、未夜は『T.M.M』の方の紙をを指差した。
「これなのです」
『直観神理霊御道』のわら半紙の方に、指の先を移動させる。
「あ、一応ですよ。一応。あくまで、つながりとしては、という一応の話」
未夜がやけに『一応』を強調しながら、言った。
「じゃあ、この『T.M.M』ってのも宗教なんですか?」
須軽が訊くと、
「そこ!」
と、言いながら、未夜はまっすぐ一本指を突き出す。
「そこ、非常に重要なポイントです。しかし、今は置いておきましょう。こっちの方に」
未夜はパントマイムのように、箱を横の方に動かす仕草をした。
「そしてこれ」
と言いながら、未夜はもう一枚の紙を手際よく手提げから取り出し、テーブルに置く。こちらは、A4のコピー用紙のようだ。
『リーダーシップ・コーチング・コミュニティ 人間力養成講座のご案内』とタイトルにある。
「あ、これは私がプリンターで印刷したものです。配ったりしてないので。特定の人にメールで送ってるものなんです」
守と須軽が内容を見てみると、こちらは企業主や、有名作家等高い収入のある個人事業主、芸能人等、要するに、ある程度社会的地位のある人間向けの宣伝メールのようだ。
内容は、さっきの『T.M.M』の『自己実現の心理学』を、もうちょっと専門的にしたような内容のようである。
授業の内容に加え、こちらはやたらと “社会的地位のある人間が集まるので、人脈を作ることができる”ということをウリにしている。
「これは、先程の直観神理とT.M.Mの間に挟まってるものです。具体的に言うと、リーダーシップ・コーチング・コミュニティ―長いのでLCCって略しますが―LCCの下位組織として今出来あがりつつあるのが、T.M.M。LCCは直観神理の中の……何て言えばいいんでしょ。同好会っていうか、クラブ活動っていうか。ま、一部の人の集まりです」
喋り疲れたのか、未夜はコーヒーを少し口に含んだ。
守は聞きながら、何となく三つを図式化してみた。直観神理〉LCC〉T.M.Mのようなイメージだろうか。
「ちょっと待って下さい、じゃあこのリーダーシップなんちゃらってのは、宗教なんですか?」
須軽が口を挟む。少し語気を強め、身を乗り出しそうな勢いだ。
「ですです。こちらは完全に直観神理の中にある集団ですから。中の人もみんな信者さんですし。今のところ」
返事をしながら、未夜の口の端が薄く三日月型に曲がっていく。
「だんだんわかりかけてきましたね、お兄さん? さすが探偵です」
未夜は口元に手をやり、んふふふふ、とくぐもった笑い声を発した。
そりゃ、初めから関連がある話として聞いてますからね、と須軽は、鼻から大きく息を出しながら答える。守にはまださっぱりわけがわからない。
「で、亡くなった古谷宗州さんと三浦正一郎さんは、このリーダーシップ・コーチング・コミュニティのメンバーだったというわけなのです」
この未夜の言を聞き、須軽は目を瞑って大きく嘆息した
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