夏花

八花月

文字の大きさ
上 下
73 / 97
19.胡乱な客

003

しおりを挟む
「いい人だね。萩森さん」

 手を振って見送った後、乙女はぼそっと呟く。ええ、と雅樂は即座に頷いた。

「あの方は誠実ですので、信用出来ますわ。一旦味方になったら、最後まで味方でいてくれます」

 いやに断定的に雅樂は言い切る。

「雅樂ちゃんはまだ帰んないの?」
「ええ……」

 雅樂は、少し迷うような素振りを見せながら言葉を継いだ。

「わたくしは、少しこの待宵屋敷を調べてみようと思うのです。本当に幽霊が住んでいるのなら放っておくわけにもいきませんので」

「いいよいいよ。そんなの。注目されてんだし、しばらくほっとこうよ」

 雅樂はきっぱりと首を横に振る。

「乙女様が住んでいる以上、安全面から考えてもそういうわけにはまいりません。それに……。わたくし、人よりも少しこういう怪異に詳しいのです。敏感と申しますか」

「ああ、へえ……そういや猫のお化け見たっつってたね」 

 乙女の言葉を聞き〝覚えていてくれましたのね〟と、雅樂は顔を赤くした。

「その……あの時は申しませんでしたが、ウチの家系がわりとそっち寄りといいますか……正直わたくしもよく把握してない部分が多いのですが、昔から霊や妖といったものと関わりがあるのです」

「あのデカい猫もそんな感じのモンなの?」
「はい」

 雅樂は、少女のように素直に頷く。 

「そういうわけで、わたくしのこのスキルみたいなものを活かし、少しこの屋敷の調査をしてみたいなと……」

「ああうん。わかったよ。じゃあお願いしようかな」

 乙女が言った途端、雅樂はパッと顔を輝かせた。

「わかっていただけて嬉しいです! では!」

「あ、あんまり熱心にやんないでいいからねー! テキトーでいいから!」

「いえ! 隅々まで徹底的に調査しますわ!」

 雅樂は屋敷の手前でガッツポーズして入っていく。

『……まあ、大丈夫だよな。あいつ幽霊じゃねーし』

 乙女は屋敷をぼんやり眺めながら考えている。

『吸血鬼だし、雅樂ちゃんも専門外だろ、多分。そういやあいつ昼間は何してんのかな。どっかに寝てんのか?』

 乙女の頭の中で、何かがチカッと繋がった感じがあった。

『なんか映画とかだと……そういえば……』
しおりを挟む

処理中です...