夏花

八花月

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18.気配

001

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 高所は静かで良い。

 上古は、電波中継所の鉄塔の上でぼんやりと考えていた。

 中心街とはいえ、決して大きいとも繁華ともいえない斧馬の町並。地上で話してもうるさすぎるということはないのだが、仕事の話をする時は、上古は空に近い場所がいいのだ。

『近くて遠いにゃー』

 人の匂いは嫌いじゃないのだが。とぼんやり考えながら、上古は眼下に斧馬の町を見ていた。

 突風が不意に鉄塔を揺らす。接合部が、キィキィと不安な音を立てた。上古の身体を覆っている薄い夏毛をサラサラと飛ばしていく。

 これは。

妙法みょうほう風見かざみ……」

 思わず呟いてしまった上古の背後から〝うむ〟と重々しい声が降ってきた。いつの間にか訪れていた回向である。

「風見が来ているな。もう猶予は無い」
「タイムリミットにゃ~」

 上古は力無く口腔を震わせた。

「なんとかもうちょっと待ってもらえんかにゃ?」 
「無理だな」

 回向は、素っ気なく即答する。

「……あいつ融通利かんからにゃ~」

「うむ。風見はおそらく二・三日で現状を把握し、かやに報告するつもりだろう。我々が効果的な対策を打てていないことが知られれば、詰問されるだろうな」

「考えるだけでも面倒くさいにゃー!」 

 しゃがれた声で空に向かって不服の申し立てをし、上古はゴロンと横になった。

「だいたい、かけいは何をしとるんにゃ! あいつはこういう時のためにおるんじゃにゃいんか!」

箒星ほうきぼしか。別件で忙しいらしいな」

 回向はあくまで淡々を言葉を紡ぐ。

「人手が全然足らんにゃ! わしらのせいというより、これは構造的な問題じゃにゃいのか!」

「一理ある。現状、常夜衛士も廻国巡礼霊場諸寺も機能していない場所が多い」

 ヴゥッ、と上古は咽喉を鳴らして妙な音を出した。

「じゃあ……」
「今回、斧馬については待宵屋敷の者に頼むしかないかもしれんな」

「う、う~ん……でもにゃー……あそこのやつ、洋モノみたいだからにゃ~……こっちの事情をわかってくれたらいいんにゃけど……」

「お前の言っているのは西洋のあやかしのことだな。幼子の姿の。私が言っているのは、一緒に住んでいる人間のことだ」

「同居人にゃ? 素質はあるんかにゃ?」

「素質についてはなんともいえんところだが、妖の少女に力を分け与えられたらしい」

「眷属にされたんかにゃ。それはそれで面倒なようにゃ……」
「いや」

 回向は、殊更強く否定する。
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