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052 葛藤と成長

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「春斗くん、本当に強くなったね。私の知ってる春斗くんじゃないみたい」

「自分ではよく分からないけど、そうなのかな」

「うん、そう思う。でもね、それが嫌だってことじゃないの。どう言ったらいいのかな。今の春斗くんを見てると、本当にほっとする。安心出来るんだ」

「……僕はずっと、そういう存在になりたかった」

「春斗くん?」

「子供の頃から、ずっとなっちゃんに守ってもらってた。父さんによく言われてたんだ。男の癖にそんなことでどうする、本当ならお前が奈津子ちゃんを守らないといけないんだぞって。でも、あの頃の僕には出来なかった。頑張ろうって決意しても、なっちゃんに会ったらいつもの自分に戻ってて。結構落ち込んでたんだ」

「そうなんだ。私、知らない内に春斗くんを悩ませていたんだね。ごめんなさい」

「なっちゃんが謝ることじゃないよ。僕が頑張ればいいだけのことなんだから。
 ……おじさんたちを亡くして、辛い思いをしてるなっちゃんを守ることも出来なかった。それどころか、逆に励まされて……病室に来てくれて、僕に呼び掛けてくれて」

「あの時は……お互い様だよ。男とか女とか関係ないよ。親を失った私たちは、哀しむだけじゃいられなかった。
 私たちは支え合うしかなかったの。そしてあの時は、春斗くんの方が少しだけ、立ち直るのに時間が必要だった。だから私が声を掛けた。それだけのことなんだよ」

「それでも僕は、なっちゃんに恩返ししたいと思った。いつか僕が、なっちゃんのことを支えたいって」

「そんな風に思ってくれてたんだね。嬉しいな」

「だから新しい生活が始まって、強くなろうと思った。毎朝ジョギングを始めて、陸上部にも入ったんだ」

「春斗くんが陸上部って、聞いた時驚いたよ。春斗くんのイメージと全然違ってたから」

「体を動かすって、こんなに楽しいことだったんだって思った。どうして早く気付かなかったんだろうって。おかげでほら、背も伸びたみたいだし、腕だって太くなってきたんだ」

 そう言って奈津子に腕を見せる。奈津子は少し躊躇しながらも、二の腕にそっと触れた。

「本当だね。たくましくなってる」

「やった分だけ結果が出る。そう思ったら、益々楽しくなってきたんだ。まだ時間はかかると思うけど、続けていればいつか、なっちゃんを守れる自分になれる、そう思ったんだ」

 春斗の笑顔に赤面しながら、奈津子が小さくうなずいた。

「今の春斗くんを見てると、本当に嬉しい。もうあの頃の春斗くんじゃないんだ、そう思ったらね、ちょっとだけ寂しい気持ちもあったんだけど……でも春斗くん、頑張ったと思う。もう弟じゃない。どっちかって言ったら、春斗くんの方がお兄さんみたい。それにね、私のことを心配してくれて、ここまで来てくれた。そのことが何より嬉しいの。私は一人じゃない、心からそう思えたの」

「なっちゃんは一人じゃないよ。何があっても、僕はなっちゃんの傍にいるから」

「ありがとう、春斗くん」




 いつの間にか、自分より背が高くなっていた春斗。体つきも随分変わった。今の春斗を見ていると、何かあった時、本当に守ってもらえる気がした。男の子って、しばらく会わないだけでこんなにも変わるんだ、そう思った。

 しかし奈津子は思っていた。何より変わったのは、春斗の心だと。
 本当に強くなった。
 どこにいても何をしていても、春斗から目を離すことが出来なかった。自分に自信を持てない人、それが春斗だった。
 そんな春斗を愛おしく思い、ずっと守っていきたいと思っていた。

 しかし今。春斗には自信がみなぎっている。迷いというものを感じない。
 ここに辿り着くまでに、どれだけの苦悩と戦ったのだろう。
 新しい環境の中、たった一人で春斗は戦ってきた。
 そう思うと、彼に敬意が芽生えていた。

 彼は強い。自分なんかよりも遥かに強い。
 やっぱり男の子なんだな、春斗くん。
 奈津子の口元に、笑みがこぼれる。
 生まれ変わった幼馴染。しかし、根底にあるものは同じだ。
 どんな時でも私のことを考えてくれる、優しい心の持ち主。
 だから私は頑張れる。どんなことがあっても、彼がいれば乗り越えていける。そう思った。

 その日、遅くまで二人は語り合った。
 思い出話に花を咲かせ、まだ見ぬ未来に思いをつのらせ。
 両親が死んで二か月。
 奈津子は今、心からの安息に包まれていた。
 何があっても大丈夫だ、そう強く思った。
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