雪の絶え間

八花月

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2. 浮上?

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「とりあえずな、さっきも言ったけど、あの時四季と私は一階の休憩室でダラダラしてたんだよ。そしたらなんかガサガサッみたいな、バシャシャシャシャッみたいな音が聞こえてきたんだ」

 一転して、みな静かに聞き入っている。

「そん時は気にしてなかったんだけどさ、少ししたら騒がしくなってきて四季と一緒に見に行ったわけ。廊下に出て窓越しに見てみたら中庭に人だかりが出来てるの。んで、行ってみたら真希がぐにゃっとした感じで転がってたんだよ。どうもどっかから落ちたらしい、って話でさ。あ、千代エービルって真ん中空いてんのね。その中庭」

「四季はどうだったんです?」
「それよ」 

 数凪はグッと語気を強めた。

「四季がやべえ、って思ってさ。なんか言葉かけようって思ったんだよ。双子の……ええー姉妹があんな感じで死んじゃって。なんつうか、こう、余計なお世話かもしんないけど、死体とかも見ないほうがいいかな、とか色々考えてさ。で、周り見てみたんだけど、どこにもいないの。呼んでも返事がないんだよ。おかしいじゃん? さっきまでいたのにさ」

 概ねの人数は黙って頷き、同意を示す。

「四季はそれっきり消えちゃったわけ。煙みたいに。狐につままれたような気分だよ」

「……四季はいついなくなったんだろう?」

「ラウンジの中では間違いなく居たよ。多分中庭に出るまでの間か、出てちょっとしてからくらいじゃねえかな。どっちにしてもいないのに気付くのにそんなに時間は経ってないよ。多分十分も経ってない」 

 数凪は独言のような沙希の問いにはっきり答えた。この応答は少なくとも報道から推し量る限り、四季がビルから出るのを目撃した者はいない、ということを踏まえている。

「で、その直前まで四季さんと一緒に居た、ってこと、どうして警察の方に言わなかったんです?」
「四季に口止めされたんだよ。まー、お前らにはもう言っちゃったけど」

「口止め……どの時点で?」

 葉子は不可解な様子を隠そうともせずに訊ねた。

「それもよくわかんないんだよなあ……。気付いたらいなくなってて、探しても見つかんなくて……しばらくしたらポケットん中に紙切れが入っててさ、それに〝自分と居たことは誰にも言わないでくれ〟って書いてて、変だなーとは思ったんだけどそれで言ってない」

「紙切れぇ?」 

 数人が素っ頓狂な声を上げる。

「それを四季が書いた、って判断したのは、筆跡ですか?」
「いや、署名があったの。四季って」

「別人が書いた……ってことはないですよね。多分」

 真銀が恐る恐る口を入れた。

「誰が? 何のために?」
「そりゃもちろん犯人が……」

 なんとなく空気を察し、葉子は中途で口をつぐむ。

「あらゆる可能性は考慮すべきですが、差し当たって今、そこは置いておきましょう」 
「お、おお」

 数凪含め、全員が同意を示した。

「それ、まだ持ってます?」

「んーん。捨てた。読んだら燃やせ、書いてたんだけど、燃やすのめんどかったからビリビリに引き千切って外の排水溝に流したよ」

 人が見ていたら、ちょっと怪しい光景だっただろう。

「数凪さんが素直な人で助かりましたね」
「四季はね」

 伊予は口を尖らせ不服そうだ。

「なんだよ! 頼んできてんだからしょうがないじゃん! お前らだってそうするだろ?」
 
 暫し押し黙り、SNOWは顔を見合わせる。

「最近は、あまり灰皿もありませんしね」
「外国の推理小説みたいに暖炉もないしなあ……」

「なんだよなんだよお前ら。捻じくれ曲がっちゃってまあ。夢を売るアイドルだっつうのに」

 SNOWのいま一つの業務を察してか察さずか、数凪はいかにも残念だ、という風に嘆息した。
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