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よそ者と裏切り者
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姉さんも私も、ずっと母さんを見てきた。
子供ながらに、よそ者扱いされているのは分かっていた。
それでも母さんは、いつもニコニコ笑っていた。親族とうまくやっていこうと頑張っていた。
でも、周囲はそれを認めなかった。
空気の読めない厄介者。
村の一員になろうともしないよそ者。
跡継ぎも産めない役立たず。
そう言って母さんを貶めた。
父さんが死んでから、母さんは一人でこの家を切り盛りしてきた。
大変だったと思う。
協力してくれる人は一人もいない。
それでも母さんは、この家に嫁いだ人間として、その責務を全うしようと頑張った。
何より母さんには、私と姉さん、二人の子供がいた。
この子たちだけは守らないといけない、ずっとそう思い、自分を犠牲にしてきた。
そんな母さんを見て。
私は心から不憫だと思った。
親族はまず、姉さんに目を向けた。
姉さんは自由奔放な性格だったが、頭もよく、高校で生徒会長もしていた。
そんな姉さんに婿を取らせ、この家を存続させる。そういう目論見だったようだ。
でも姉さんは、卒業と同時に家を出た。村を捨てた。
子供の頃から母さんを見てきて。
こんな人生送りたくない。いつもそう言っていた。
そして、その言葉通りに動いた。
都会の大学に進学し、そのまま就職。
数年後、職場で出会った人と結婚してしまった。
親族は大騒ぎだった。
みんなが母さんを責め立てた。
でも母さんは、いつもと変わらずニコニコ笑いながら、
「まあ、あの子がそう決めたんだから、いいじゃないですか」
そう言って取り合わなかった。
呆れかえる親族たち。
そんなに家が大事なら、あなたたちの誰かが本家を継げばいいのに。子供ながらにそう思った。
でも、名乗り出る者は一人もいなかった。
自分たちは分家として、本家に寄生して甘い汁を吸いたいだけなのだ。
本家にかかる重圧、責任を背負っても構わないと意気込む者など、一人もいなかった。
卑怯者め。
そんな彼らが次に目をつけたのは、当然私だった。
本家の血を受け継ぐ、最後の人間。
彼らは私に対して、露骨に優しくなっていった。
見え見えなのよ、あなたたち。
私を村から出さず、婿を取らせ、殉じさせるつもりなんだ。
まだ高校2年だった私は、そんな大人たちの視線にさらされながら、自分の未来に悲嘆した。
逃げることは出来ないのかな。
ずるいよ姉さん。
私を置いてけぼりにして、一人だけ自由になって。
そう思い恨んだ。
「あんたも好きにすればいいんだよ」
どこまでも笑顔で、母さんはそう言ってくれた。
「母さんはいいの? 私まで出ちゃったら、本当に一人になるんだよ?」
「そんな心配、子供がしなくていいんだよ。私は私の意思で、この家に嫁いだ。失敗もたくさんしたし、間違いもいっぱいあった。でもね、それは私の人生なの。私の選択なの。
でもあんたは違う。あんたは私じゃないし、未来にはたくさんの可能性がある。家のことを考えて、それを選択しても勿論いい。でもね、責任や義務感で選んじゃ駄目。必ず後悔するから」
「母さんは後悔したの?」
「そりゃあ長いこと生きてる訳だし、後悔なんていっぱいしたわ。と言うか、後悔したことのない人なんて、いるのかしら。
でもね、それを誰が選択したのかで、意味は違ってくるの。少なくとも私は、自分の意思で今の生活を選んだ。だから満足してるよ」
「自分で……」
「しっかり悩みなさい、自分の為に。間違っても、誰かの為に自分を犠牲に、なんてことにならないようにね」
母さんの言葉が、私の背中を押してくれた。
私も姉さんと同じく、都会の大学に進学する道を選んだ。
親族の怒りは、想像するまでもなかった。
この家を潰すつもりか。どんな教育をしてきたんだ。
そう言って母さんを責めた。
でも母さんは、相変わらずニコニコと笑い、受け流していた。
面白いもので、家を出ると決めた日から、周囲の私を見る目が変わった。
村八分って、こんな感じなんだな。そう思った。
学校でも、友達が離れていった。
狭い村社会。噂の流れるのは早い。
あの子は家を、村を捨てたんだ。
そんな子と仲良くしてたら、自分にまで火の粉が飛んでくる。
自分を守る為の行動だったんだろう。
おかげで覚悟が決まった。
こんな村、こっちから捨ててやる。
