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024 玲子の過去
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「今日はほんと、大変だったね」
放課後。
校庭の自販機前に設置されたベンチに座り、奈津子は亜希と話していた。
掃除当番の玲子を待っていたのだった。
「何だか新鮮だね、亜希ちゃんと二人って」
「そう言えばそうだね。まあ、玲子が気を使ったんだろうけど」
「気を使った?」
「うん。手伝うって言ったけど玲子、ジュースでも飲んで待っててって言ったじゃない? 多分私に、ちゃんと説明しておけって言いたかったんだと思う」
「説明って、何をかな」
「姫も見たでしょ、今日の玲子。いつもと全然雰囲気も違ってたし、驚いたと思う」
「そうだね。少し驚いた」
「おかげでさ、丸岡渾身の嫌がらせも吹っ飛んじゃったし」
「確かにそうかも。もし玲子ちゃんがいつも通りだったら、もうちょっとあのこと、考えてたと思う。でも、ふふっ……亜希ちゃんひどい。渾身の嫌がらせって」
「だってそうじゃない? 姫を怖がらせようとしてあいつ、必死になって虫をつかまえてたんだよ? そう思ったら笑えるじゃない」
「まあ、そうだよね」
「それでね、姫。今から私、玲子のことを少し話そうと思う。色々とその、言ってないことがあるんだ。でもね、決して内緒にしてた訳じゃないの。仲間外れにしてたつもりもない。ただこういうのって、タイミングも必要かなって思ってたの」
「誰にだって、人に言えないことくらいあるよ。私だって、まだまだ二人に話せてないこと、いっぱいあるし」
「ありがとう、姫」
奈津子を見てにっこりと笑い、ジュースを一口飲む。
「玲子ね、昔はすごく我儘な子だったんだ」
やはりそのことかと、奈津子は思った。祖母の多恵子から聞いた話だ。
「町内でも有名な癇癪持ちでね、思い通りにいかないことがあったりしたら、いつも騒ぎを起こしてた。同年代の子らとも、すぐ喧嘩してたの」
「亜希ちゃんとも?」
「私と玲子は家も近いし、子供の頃からずっと一緒だった。だから他の子らと比べると、仲もよかったと思う。でも一旦スイッチが入っちゃったら駄目、何言っても聞いてくれなかったし、よく喧嘩もしたよ」
「今の玲子ちゃんを見てると、信じられないな」
「あの頃は私の方がお姉さんで、いつも玲子の面倒を見てたんだ」
「それも想像出来ないな」
「姫ったら、ひーどーいー」
「ふふっ、ごめんなさい」
「それでね、小学校の高学年になった頃のことだった。玲子の様子がね、少しずつ変わっていったの」
「落ち着いてきたってこと?」
「う~ん、ちょっと違うかな。物静かって意味ではそうなんだけど……何て言ったらいいのかな。ある時を境にね、玲子はすごく周囲を気にするようになっていったの」
「……」
「どこにいても、誰といてもそうだった。いつもの玲子なら、周りの空気おかまいなしに好き勝手してたのに、そういうことも全然なくなって。みんなといても無口で、息を殺すように周囲を観察してたように思う。そうだな……何かに怯えてるような、そんな風に感じたこともあったかな」
「怯えていた……」
「でもね、玲子が落ち着いてきて、おじさんもおばさんも一安心してたんだ」
その後のことは知っている。
胸が締め付けられるような感覚を覚え、奈津子がうつむいた。
「そんなある日のことだった。玲子の目の前で、おばさんが車にはねられたの」
「……」
「即死だったらしい。詳しくは知らないけど、おばさんの遺体、直視出来ないぐらい損傷してたらしい」
「それで、玲子ちゃんは」
「あまりのショックで、その場で気を失ったの。病院でも、半狂乱になってたそうだよ。『お母さん、お母さん』って泣きながら叫んでたみたい。無理もないと思う。10歳の子供が、目の前で母親が死ぬのを見たんだから」
奈津子の脳裏に、同じように父を失った春斗の顔が浮かんだ。
