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18.気配
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高所は静かで良い。
上古は、電波中継所の鉄塔の上でぼんやりと考えていた。
中心街とはいえ、決して大きいとも繁華ともいえない斧馬の町並。地上で話してもうるさすぎるということはないのだが、仕事の話をする時は、上古は空に近い場所がいいのだ。
『近くて遠いにゃー』
人の匂いは嫌いじゃないのだが。とぼんやり考えながら、上古は眼下に斧馬の町を見ていた。
突風が不意に鉄塔を揺らす。接合部が、キィキィと不安な音を立てた。上古の身体を覆っている薄い夏毛をサラサラと飛ばしていく。
これは。
「妙法風見……」
思わず呟いてしまった上古の背後から〝うむ〟と重々しい声が降ってきた。いつの間にか訪れていた回向である。
「風見が来ているな。もう猶予は無い」
「タイムリミットにゃ~」
上古は力無く口腔を震わせた。
「なんとかもうちょっと待ってもらえんかにゃ?」
「無理だな」
回向は、素っ気なく即答する。
「……あいつ融通利かんからにゃ~」
「うむ。風見はおそらく二・三日で現状を把握し、かやに報告するつもりだろう。我々が効果的な対策を打てていないことが知られれば、詰問されるだろうな」
「考えるだけでも面倒くさいにゃー!」
しゃがれた声で空に向かって不服の申し立てをし、上古はゴロンと横になった。
「だいたい、筧は何をしとるんにゃ! あいつはこういう時のためにおるんじゃにゃいんか!」
「箒星か。別件で忙しいらしいな」
回向はあくまで淡々を言葉を紡ぐ。
「人手が全然足らんにゃ! わしらのせいというより、これは構造的な問題じゃにゃいのか!」
「一理ある。現状、常夜衛士も廻国巡礼霊場諸寺も機能していない場所が多い」
ヴゥッ、と上古は咽喉を鳴らして妙な音を出した。
「じゃあ……」
「今回、斧馬については待宵屋敷の者に頼むしかないかもしれんな」
「う、う~ん……でもにゃー……あそこのやつ、洋モノみたいだからにゃ~……こっちの事情をわかってくれたらいいんにゃけど……」
「お前の言っているのは西洋の妖のことだな。幼子の姿の。私が言っているのは、一緒に住んでいる人間のことだ」
「同居人にゃ? 素質はあるんかにゃ?」
「素質についてはなんともいえんところだが、妖の少女に力を分け与えられたらしい」
「眷属にされたんかにゃ。それはそれで面倒なようにゃ……」
「いや」
回向は、殊更強く否定する。
上古は、電波中継所の鉄塔の上でぼんやりと考えていた。
中心街とはいえ、決して大きいとも繁華ともいえない斧馬の町並。地上で話してもうるさすぎるということはないのだが、仕事の話をする時は、上古は空に近い場所がいいのだ。
『近くて遠いにゃー』
人の匂いは嫌いじゃないのだが。とぼんやり考えながら、上古は眼下に斧馬の町を見ていた。
突風が不意に鉄塔を揺らす。接合部が、キィキィと不安な音を立てた。上古の身体を覆っている薄い夏毛をサラサラと飛ばしていく。
これは。
「妙法風見……」
思わず呟いてしまった上古の背後から〝うむ〟と重々しい声が降ってきた。いつの間にか訪れていた回向である。
「風見が来ているな。もう猶予は無い」
「タイムリミットにゃ~」
上古は力無く口腔を震わせた。
「なんとかもうちょっと待ってもらえんかにゃ?」
「無理だな」
回向は、素っ気なく即答する。
「……あいつ融通利かんからにゃ~」
「うむ。風見はおそらく二・三日で現状を把握し、かやに報告するつもりだろう。我々が効果的な対策を打てていないことが知られれば、詰問されるだろうな」
「考えるだけでも面倒くさいにゃー!」
しゃがれた声で空に向かって不服の申し立てをし、上古はゴロンと横になった。
「だいたい、筧は何をしとるんにゃ! あいつはこういう時のためにおるんじゃにゃいんか!」
「箒星か。別件で忙しいらしいな」
回向はあくまで淡々を言葉を紡ぐ。
「人手が全然足らんにゃ! わしらのせいというより、これは構造的な問題じゃにゃいのか!」
「一理ある。現状、常夜衛士も廻国巡礼霊場諸寺も機能していない場所が多い」
ヴゥッ、と上古は咽喉を鳴らして妙な音を出した。
「じゃあ……」
「今回、斧馬については待宵屋敷の者に頼むしかないかもしれんな」
「う、う~ん……でもにゃー……あそこのやつ、洋モノみたいだからにゃ~……こっちの事情をわかってくれたらいいんにゃけど……」
「お前の言っているのは西洋の妖のことだな。幼子の姿の。私が言っているのは、一緒に住んでいる人間のことだ」
「同居人にゃ? 素質はあるんかにゃ?」
「素質についてはなんともいえんところだが、妖の少女に力を分け与えられたらしい」
「眷属にされたんかにゃ。それはそれで面倒なようにゃ……」
「いや」
回向は、殊更強く否定する。
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