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簡単に言うと、ある朝目覚めたら僕を取り巻く環境が激変していた。
いや、この言い方はあまり簡単ではない。もっと率直に言おう。

ある朝目覚めると、僕の父親と見知らぬ他人が僕の家の中で並んで死んでいた。

こうなるにはこうなるだけの、原因とか経緯とかがあるのだが説明するのはなかなか骨が折れる。
説明が難しい理由の一つは、どこから始めれば良いのかよくわからないからだ。

 実際、僕と共に事件の中を右往左往した、もう一人の主要人物『須軽すがる為綱ためつな』さんの物語が動き始めたのは、僕の生活が一変したあの日よりも、もう少し前のことなのだ。まあ、そこから始めるのが筋だろう。

あの日の情景。彼の元に3人の奇妙な訪問者が現れた、あの夜からだ。

  ――取りあえず、彼について軽く紹介しておく。

 まずこの『須軽為綱』という仰々しい名前のおかげで、彼は非常に由緒のある、もしかしたら裕福な生まれかと思われがちなのだが、実際は違う。いや、由緒正しい家系の人間なのかもしれないが、よくわからないのだ。

彼は捨て子だったらしく、非常に幼い頃から所謂施設で育った。名前は、赤ん坊だった彼の着衣に貼りつけられていた、布切れに書かれていたもので、おそらくこれが名前だろう、という見当で手続きされたらしい。彼は高校卒業後、施設を退所してそれまでアルバイト等で貯めていたお金と、支給された支度費で自立した。

就職したのは大きな物流倉庫で、やっている仕事は宅配用食品のピッキング。これはどういう仕事かというと、端的にいえばベルトコンベアで次々に流れてくるケースに、順次商品を詰めていくというもの。日によって場所が変わって、楽な時やしんどい時があるが総じて淡々とした単調な仕事なのだそうだ。

「体力的にはキツい時もあったけどやってたら慣れるし、あんまり人と喋らないで済むから俺は結構気に入ってるよ」

とは本人の談である。

では、そろそろ本題に入ろう。

彼が仕事から帰り就寝前、つかの間のくつろぎを得ていた時のこと。
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