春斗くんと一緒だ。あの時の春斗くんもそんな感じだった、そう思った。
放課後。
校庭の自販機前に設置されたベンチに座り、奈津子は亜希と話していた。
掃除当番の玲子を待っていたのだった。
「何だか新鮮だね、亜希ちゃんと二人って」
「そう言えばそうだね。まあ、玲子が気を使ったんだろうけど」
「気を使った?」
「うん。手伝うって言ったけど玲子、ジュースでも飲んで待っててって言ったじゃない? 多分私に、ちゃんと説明しておけって言いたかったんだと思う」
「説明って、何をかな」
「姫も見たでしょ、今日の玲子。いつもと全然雰囲気も違ってたし、驚いたと思う」
「そうだね。少し驚いた」
「おかげでさ、丸岡渾身の嫌がらせも吹っ飛んじゃったし」
「確かにそうかも。もし玲子ちゃんがいつも通りだったら、もうちょっとあのこと、考えてたと思う。でも、ふふっ……亜希ちゃんひどい。渾身の嫌がらせって」
「だってそうじゃない? 姫を怖がらせようとしてあいつ、必死になって虫をつかまえてたんだよ? そう思ったら笑えるじゃない」
「まあ、そうだよね」
「それでね、姫。今から私、玲子のことを少し話そうと思う。色々とその、言ってないことがあるんだ。でもね、決して内緒にしてた訳じゃないの。仲間外れにしてたつもりもない。ただこういうのって、タイミングも必要かなって思ってたの」
「誰にだって、人に言えないことくらいあるよ。私だって、まだまだ二人に話せてないこと、いっぱいあるし」
「ありがとう、姫」
奈津子を見てにっこりと笑い、ジュースを一口飲む。
「玲子ね、昔はすごく我儘な子だったんだ」
やはりそのことかと、奈津子は思った。祖母の多恵子から聞いた話だ。
「町内でも有名な癇癪持ちでね、思い通りにいかないことがあったりしたら、いつも騒ぎを起こしてた。同年代の子らとも、すぐ喧嘩してたの」
「亜希ちゃんとも?」
「私と玲子は家も近いし、子供の頃からずっと一緒だった。だから他の子らと比べると、仲もよかったと思う。でも一旦スイッチが入っちゃったら駄目、何言っても聞いてくれなかったし、よく喧嘩もしたよ」
「今の玲子ちゃんを見てると、信じられないな」
「あの頃は私の方がお姉さんで、いつも玲子の面倒を見てたんだ」
「それも想像出来ないな」
「姫ったら、ひーどーいー」
「ふふっ、ごめんなさい」
「それでね、小学校の高学年になった頃のことだった。玲子の様子がね、少しずつ変わっていったの」
「落ち着いてきたってこと?」
「う~ん、ちょっと違うかな。物静かって意味ではそうなんだけど……何て言ったらいいのかな。ある時を境にね、玲子はすごく周囲を気にするようになっていったの」
「……」
「どこにいても、誰といてもそうだった。いつもの玲子なら、周りの空気おかまいなしに好き勝手してたのに、そういうことも全然なくなって。みんなといても無口で、息を殺すように周囲を観察してたように思う。そうだな……何かに怯えてるような、そんな風に感じたこともあったかな」
「怯えていた……」
「でもね、玲子が落ち着いてきて、おじさんもおばさんも一安心してたんだ」
その後のことは知っている。
胸が締め付けられるような感覚を覚え、奈津子がうつむいた。
「そんなある日のことだった。玲子の目の前で、おばさんが車にはねられたの」
「……」
「即死だったらしい。詳しくは知らないけど、おばさんの遺体、直視出来ないぐらい損傷してたらしい」
「それで、玲子ちゃんは」
「あまりのショックで、その場で気を失ったの。病院でも、半狂乱になってたそうだよ。『お母さん、お母さん』って泣きながら叫んでたみたい。無理もないと思う。10歳の子供が、目の前で母親が死ぬのを見たんだから」
奈津子の脳裏に、同じように父を失った春斗の顔が浮かんだ。
春斗くんと一緒だ。あの時の春斗くんもそんな感じだった、そう思った。
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