夏花

八花月

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10.もう一人の隊員

001

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 萩森も手伝ってのことであるが、待宵屋敷の修繕は初めてにしては上手くいっていた。乙女も上機嫌で鼻歌をうたっている。

 玄関ホールの床にニスを塗っていた時、萩森は思い出したように乙女に一つの提案をした。

「えっ? 仲間?」

 一瞬、乙女は萩森の言っていることの意味が掴めなかった。

「ええ。武音さんとほぼ同時期に、斧馬に来た〝地方振興おたすけし隊〟の方がいらっしゃるんですよ」

 思い出そうとして、乙女の手がしばし止まる。

「あー、あああー。そういえばそんなこと聞いたような気がすんなあ……。でもその人歓迎会の時いなかったよね?」

 着任してすぐに、乙女は斧馬の主だった人々に歓迎会を開いてもらったのだが、その人物を紹介してもらった記憶がない。

「ええ、まあなんというか、お誘いしたみたいなんですが断られまして。強制ではないので……」

「マジか。そんなんで大丈夫なの?」

「一応日々の仕事は問題なくこなしてもらってるんですが、このままだとなんにもないまま任期終わっちゃいそうなんで、僕から見てもちょっとマズいな、と思うんですよね。関係者の話もあんまり聞いてくれないみたいだし」

 町おこしをするにしても、他のことに協力するにしても地域との連携はかかせないので、おたすけし隊の隊員にとって地元の人間との交流は避けては通れないのである。

 ここまではっきり他人を拒絶していて、やっていけるのだろうか、と乙女は少し気になった。

「そこで、こう……同じおたすけし隊の仲間として、一回話してみてくれませんか? 武音さんとしても隊員同士のつながりが深まったほうがやりやすいこともあるでしょうし……」

「あたしは別に現状困ってねーからなー」

 乙女は割合気後れしないほうなので、斧馬の人々とのコミュニケーションは概ね良好である。

「そ、そう言わずにお願いしますよ~。隊員同士しかわからない悩みとかあるかもしれませんので……」

 萩森は乙女に向かって、やや大袈裟に頭を下げた。

 その拍子に、背後の壁にかかっていた大きな絵がガタガタと揺れる。額縁に肩が当たったようだ。

「危ねえ!」

 乙女は声を上げると同時に萩森に駆け寄る。萩森はまだ後ろの絵が外れようとしていることに気付いておらず、きょとんとしていた。
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