42 / 134
042 隣で芽生える恋心
しおりを挟む「副長?」
聞き覚えのある声に振り向くと、ジャージ姿の篠崎が立っていた。
「篠崎?」
「はいっす。あ、三島さんもお疲れっす」
「篠崎さん、どうしてこんなところに?」
「ランニングっす。たまにこの辺を走ってるんすよ。何もしてないと、体なまっちまうすから」
「流石スポーツマンですね。信也くんも少し見習ったら?」
「勘弁してくれ。来世で馬にでもなったら考えるよ」
「何よそれ、ふふっ」
「篠崎って尼崎だっけ」
「そうっす。今日は天気もいいっすからね、気合入れて走ってるっす」
「尼からここまで走ってきたのかよ。ほんとお前、元気だな」
「そうっすか? これぐらい普通っすよ」
「さくらさん、この人は篠崎さん。私たちと同じ職場の人なんです。篠崎さん、こちらは林田さくらさんと妹のあやめちゃん。うちのお隣さんです」
「はじめましてっす。俺、篠崎って言う……すっす」
「え?」
あれ? 篠崎さんの「すっす」が、更におかしいことになってる。早希が心の中で突っ込んだ。
「篠崎?」
信也が見ると、篠崎はさくらの前で固まっていた。
「え……あ、ああ、すいませんす。林田さくらさんっすね、俺、篠崎徹って言うっす」
「……」
さくらも固まっていた。
「さくらさん? どうかしました?」
信也の声にはっとすると、さくらも慌てて頭を下げた。
「は、はじめまして、林田さくらと申します! この度早希さんと信也さんの隣に、妹と一緒に越してきました。よろしくお願いしゃす!」
「……噛んだね」
「……噛んだな」
信也と早希が同時に突っ込んだ。
「い、いやー、でも今日ってほんと、いい天気っすよね」
「そ、そうですね。ほんと、いい天気で」
これはもしかして……信也と早希が揃って邪悪な笑みを浮かべた。
「篠崎、腹減ってないか」
「腹っすか?」
「今みんなで弁当食ってるんだけど、ちょっと量が多すぎてな。一緒に食べないか」
「いいんすか?」
「篠崎さん、こっち座ってください」
「ありがとうございますっす。いやー、なんか悪いっすね」
早希が手招きし、さくらの隣に座らせた。
「うまそうっすね……あ、サンドイッチもあるんすか。俺、サンドイッチ大好きなんす」
よし! 信也と早希が親指を立てた。
「あ、これ、私が作ったんです。お口に合うか分かりませんが、よかったらどうぞ」
「さくらさんの手作りっすか、遠慮なくいただくっす!」
そう言って、豪快に口の中に放り込む。
「うまいっす! うまいっすよさくらさん!」
「あ、ありがとうございます。篠崎さん、これもよかったらどうぞ」
と、買ってきた缶コーヒーを篠崎に渡す。
「あ、でもそれ、信也くんの」
早希の足を信也がつねる。
「どうだ篠崎。さくらさんのサンドイッチ、うまいだろ」
「うまいっす! こんなうまいサンドイッチ、初めてっす!」
「全部食ってもいいぞ。俺たちは早希の料理、食べてるから」
「ほんとっすか! じゃあ全部いただくっす!」
篠崎が嬉しそうに、次々にサンドイッチを口に放り込んでいく。
喉に詰まり咳き込むと、さくらが背中をさすって「大丈夫ですか」と声をかける。
早希は信也の隣に陣取り、腕を組んでいた。
「あのぉ……早希さん? これだと手が使えないんですけど」
「手ならもう一本あるじゃないですか、副長」
「いや、こっちはその……あやめちゃんが離してくれなくてですね」
「あらやだ副長。いいですね、両手に花で。あー汚らわしい汚らわしい」
「なんでだよ」
「お兄さん」
「あやめちゃん、どうかした?」
「篠崎さんが来てから私、空気になってる……挨拶も出来てない」
「まあまあ、あやめちゃんは俺たちと一緒に食べてよ?」
「……そうする。じゃあ、手が使えないお兄さんに食べさせてあげる。はい、あーん」
「あ、いや……だからね、あやめちゃん」
「食べて、お兄さん」
「は、はい……あーん」
「信也くん、こっちもあるよ。あーん」
「あ、あーん……」
その様は、ハーレムと言うより修羅場。
道行く人たちがそんな目で信也を見ながら、クスクスと笑っていた。
「篠崎、お前は戻るのか?」
「はいっす。お昼もいただきましたし、たっぷり充電出来たっすから。もうひとっ走りするっす」
「そうか、残念だ……今日は我が家でさくらさんたちの引っ越し祝い、第二弾をする予定だったんだが……残念だ」
「なんすかそれ、俺も行っていいんすか!」
「そのつもりで言ったんだが」
「勿論行くっす! さくらさん、いいっすか」
「え? 信也さん、そんなお話してました?」
「……お姉ちゃん、空気読んで」