言うことを聞かなくなった途端に態度を変える。そんな親族なんて、身内じゃない。
そう思った。
子供ながらに、よそ者扱いされているのは分かっていた。
それでも母さんは、いつもニコニコ笑っていた。親族とうまくやっていこうと頑張っていた。
でも、周囲はそれを認めなかった。
空気の読めない厄介者。
村の一員になろうともしないよそ者。
跡継ぎも産めない役立たず。
そう言って母さんを貶めた。
父さんが死んでから、母さんは一人でこの家を切り盛りしてきた。
大変だったと思う。
協力してくれる人は一人もいない。
それでも母さんは、この家に嫁いだ人間として、その責務を全うしようと頑張った。
何より母さんには、私と姉さん、二人の子供がいた。
この子たちだけは守らないといけない、ずっとそう思い、自分を犠牲にしてきた。
そんな母さんを見て。
私は心から不憫だと思った。
親族はまず、姉さんに目を向けた。
姉さんは自由奔放な性格だったが、頭もよく、高校で生徒会長もしていた。
そんな姉さんに婿を取らせ、この家を存続させる。そういう目論見だったようだ。
でも姉さんは、卒業と同時に家を出た。村を捨てた。
子供の頃から母さんを見てきて。
こんな人生送りたくない。いつもそう言っていた。
そして、その言葉通りに動いた。
都会の大学に進学し、そのまま就職。
数年後、職場で出会った人と結婚してしまった。
親族は大騒ぎだった。
みんなが母さんを責め立てた。
でも母さんは、いつもと変わらずニコニコ笑いながら、
「まあ、あの子がそう決めたんだから、いいじゃないですか」
そう言って取り合わなかった。
呆れかえる親族たち。
そんなに家が大事なら、あなたたちの誰かが本家を継げばいいのに。子供ながらにそう思った。
でも、名乗り出る者は一人もいなかった。
自分たちは分家として、本家に寄生して甘い汁を吸いたいだけなのだ。
本家にかかる重圧、責任を背負っても構わないと意気込む者など、一人もいなかった。
卑怯者め。
そんな彼らが次に目をつけたのは、当然私だった。
本家の血を受け継ぐ、最後の人間。
彼らは私に対して、露骨に優しくなっていった。
見え見えなのよ、あなたたち。
私を村から出さず、婿を取らせ、殉じさせるつもりなんだ。
まだ高校2年だった私は、そんな大人たちの視線にさらされながら、自分の未来に悲嘆した。
逃げることは出来ないのかな。
ずるいよ姉さん。
私を置いてけぼりにして、一人だけ自由になって。
そう思い恨んだ。
「あんたも好きにすればいいんだよ」
どこまでも笑顔で、母さんはそう言ってくれた。
「母さんはいいの? 私まで出ちゃったら、本当に一人になるんだよ?」
「そんな心配、子供がしなくていいんだよ。私は私の意思で、この家に嫁いだ。失敗もたくさんしたし、間違いもいっぱいあった。でもね、それは私の人生なの。私の選択なの。
でもあんたは違う。あんたは私じゃないし、未来にはたくさんの可能性がある。家のことを考えて、それを選択しても勿論いい。でもね、責任や義務感で選んじゃ駄目。必ず後悔するから」
「母さんは後悔したの?」
「そりゃあ長いこと生きてる訳だし、後悔なんていっぱいしたわ。と言うか、後悔したことのない人なんて、いるのかしら。
でもね、それを誰が選択したのかで、意味は違ってくるの。少なくとも私は、自分の意思で今の生活を選んだ。だから満足してるよ」
「自分で……」
「しっかり悩みなさい、自分の為に。間違っても、誰かの為に自分を犠牲に、なんてことにならないようにね」
母さんの言葉が、私の背中を押してくれた。
私も姉さんと同じく、都会の大学に進学する道を選んだ。
親族の怒りは、想像するまでもなかった。
この家を潰すつもりか。どんな教育をしてきたんだ。
そう言って母さんを責めた。
でも母さんは、相変わらずニコニコと笑い、受け流していた。
面白いもので、家を出ると決めた日から、周囲の私を見る目が変わった。
村八分って、こんな感じなんだな。そう思った。
学校でも、友達が離れていった。
狭い村社会。噂の流れるのは早い。
あの子は家を、村を捨てたんだ。
そんな子と仲良くしてたら、自分にまで火の粉が飛んでくる。
自分を守る為の行動だったんだろう。
おかげで覚悟が決まった。
こんな村、こっちから捨ててやる。
言うことを聞かなくなった途端に態度を変える。そんな親族なんて、身内じゃない。
そう思った。
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