夏花

八花月

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16.激突

005

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「躾しなおして、可愛くしてあげるわ!」

 ミラは情け容赦なく、乙女に打撃を加える。

「あたしはペットじゃねーよっ!」

 威勢良く言い返したが、乙女は防戦一方であった。

 一応今のところ防御は出来ているが、このままやられるだけだと時間の問題でミラに敗北してしまうだろう。

『どうしようもねー……』

 乙女は焦った。攻防のさなか、外へ続く大きい扉が目に入る。

 町まで逃げれば、ミラといえど追っては来ないだろう……と思う。たくさんの人間達の前に自分の姿を見せたくはないのではないか。

『嫌だ。このまんま逃げんのはシャクにさわる』

 瞬時に乙女の選択肢から、逃亡の項目が消える。

『どうすりゃいいんだ!』

 じりじりと追いつめられる乙女の脳裏に、一つのアイディアが閃いた。自分の得意技の一つを思い出したのだ。

『うん……まぁこれなら悪い子へのお仕置きって感じもするし……罪悪感もあまり感じないな! よし!』

 最後の方は自分に言い聞かせている感もあるが、とにかく乙女は決断した。

 ミラの右ストレートをかわし、乙女は前に一歩出る。

「えっ?」

 驚いているミラの頭を、右掌で引っ掴んだ。

「あああっ! 痛い痛い痛い! やめて!」

 乙女はそのまま力を込め、ミラの頭蓋骨を締め上げる。いわゆるアイアンクローであった。

 当然ミラは暴れ回り、手足を無茶苦茶に動かして乙女を打とうとする。乙女は敢えて避けようとはしなかった。

「死ぬ! これ死んじゃう! やめて!」
「死なねーんじゃねーのかよ」

 乙女は冷たく言い放つ。

「お願いお願い! 頭が割れちゃいそうなの!」

 涙声になっている。泣いているようだ。

「……もう悪さしないか?」
「しない!」

「血ぃ吸うなよ? あたしはお前の眷属にはならない」

「そんな……でも」

 乙女は無言で指に力を入れる。

「わかった! わかった! オトメを眷属にはしない! 約束する!」

 やっとのことで、乙女は力を緩め手を放した。ミラは息を荒くし、床にへたり込んでいる。
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