貪り

八花月

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 どこかに通じているのかもしれない。

 風穴のような場所なのだろうか?
 
 だとしたらがっかりだが、声も聞こえなくなったし、いつまでもじっとしていてもしょうがない。

 気づいたら僕は歩き始めていた。

 ただ歩くのも頼りなく、僕は何か頼りになるものを探した。

 両手をバタバタさせながらしばらくウロウロしていると、何かが指の先に触れる。
 
 壁だ。僕は身体を壁にぴったり寄せた。なんとなくこうすると落ち着くのだ。

 両手を壁につけ、這いずりまわるヤモリのような恰好で僕はひたすら前に進んだ。

「本当にいいんですか? そのままで行く覚悟はあるんですか?」

 僕は返事をしなかった。する必要がない。

「もう堕ちるだけだよ。先はないんだよ」

 うるさい! といっても私は意味のある言葉を発したわけででではない。何か小動物を捻った時のような叫びを上げただけだ。

 これでも伝わるだろう。伝わればいいのだ。

 しばらく進むと声も聞こえなくなった。静かだ。満足だ。

 壁の質感がだんだん変わってきて、ブヨブヨブヨブヨ寒天のようだ。生暖かくて気持ち良い。ここいいると 落ち着く。落ち着くんだ。

 進むんだ。まだだ。

「だんだん狭くなってくる」

 落ち着く。進。落ち着いていく。行くんだ。

 前に明かりい。あれに向かっていくんだ。進。

 ガシャッ キャキャーンッ 何かが崩れ高い金属音。

 私は畳の上に降り立った。どこだ? ここはどこから出てきたんだ私は?

 どこかの誰かの家。和風の間取り。

俺は見下ろしている。

 ズキン、と背中脇が痛む。畳に血の滴り跡が散っている。長くないのか?

 誰かいないだろうか? 会いたい。見たい。

 思い出した!

 ここはさっき追いかけた少年の家! 仏間?

「誰か!」

 甲高い声が鳴る。金属を引っ掻くようなゾワゾワする音。

 自分の声だ!

 俺は飛んだ。灰や線香やら、何かの金属。輝く香炉? なにくぁわからないものが畳に飛び散る。

 なんだ? からだが小さくなっている! 俺はひょこひょこ歩く。

 俺はふと、庭に面しているガラス戸を見た。

 薄く映った猿が間抜けな顔でこっちを見ている。

 猿には眼が三つあった。

                                                   
                        了
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