「え? あやめまで? そんな、空気って言われても、お姉ちゃん分からないよ」
「私もお兄さんと、もうちょっとこうしていたい」
「じゃあ篠崎さん、私たちと一緒に行きましょ」
「は、はいっす三島さん! お邪魔しますっす!」
「ピザパーティーなんてどうだ?」
「いいね。あやめちゃんも一緒に選ぼ」
「ガーリック、多めがいい」
「おおっ、私と好み合うかも」
「早希もにんにく、好きだもんな」
「ガーリックって言って。にんにくって、なんかおじさんみたいじゃない」
「分かった分かった。んじゃ帰るか」
「うん!」
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
あなたが幸せならそれでいいのです
風見ゆうみ
恋愛
流行り病にかかった夫の病気を治すには『神聖な森』と呼ばれている場所にしか生えていない薬草が必要でした。
薬草を採ってきたことで夫の病気は治り、今まで通りの生活に戻るはずだったのに、夫に密かに思いを寄せていた私の親友が、自分が採ってきたと嘘をつき、夫もそれを信じてしまったのです。
わたしが採ってきたと訴えても、親友が採ってきたと周りは口を揃えるため、夫はわたしではなく、親友の意見を信じてしまう。
離婚を言い渡され、追い出された私は、実家に帰ることもできず、住み込みで働ける場所を探すことにしました。
職業斡旋所に行ったわたしは、辺境伯家のメイドを募集している張り紙を見つけ、面接後、そこで働けることに。
社交場に姿を現さないため『熊のような大男』(実物は違いました!)と噂されていた辺境伯の家での暮らしになれてきた頃、元夫の病気が再発して――
※独特の世界観であり設定はゆるめです。
花火と初恋と転生の約束⭐︎公爵夫人は花火師と恋をする
Y.Itoda
恋愛
前世で病床に伏していた主人公は、愛する人との再会を夢見ながら命を終えた。気がつけば異世界で公爵夫人として生まれ変わり、前世の分まで愛を注ごうと決意する。
しかし、
婚約者のアレクサンダーは初恋の相手に未練を抱き、彼の心を掴むのは一筋縄ではいかない。主人公は彼の心をつかもうと奮闘するが、数々のハプニングと困難に直面する。
そんな中、田舎の花火大会で出会った花火師のリアムと共に予期せぬ事件を乗り越え、彼との深い絆を育んでいく。最終的に、幻想的な夜空に咲く花火を見上げながら、過去と現在を笑い合い、心からの幸せを手に入れる新たな人生の一歩を踏み出す。
【完結】旦那様、お飾りですか?
紫崎 藍華
恋愛
結婚し新たな生活に期待を抱いていた妻のコリーナに夫のレックスは告げた。
社交の場では立派な妻であるように、と。
そして家庭では大切にするつもりはないことも。
幸せな家庭を夢見ていたコリーナの希望は打ち砕かれた。
そしてお飾りの妻として立派に振る舞う生活が始まった。
彼女のことは許さない
まるまる⭐️
恋愛
「彼女のことは許さない」 それが義父様が遺した最期の言葉でした…。
トラマール侯爵家の寄り子貴族であるガーネット伯爵家の令嬢アリエルは、投資の失敗で多額の負債を負い没落寸前の侯爵家に嫁いだ。両親からは反対されたが、アリエルは初恋の人である侯爵家嫡男ウィリアムが自分を選んでくれた事が嬉しかったのだ。だがウィリアムは手広く事業を展開する伯爵家の財力と、病に伏す義父の世話をする無償の働き手が欲しかっただけだった。侯爵夫人とは名ばかりの日々。それでもアリエルはずっと義父の世話をし、侯爵家の持つ多額の負債を返済する為に奔走した。いつかウィリアムが本当に自分を愛してくれる日が来ると信じて。
それなのに……。
負債を返し終えると、夫はいとも簡単にアリエルを裏切り離縁を迫った。元婚約者バネッサとよりを戻したのだ。
最初は離縁を拒んだアリエルだったが、彼女のお腹に夫の子が宿っていると知った時、侯爵家を去る事を決める…。
この結婚は間違いじゃない
m
恋愛
「━━別れよう、リディア。
元々、この結婚は間違いだった。なかったことにしよう……。お互いの、いや、私達三人のために。」
リディアの1度目の夫は行方不明、2度目の夫からも離縁されようとしていた。
7年ぶりに行方不明だった夫が帰ってくる
ゆる設定世界観です
浮気相手とお幸せに
杉本凪咲
恋愛
「命をかけて君を幸せにすると誓う」そう言った彼は、いとも簡単に浮気をした。しかも、浮気相手を妊娠させ、私に不当な婚約破棄を宣言してくる。悲しみに暮れる私だったが、ある手紙を見つけて……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる