2 / 124
1 この出会いの偶然と必然
1-001
しおりを挟む
須軽為綱は畳の上で横になり、ボーッとつけっぱなしにしたTVを見ていた。強いて見たい番組というわけでもなく、ただ自分の頭を空っぽにするために利用している、というのが実情に近い。
そっちの方がなんとなく疲れがとれる気がするのだ。
なので、自然流しておく番組は、あまり頭を使わずにすむバラエティのようなものが多くなる。
……そろそろ、まぶたを開けているのが億劫になってきた。意識がとびかけている。TVの電源を消し、床に着こうとしていると、コツコツと何か硬いもの同士がぶつかるような音がどこからか聞こえてきた。為綱は身を起こし、周囲を見渡してみる。
「窓か」
ここは2階なので、不審者ではないだろう。……苦労して男の部屋など見ても面白くはないはずだ。そう思い、為綱は無防備にカーテンを開けた。
何の姿も見えないので、カーテンを閉めようとしたら下の方で音がする。きれいな小鳥が、外からクチバシでコツコツ窓を叩いているのだ。
「カワセミか」
小鳥は、鮮やかな翡翠色の羽毛を纏っている。為綱は、別段鳥の種類に詳しいわけではなかったが、カワセミはわかった。以前川岸で見かけてから気に入っていたのだ。
カーテンを閉めようとして、ふと思い止まった。
「入るか?」
為綱は、そっと戸を引いて窓に隙間を作ってやる。まだ肌寒い季節なので入りたいのかと思い、つい仏心を出してしまったのだ。朝には外に出してやるつもりであった。
「よっとっ!」
妙な声が聞こえた、と思ったらカワセミがひょっこりジャンプして 畳の上に降り立つ。
「いやあ、努力が実りましたな」
「苦節五日目だ。気付いてくれてよかったよマジで」
最初の一匹に続いて、次々と小鳥が入ってきた。
「ん?」
周囲を見てみたが部屋内のこと、もちろん誰もいない。TVも消している。
「こっちこっち。ほら」
先頭のカワセミがバサッ、と音を立てて自分の皮を脱ぎ棄てた。
「ほいっ」
そこには、体長十センチ弱の小さな人間が両手を広げて立っている。
「はじめまして。これからお世話になります」
「どうも」
うしろの二匹も次々に外側のカワセミを脱いだ。
「……なあ、その」
しばしの沈黙の後、為綱は顔を顰めて話し始めた。
「お前ら着てるの、それ貫頭衣ってやつ?」
「あ、ああ」
小人達三人は、言われて自分達の衣服を確認する。
「うん。そんなん」
初めに鳥の皮を脱いだ小人が、代表で答えた。素材はよくわからないが、平べったい物を張り合わせて簡単な衣服のカタチにしている。肩から胸にかけて妙な模様が描いてあった。袖はない。
「初対面で、人間に服のこと聞かれるとは思わなかったな」
「あんまり驚いてない」
「肝が据わっておるというのか何というのか……ある意味頼もしいとも言えますな」
小人達はボソボソ話し合っている。
「いや、気になっただけ。びっくりはしてるよ」
「ほほう、大君は眼だけでなく耳も良いようで」
小人の中で、一番歳を取って見える者が声を上げた。皮肉のようにも聞こえるが、どうやら本気で感心しているようだ。どういう意味かはよくわからない。
「つまり俺達って、普通の人間には見えないんだよ」
「俺見えるけど」
「そう! それがお前を選んだ理由!」
怪訝な様子の為綱に、先頭の小人がビシッと指を向けながら言った。
そっちの方がなんとなく疲れがとれる気がするのだ。
なので、自然流しておく番組は、あまり頭を使わずにすむバラエティのようなものが多くなる。
……そろそろ、まぶたを開けているのが億劫になってきた。意識がとびかけている。TVの電源を消し、床に着こうとしていると、コツコツと何か硬いもの同士がぶつかるような音がどこからか聞こえてきた。為綱は身を起こし、周囲を見渡してみる。
「窓か」
ここは2階なので、不審者ではないだろう。……苦労して男の部屋など見ても面白くはないはずだ。そう思い、為綱は無防備にカーテンを開けた。
何の姿も見えないので、カーテンを閉めようとしたら下の方で音がする。きれいな小鳥が、外からクチバシでコツコツ窓を叩いているのだ。
