41 / 124
5 磁場
5-004 未夜
しおりを挟む
「鉄道の本、って書いてましたよね?」
「ええ」
その人物が熱心に読んでいる本は『世界トラム周遊記』と、表紙の半分くらい使って銘打たれている。B6の単行本サイズの本だ。
これだけ見ても、鉄道の本なのかどうか、守には判断がつかない。よく見てみると、タイトルの下に細かい写真が五、六個並んでおり、それが鉄道車両のようだった。
小さい、都電のような車両である。守は、もう一度店内を見渡してみたが、他にそれらしい人間はいない。
「あ、こんにちは。はじめまして、飯豊未夜ですー」
どもどもー、と語尾を伸ばしながら、その人物が挨拶した。と、同時に読んでいた本に栞を挟み、手提げの中に仕舞う。向こうが先に気付いてしまった。
二人も挨拶を返し、神妙な顔をして対面の席に腰を降ろす。
目の前の女、体格はかなり小柄だった。志摩も大きい方でなかったが、それより小さいだろう。歳はどれぐらいだろう? 若そうだが、十代か二十代かちょっと判断がつかない。まあ、二十歳前後のように思える。
あまり志摩には似ていない。いや、良く見てみると目元や鼻梁の形など、顔の造作はわりと志摩と似通っているような気もするが、表情というか、雰囲気がまるで違うので、一見ではなかなかそうと気付かないのだ。
「私、飯豊志摩の妹です。……手紙に書いてましたよね?」
守が勘考しているのを見かねたのか、女は簡単に自分の素姓を明かした。
「書いてませんね」
須軽は冷ややかに言って、未夜の手紙を取り出して机に置く。
「おや、本当です」
目を丸くしながら、未夜は自分の手紙を確認し、これは失礼しました、と頭を下げた。
「さて、どこからお話しましょうかねえ」
口につけたカップを降ろし、未夜はため息をついた。
「あの、取りあえずあなたの、未夜さんの目的を話してくれませんか? 俺達を呼んだ理由はなんです?」
守が訊ねると、
「ああ、あたしの目的はお二人と協力関係を築きたいんです」
あっさり未夜は答えた。
「何をするために、何の手段として俺達と協力関係を築きたいんですか?」
須軽が質問を重ねると、未夜は顎に人差し指を当て、ん~、と思案声を発する。
「目的ってそういうのですか……。それはちょっと、お教えできませんねぇ」
「えっ?!」
まさかこんなところで否定されるとは思わなかったので、守は少しびっくりしてしまった。
「ええ」
その人物が熱心に読んでいる本は『世界トラム周遊記』と、表紙の半分くらい使って銘打たれている。B6の単行本サイズの本だ。
これだけ見ても、鉄道の本なのかどうか、守には判断がつかない。よく見てみると、タイトルの下に細かい写真が五、六個並んでおり、それが鉄道車両のようだった。
小さい、都電のような車両である。守は、もう一度店内を見渡してみたが、他にそれらしい人間はいない。
「あ、こんにちは。はじめまして、飯豊未夜ですー」
どもどもー、と語尾を伸ばしながら、その人物が挨拶した。と、同時に読んでいた本に栞を挟み、手提げの中に仕舞う。向こうが先に気付いてしまった。
二人も挨拶を返し、神妙な顔をして対面の席に腰を降ろす。
目の前の女、体格はかなり小柄だった。志摩も大きい方でなかったが、それより小さいだろう。歳はどれぐらいだろう? 若そうだが、十代か二十代かちょっと判断がつかない。まあ、二十歳前後のように思える。
あまり志摩には似ていない。いや、良く見てみると目元や鼻梁の形など、顔の造作はわりと志摩と似通っているような気もするが、表情というか、雰囲気がまるで違うので、一見ではなかなかそうと気付かないのだ。
「私、飯豊志摩の妹です。……手紙に書いてましたよね?」
守が勘考しているのを見かねたのか、女は簡単に自分の素姓を明かした。
「書いてませんね」
須軽は冷ややかに言って、未夜の手紙を取り出して机に置く。
「おや、本当です」
目を丸くしながら、未夜は自分の手紙を確認し、これは失礼しました、と頭を下げた。
「さて、どこからお話しましょうかねえ」
口につけたカップを降ろし、未夜はため息をついた。
「あの、取りあえずあなたの、未夜さんの目的を話してくれませんか? 俺達を呼んだ理由はなんです?」
守が訊ねると、
「ああ、あたしの目的はお二人と協力関係を築きたいんです」
あっさり未夜は答えた。
「何をするために、何の手段として俺達と協力関係を築きたいんですか?」
須軽が質問を重ねると、未夜は顎に人差し指を当て、ん~、と思案声を発する。
「目的ってそういうのですか……。それはちょっと、お教えできませんねぇ」
「えっ?!」
まさかこんなところで否定されるとは思わなかったので、守は少しびっくりしてしまった。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
お嬢様、お仕置の時間です。
moa
恋愛
私は御門 凛(みかど りん)、御門財閥の長女として産まれた。
両親は跡継ぎの息子が欲しかったようで女として産まれた私のことをよく思っていなかった。
私の世話は執事とメイド達がしてくれていた。
私が2歳になったとき、弟の御門 新(みかど あらた)が産まれた。
両親は念願の息子が産まれたことで私を執事とメイド達に渡し、新を連れて家を出ていってしまった。
新しい屋敷を建ててそこで暮らしているそうだが、必要な費用を送ってくれている以外は何も教えてくれてくれなかった。
私が小さい頃から執事としてずっと一緒にいる氷川 海(ひかわ かい)が身の回りの世話や勉強など色々してくれていた。
海は普段は優しくなんでもこなしてしまう完璧な執事。
しかし厳しいときは厳しくて怒らせるとすごく怖い。
海は執事としてずっと一緒にいると思っていたのにある日、私の中で何か特別な感情がある事に気付く。
しかし、愛を知らずに育ってきた私が愛と知るのは、まだ先の話。
妻がエロくて死にそうです
菅野鵜野
大衆娯楽
うだつの上がらないサラリーマンの士郎。だが、一つだけ自慢がある。
美しい妻、美佐子だ。同じ会社の上司にして、できる女で、日本人離れしたプロポーションを持つ。
こんな素敵な人が自分のようなフツーの男を選んだのには訳がある。
それは……
限度を知らない性欲モンスターを妻に持つ男の日常
お父様の相手をしなさいよ・・・亡き夫の姉の指示を受け入れる私が学ぶしきたりとは・・・
マッキーの世界
大衆娯楽
「あなた、この家にいたいなら、お父様の相手をしてみなさいよ」
義姉にそう言われてしまい、困っている。
「義父と寝るだなんて、そんなことは
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる