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2 二つの死体

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ハタと守は気付いた。そうだ。病気でも寿命でもないなら、誰かに殺される以外あそこで父親が死んでいる理由はない。守が知っている限り、父親は身体に悪い部分はなかった。

仮に誰かに殺されたとして、誰がそれをやったのか?  

客観的に考えて可能性が高いのは、その時家の中にいた自分か志摩だろう。


自分は、自分が父親を殺してない事を知っている。なら、犯人はほぼ志摩しかいないではないか。


いやいや、と守は考え直す。事故の可能性もある。転んだ拍子に頭を打って、当たり所が悪かったのかもしれない。

……二人同時に?

あの三浦とかいう、よくわからない男も同じような状態で隣に死んでいた。あり得ないことではないだろうが、ちょっと考えにくい。

警察も外傷はない、と言っていたし殺されたのなら、毒殺ではなかろうか?  それならやはり、古谷家で食事の用意をしている志摩が……?


やめよう。守はため息をついて、首を振った。どっちみち、解剖すると言っているのだから、もし何かの犯罪に巻き込まれたのなら、それでわかるだろう。

警察はどう考えるだろうか?  母親が失踪しているので、その辺りでごちゃごちゃするだろうが、遺産のことを考えたら、直接的な殺害の動機があるのは、まあ志摩よりは自分ということになる。

取り調べは覚悟しておいたほうがよいだろう。

「……明日、志摩さんの顔まともに見られるかな」

部屋で、ベッドに寝転びながら守は呟いた。一旦疑ってしまうと志摩の顔を直視しづらい。

「俺、さっき志摩さんが準備した料理食っちゃったな」

もし毒でも入っていれば父親と同じ目にあうかもしれない。ふと、食事と一緒に残されていた志摩のメモが脳裏をよぎる。心から守のことを心配しているような内容だった。

少なくとも読んだ時はそう思った。人を疑う、ということのいやらしさ、暗さが、じくじくと心に浸透してきて、守はなんとも自分で自分がやりきれなく感じた。

「俺は、刑事とか探偵とかは無理だな」

暗い部屋の中で、布団にくるまりながら一人ごちる。

探偵……?  現実の探偵は殺人事件の捜査などしないだろう。探偵は、ちょっとちがうな。誰に対してというわけでもなく、守は心の中で訂正する。

明日、志摩と顔を合わせた時の事を考えるといたたまれない気分になった。 自分の嫌な部分を意識してしまう、ということもあるし、なんだかんだいって志摩のことを完全に信用しているわけでもない。

もやもやとした、行ったり来たりしている振り子のような気持ちを抱えて、守は布団に包まれている。

結果として、守のこの夜の不安は杞憂に終わった。


なぜなら父親の死んだ日以降、守はついに志摩に会うことはなかったからである。
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