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4 たがいのなかに
4-011 殯斂の処
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さて、と呟きつつ須軽は小憎らしいほど落ち着いた様子で地下の部屋の中を調べ始めた。
「もしかして、何があるのかもわかってるんですか?」
「いえ……ただ、今はもうここには何もないらしい、ってのは予想がついてるので……。あいつら、ちょっとビビりすぎなんですよ」
含み笑いしながら、須軽が応える。言ったあと、失礼、と思いだしたように付け足した。
ちょっと待て。守の思考が一旦ストップした。二人が死んだ現場は自分も見ているし、この家の周辺は警察も調べているが、不審な物は何も見つかっていない。
それなら、ここにあったはずの物は、今どこにあるのだ?
「お、なんだこりゃ!」
守が心中を去来する気持ちに、思いを凝らしていると、須軽の素っ頓狂な声が聞こえてきた。明かりの方向に視線を向けると、何か大きい物が置いてあるのが見える。
「箱……でしょうか?」
丸いライトの明かりを追って確認しなければいけないので分かりづらいが、四角い、長方形の大きい箱のように思える。古い物のようだが形は崩れていない。
「棺桶みたいに見えますね」
須軽はさらりと、不気味なことを言った。何故か声がはずんでいる。ふっと、須軽が箱の中に明かりを向けた。思わず守は一歩後ずさったが、中は空っぽである。
布団、というのとも少し違うが、高級そうな細長い座布団のような質感の物が下に敷いてあった。
「この中の物を、お父様と三浦さんが持って出たんでしょう」
須軽が喋りながらまたライトを動かすと、壁に立てかけてある板が目に映る。大きさからして、この箱の蓋というべきものであろう。
一応部屋の中全体を見てみたが、他には特に見るべきものもなく、二人は階段を上がって地下室を出た。
「父はこの地下室のことを、どうしても隠したかったんですよね」
「ええ、この地下室に繋がるようなものは、何一つ漏らしたくなかったんでしょうね」
守は、一応安東にもここのことを訊ねてみるつもりではあるが、おそらく知らないだろうという予感もあった。彼にとっての兄貴分、守の父親が死んだのだ。知っていれば必ず自分に言ってくれるはずである。
その後、家の中を引っくり返して、屋外用の投光器を持ち込み、これまた屋外用のゴツい延長ケーブルで電源と繋いで徹底的に地下室を調べてみたが、目ぼしいものは何も出なかった。
嫌がる小人達を須軽がなだめすかして、代表で紫微一人を無理矢理連れて行き、箱の中をつぶさに調べてもらったが何もわからない、という話しである。
ただ、箱の中にこぶし大のスベスベした石が転がっていたのが見つかった。
明るい場所で確認してみると、それは勾玉の形をしていた。
守も教科書や、博物館などで勾玉状のものはいくつも見たことがあるが、こんな大きさのものを見たのは初めてである。
箱を少し削って、専門の会社に材質を調べてもらったら、これは高野槇である、という話だった。
意外にも、比較的新しい時代に作られたものらしい。比較的、というのは縄文だの弥生だのではない、という意味である。
古くとも江戸時代くらい、だと報告された。
まあ、箱の材質については、結果が出たのは、この時点よりかなり先のことではあるし、あまり本編に関係のない、完全な余談である。
「もしかして、何があるのかもわかってるんですか?」
「いえ……ただ、今はもうここには何もないらしい、ってのは予想がついてるので……。あいつら、ちょっとビビりすぎなんですよ」
含み笑いしながら、須軽が応える。言ったあと、失礼、と思いだしたように付け足した。
ちょっと待て。守の思考が一旦ストップした。二人が死んだ現場は自分も見ているし、この家の周辺は警察も調べているが、不審な物は何も見つかっていない。
それなら、ここにあったはずの物は、今どこにあるのだ?
「お、なんだこりゃ!」
守が心中を去来する気持ちに、思いを凝らしていると、須軽の素っ頓狂な声が聞こえてきた。明かりの方向に視線を向けると、何か大きい物が置いてあるのが見える。
「箱……でしょうか?」
丸いライトの明かりを追って確認しなければいけないので分かりづらいが、四角い、長方形の大きい箱のように思える。古い物のようだが形は崩れていない。
「棺桶みたいに見えますね」
須軽はさらりと、不気味なことを言った。何故か声がはずんでいる。ふっと、須軽が箱の中に明かりを向けた。思わず守は一歩後ずさったが、中は空っぽである。
布団、というのとも少し違うが、高級そうな細長い座布団のような質感の物が下に敷いてあった。
「この中の物を、お父様と三浦さんが持って出たんでしょう」
須軽が喋りながらまたライトを動かすと、壁に立てかけてある板が目に映る。大きさからして、この箱の蓋というべきものであろう。
一応部屋の中全体を見てみたが、他には特に見るべきものもなく、二人は階段を上がって地下室を出た。
「父はこの地下室のことを、どうしても隠したかったんですよね」
「ええ、この地下室に繋がるようなものは、何一つ漏らしたくなかったんでしょうね」
守は、一応安東にもここのことを訊ねてみるつもりではあるが、おそらく知らないだろうという予感もあった。彼にとっての兄貴分、守の父親が死んだのだ。知っていれば必ず自分に言ってくれるはずである。
その後、家の中を引っくり返して、屋外用の投光器を持ち込み、これまた屋外用のゴツい延長ケーブルで電源と繋いで徹底的に地下室を調べてみたが、目ぼしいものは何も出なかった。
嫌がる小人達を須軽がなだめすかして、代表で紫微一人を無理矢理連れて行き、箱の中をつぶさに調べてもらったが何もわからない、という話しである。
ただ、箱の中にこぶし大のスベスベした石が転がっていたのが見つかった。
明るい場所で確認してみると、それは勾玉の形をしていた。
守も教科書や、博物館などで勾玉状のものはいくつも見たことがあるが、こんな大きさのものを見たのは初めてである。
箱を少し削って、専門の会社に材質を調べてもらったら、これは高野槇である、という話だった。
意外にも、比較的新しい時代に作られたものらしい。比較的、というのは縄文だの弥生だのではない、という意味である。
古くとも江戸時代くらい、だと報告された。
まあ、箱の材質については、結果が出たのは、この時点よりかなり先のことではあるし、あまり本編に関係のない、完全な余談である。
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