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3 問いと答え

3-007

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四十九日も終わり、僕の周囲はひとまず落ち着いていた。ある日、突然刑事の吾川さんが訪ねてきて、玄関先で僕に頭を下げた時はびっくりした。

「すまん。許してくれ」

深々と身体を折り曲げて丁寧に謝る目の前の大人に向かって、僕は慌ててやめてくださいよ、言ったが吾川さんはなかなか顔を上げない。

「親父さんの捜査は打ち切られることになった。ちょっと大きなヤマができてな。俺もそっちに駆り出されるんだ」
「じゃあ、そのヤマっていうのが終われば……」

やっと顔を上げた吾川は、沈痛な面持ちを僕にまっすぐ向けた。

「おそらく捜査が再開されることはない。犯罪性ナシ、になっちまったんだ。あー、つまり親父さんと三浦正一郎は、今後自然死として扱われることになった」

「自然死って……」  

「すまん!  この通り!  ホトケさんを解剖までしといて、このていたらく。まことに面目ない。許してくれ」

ここまで素直に謝罪されると、何も言えない。

「もういいですよ。それより、解剖した結果ってどうだったんですか?」  

「解剖した結果、犯罪に繋がるようなものは何も出なかったんだ。おまけに病気もなし」
「いや、それはおかしいじゃないですか。実際死んでるのに」

「俺もそう思うよ。まあ、原因不明の突然死、ってのも世の中にないわけじゃないが、二人同時に同じ場所で、ってのはちょっと普通じゃない」  

苦い顔つきで大きなため息を一つついた。吾川さんも納得しているわけではないらしい。

「悪いなあ。俺は飯豊志摩の捜索だけでも、続けるべきだっつったんだが……。犯罪性ナシになったもんでこっちも……」

志摩さんもまだ見つかっていない。僕のところにも連絡はきていなかった。犯罪であろうがなかろうが捜索は続けて欲しかったが、警察にも事情があるのだろう。

「……僕があまり疑われなかったのって、志摩さんが失踪したからですよね?」

事情聴取はされたが、犯人扱いはされなかった。どちらかというと、警察は僕に同情的だった気がする。

「ああ、確かにそれも理由の一つだよ。俺らはどっちかっていうと志摩を疑ってたからな」
吾川さんは、あっさり認めた。

「あの、自分で言うのも何なんですが、僕が犯人で親父と、三浦って人と、それから口封じのために志摩さんも殺した、って可能性もありますよね?」

「口封じなら、三人とも同時に殺せばいいじゃないか。どうして飯豊志摩を一旦家に返したんだ?  あの日帰宅したのは、同居してる妹や近所の知り合いに確認は取れてるぞ。それに死体はどうしたんだ?」

「どこか、見つかりにくい場所に埋めた、とか」

「そんないい場所があるなら、宋宗と三浦もそこに埋めたらいいじゃないか」

確かにそうだ。自宅のガレージに、しかもシャッターを開けっぱなしにして放置しておくなんてマヌケすぎる。
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