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5 磁場

5-004 未夜

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「鉄道の本、って書いてましたよね?」

「ええ」

その人物が熱心に読んでいる本は『世界トラム周遊記』と、表紙の半分くらい使って銘打たれている。B6の単行本サイズの本だ。

これだけ見ても、鉄道の本なのかどうか、守には判断がつかない。よく見てみると、タイトルの下に細かい写真が五、六個並んでおり、それが鉄道車両のようだった。

小さい、都電のような車両である。守は、もう一度店内を見渡してみたが、他にそれらしい人間はいない。

「あ、こんにちは。はじめまして、飯豊いいとよ未夜みやですー」

どもどもー、と語尾を伸ばしながら、その人物が挨拶した。と、同時に読んでいた本に栞を挟み、手提げの中に仕舞う。向こうが先に気付いてしまった。

二人も挨拶を返し、神妙な顔をして対面の席に腰を降ろす。

目の前の女、体格はかなり小柄だった。志摩も大きい方でなかったが、それより小さいだろう。歳はどれぐらいだろう?  若そうだが、十代か二十代かちょっと判断がつかない。まあ、二十歳前後のように思える。

あまり志摩には似ていない。いや、良く見てみると目元や鼻梁の形など、顔の造作はわりと志摩と似通っているような気もするが、表情というか、雰囲気がまるで違うので、一見ではなかなかそうと気付かないのだ。

「私、飯豊志摩の妹です。……手紙に書いてましたよね?」

守が勘考しているのを見かねたのか、女は簡単に自分の素姓を明かした。

「書いてませんね」
須軽は冷ややかに言って、未夜の手紙を取り出して机に置く。

「おや、本当です」

目を丸くしながら、未夜は自分の手紙を確認し、これは失礼しました、と頭を下げた。

「さて、どこからお話しましょうかねえ」
口につけたカップを降ろし、未夜はため息をついた。

「あの、取りあえずあなたの、未夜さんの目的を話してくれませんか? 俺達を呼んだ理由はなんです?」

守が訊ねると、
「ああ、あたしの目的はお二人と協力関係を築きたいんです」
あっさり未夜は答えた。

「何をするために、何の手段として俺達と協力関係を築きたいんですか?」

須軽が質問を重ねると、未夜は顎に人差し指を当て、ん~、と思案声を発する。

「目的ってそういうのですか……。それはちょっと、お教えできませんねぇ」

「えっ?!」

まさかこんなところで否定されるとは思わなかったので、守は少しびっくりしてしまった。
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