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3 問いと答え

3-008

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「いや、確かにお前やマサも一応容疑者のワクには入ってたよ。でも、どうにも決め手に欠けてな。まあ、そりゃ飯豊志摩も一緒なんだが」

「えっ、安東さんも?」  
安東さんも疑われていた、というのは寝耳に水だった。

「どっちにしても、もう捜査の継続は無しだ。邪魔して悪かったな。受験がんばれよ」
踵を返しかけて、吾川さんはふと動きを止めた。

「なあ、一応言っとくが、いらんことは考えるなよ。自分で犯人を探そうとか」

冗談半分で言っているのかと思ったが、吾川さんは眉間に皺を寄せ厳しい顔をしている。

「犯人は……もし犯人と呼べるような者がいればだが、もう最低でも二人殺してるんだ。殺人に対してあまり躊躇はせんだろう。お前も身辺には注意を払ったほうがいいかもしれん」

「今言うんですか。それ?」

もう事件から一ヶ月以上経っている。何か理由があって、犯人が僕も殺そうとしていたのなら、充分すぎるほどの時間であろう。

「一応、お前の身辺にも気をつけてはいたんだぞ」
吾川さんはバツが悪そうに言った。

「まあ、何もないとは思うが一応な。用心に越したことはない。それからどうもこのヤマ、思ってたより大きいかもしれんぞ。上の奴らの態度がおかしい」
  
わりと興味のある話なので、僕も耳を近づけた。

「まあ、俺らの捜査に進展がなかったし、解剖でも何も出なかったから、捜査が打ち切られるのも自然っちゃあ自然なんだがな。なーんか、さっさと止めたがってたような気がする」

吾川さんは軽く舌打ちし、
「まあそういうことだ。色々面倒そうだからな。くれぐれも余計なことはせんように」

念を押すように言うと、戸を開いて家外に去って行った。
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