「カワセミか」
小鳥は、鮮やかな翡翠色の羽毛を纏っている。為綱は、別段鳥の種類に詳しいわけではなかったが、カワセミはわかった。以前川岸で見かけてから気に入っていたのだ。
カーテンを閉めようとして、ふと思い止まった。
「入るか?」
為綱は、そっと戸を引いて窓に隙間を作ってやる。まだ肌寒い季節なので入りたいのかと思い、つい仏心を出してしまったのだ。朝には外に出してやるつもりであった。
「よっとっ!」
妙な声が聞こえた、と思ったらカワセミがひょっこりジャンプして 畳の上に降り立つ。
「いやあ、努力が実りましたな」
「苦節五日目だ。気付いてくれてよかったよマジで」
最初の一匹に続いて、次々と小鳥が入ってきた。
「ん?」
周囲を見てみたが部屋内のこと、もちろん誰もいない。TVも消している。
「こっちこっち。ほら」
先頭のカワセミがバサッ、と音を立てて自分の皮を脱ぎ棄てた。
「ほいっ」
そこには、体長十センチ弱の小さな人間が両手を広げて立っている。
「はじめまして。これからお世話になります」
「どうも」
うしろの二匹も次々に外側のカワセミを脱いだ。
「……なあ、その」
しばしの沈黙の後、為綱は顔を顰めて話し始めた。
「お前ら着てるの、それ貫頭衣ってやつ?」
「あ、ああ」
小人達三人は、言われて自分達の衣服を確認する。
「うん。そんなん」
初めに鳥の皮を脱いだ小人が、代表で答えた。素材はよくわからないが、平べったい物を張り合わせて簡単な衣服のカタチにしている。肩から胸にかけて妙な模様が描いてあった。袖はない。
「初対面で、人間に服のこと聞かれるとは思わなかったな」
「あんまり驚いてない」
「肝が据わっておるというのか何というのか……ある意味頼もしいとも言えますな」
小人達はボソボソ話し合っている。
「いや、気になっただけ。びっくりはしてるよ」
「ほほう、大君は眼だけでなく耳も良いようで」
小人の中で、一番歳を取って見える者が声を上げた。皮肉のようにも聞こえるが、どうやら本気で感心しているようだ。どういう意味かはよくわからない。
「つまり俺達って、普通の人間には見えないんだよ」
「俺見えるけど」
「そう! それがお前を選んだ理由!」
怪訝な様子の為綱に、先頭の小人がビシッと指を向けながら言った。
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
美緒と狐とあやかし語り〜あなたのお悩み、解決します!〜
星名柚花
キャラ文芸
夏祭りの夜、あやかしの里に迷い込んだ美緒を助けてくれたのは、小さな子狐だった。
「いつかきっとまた会おうね」
約束は果たされることなく月日は過ぎ、高校生になった美緒のもとに現れたのは子狐の兄・朝陽。
実は子狐は一年前に亡くなっていた。
朝陽は弟が果たせなかった望みを叶えるために、人の世界で暮らすあやかしの手助けをしたいのだという。
美緒は朝陽に協力を申し出、あやかしたちと関わり合っていくことになり…?
※毎日更新、1/29に完結します。よろしくお願い致します。
霊媒姉妹の怪異事件録
雪鳴月彦
キャラ文芸
二人姉妹の依因 泉仍(よすが みよ)と妹の夢愛(めい)。
二人はほぼ無職ニートで収入無しの父、真(まこと)を養うため、生まれながらにして身につけていた“不思議な力”で人助けをしてお金を稼いでいた。
医者や人生相談では解決困難な特殊な悩みを抱えた依頼人たちのため、今日も二人は駆け回る。
※この話はフィクションです。作中に登場する人物・地名・団体名等は全て架空のものとなります。
『収納』は異世界最強です 正直すまんかったと思ってる
農民ヤズ―
ファンタジー
「ようこそおいでくださいました。勇者さま」
そんな言葉から始まった異世界召喚。
呼び出された他の勇者は複数の<スキル>を持っているはずなのに俺は収納スキル一つだけ!?
そんなふざけた事になったうえ俺たちを呼び出した国はなんだか色々とヤバそう!
このままじゃ俺は殺されてしまう。そうなる前にこの国から逃げ出さないといけない。
勇者なら全員が使える収納スキルのみしか使うことのできない勇者の出来損ないと呼ばれた男が収納スキルで無双して世界を旅する物語(予定
私のメンタルは金魚掬いのポイと同じ脆さなので感想を送っていただける際は語調が強くないと嬉しく思います。
ただそれでも初心者故、度々間違えることがあるとは思いますので感想にて教えていただけるとありがたいです。
他にも今後の進展や投稿済みの箇所でこうしたほうがいいと思われた方がいらっしゃったら感想にて待ってます。
なお、書籍化に伴い内容の齟齬がありますがご了承ください。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2024/12/29:『みしらぬせいと』の章を追加。2025/1/5の朝4時頃より公開開始予定。
2024/12/28:『てのむし』の章を追加。2025/1/4の朝8時頃より公開開始予定。
2024/12/27:『かたにつくかお』の章を追加。2025/1/3の朝4時頃より公開開始予定。
2024/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2025/1/2の朝4時頃より公開開始予定。
2024/12/25:『しんねん』の章を追加。2025/1/1の朝4時頃より公開開始予定。
2024/12/24:『おおみそか』の章を追加。2024/12/31の朝4時頃より公開開始予定。
2024/12/23:『いそがしい』の章を追加。2024/12/30の朝4時頃より公開開始予定。
2024/12/22:『くらいひ』の章を追加。2024/12/29の朝8時頃より公開開始予定。
【こちらはテスト用です。数日で非公開とします】深窓の骸骨令嬢
はぴねこ
キャラ文芸
「深窓の骸骨令嬢」を大幅に書き直してキャラ文芸大賞にエントリーする予定だったのですが、カテゴリーが違うことに気づき、エントリーは断念しました。
しかし、せっかく書き直したので、投稿はしていきたいと思います。
こちらでお気に入り登録してくださっている方もおりましたので、こちらで投稿していこうかとも考えたのですが、そもそもカテゴリー設定が違ったので、改めてカテゴリーをファンタジーに設定し直して投稿していきます。
お手数ですが、改めてお気に入り登録をしていただけますと嬉しいです。
よろしくお願いします。
https://www.alphapolis.co.jp/novel/135536470/825929555
しばらくしたらこのページは非公開にします。
霊感不動産・グッドバイの無特記物件怪奇レポート
竹原 穂
ホラー
◾️あらすじ
不動産会社「グッドバイ」の新人社員である朝前夕斗(あさまえ ゆうと)は、壊滅的な営業不振のために勤めだして半年も経たないうちに辺境の遺志留(いしどめ)支店に飛ばされてしまう。
所長・里見大数(さとみ ひろかず)と二人きりの遺志留支店は、特に事件事故が起きたわけではないのに何故か借り手のつかないワケあり物件(通称:『無特記物件』)ばかり取り扱う特殊霊能支社だった!
原因を調査するのが主な業務だと聞かされるが、所長の霊感はほとんどない上に朝前は取り憑かれるだけしか能がないポンコツっぷり。
凸凹コンビならぬ凹凹コンビが挑む、あなたのお部屋で起こるかもしれないホラー!
事件なき怪奇現象の謎を暴け!!
【第三回ホラー・ミステリー大賞】で特別賞をいただきました!
ありがとうございました。
■登場人物
朝前夕斗(あさまえ ゆうと)
不動産会社「グッドバイ」の新人社員。
壊滅的な営業成績不振のために里見のいる遺志留支店に飛ばされた。 無自覚にいろんなものを引きつけてしまうが、なにもできないぽんこつ霊感体質。
里見大数(さとみ ひろかず)
グッドバイ遺志留支社の所長。
霊能力があるが、力はかなり弱い。
煙草とお酒とAV鑑賞が好き。
番場怜子(ばんば れいこ)
大手不動産会社水和不動産の社員。
優れた霊感を持つ。
里見とは幼馴染。
ガダンの寛ぎお食事処
蒼緋 玲
キャラ文芸
**********************************************
とある屋敷の料理人ガダンは、
元魔術師団の魔術師で現在は
使用人として働いている。
日々の生活の中で欠かせない
三大欲求の一つ『食欲』
時には住人の心に寄り添った食事
時には酒と共に彩りある肴を提供
時には美味しさを求めて自ら買い付けへ
時には住人同士のメニュー論争まで
国有数の料理人として名を馳せても過言では
ないくらい(住人談)、元魔術師の料理人が
織り成す美味なる心の籠もったお届けもの。
その先にある安らぎと癒しのひとときを
ご提供致します。
今日も今日とて
食堂と厨房の間にあるカウンターで
肘をつき住人の食事風景を楽しみながら眺める
ガダンとその住人のちょっとした日常のお話。
**********************************************
【一日5秒を私にください】
からの、ガダンのご飯物語です。
単独で読めますが原作を読んでいただけると、
登場キャラの人となりもわかって
味に深みが出るかもしれません(宣伝)
外部サイトにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる