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第一部 プロローグ
00 談笑
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生きとし生けるものはいずれ死を迎える。では一体、死んだ人間はどこに向かうのか。
かつて人間は、人生最大の恐怖である死の向こう側の世界を創造し、そして死の本質を覗こうとした。不可解なものというのは、人間が死を恐れる材でもあったからだ。自分が知らないものというのは、なにより怖いし、不気味でならない。そういった不安を解決させようと創造された世界は星の数ほどある。
未知なる恐怖に対抗する為の神や世界を創造し、尊敬し、それを信仰して死後の世界に縋りつく―――死を尊重することで自らを救済する手立てを生み出そうとしたんだ。
そして、時代が変わって今じゃどこも希死念慮やら無関心が美徳やら……死は生者にとってのエンターテインメントだ。人間はいつか死ぬだなんて虚無的心理が他者の死を見ることで安心を得ようと働きかけているのかもしれない。死は全ての責任や苦痛から解放されるだなんて甘美な言葉でさ。
そうやって死を美化することは、宗教じみた考えを彷彿させられるものがある。結局、今も昔も無意味であることは変わらないのに、哀れだよなあ。
君達にとっては当然なのかもしれないけど、人間はとても異質で奇妙な動物だ。死や不幸を認識する知能や底抜けの創造力によって生み出される行動原理は目を見張る不可解さがあり、けれども、目が離せなくなるような確かな輝きがある。苦しみ悶えながら生と死の間で葛藤する様とかね。他の動物では見ることが出来ない、人間ならではだよ。
何かを信じ続けて生きたとして、それが報われる可能性なんてないかもしれないのに。目に見えないことを信じようとしてさ―――まあ結局それも全部、自分に都合のいい何かを信じているだけなんだけどね。
好意的に接してくる人がもしかしたら裏では嘲笑的に見下しているかもしれない。悩みのなさそうな愉快な人が、いつも死ぬことばかり考えているかもしれない。いかにも優しそうな人が実は凶悪な殺人鬼だったりして。
世の中、目に見えるものだけが全てじゃないのさ。さっきと言っていることが違うって? そもそも否定してないよ? 俺は君たちを肯定してんの。
誰しも不完全で、醜くて―――自分に都合のいい何かを信じようとしている。自分に都合のいい何かを求めている。それに至った先が拗れた思想に過ぎないだけ。そのためには真実さえねじ曲げ、記憶を改ざんし、偽の真実を本物だと信じることも厭わない。
つまりはさ、人間って根っからの幻想好きなんだよ。幻想に囚われて、結局真実をこの目で見ていないのさ。脳がそう錯覚している。
自分にとっていい人だったらいいな、自分を好きでいてくれたらいいな。他人の真実なんて分かりっこない。だから、自分の都合のいい方に真実を作り上げる。要は宗教も典型的なソレだよね~って話。
実に愚か。だけど、俺はそんな身勝手で自己中心的な人間が好きだよ。もちろん本心さ。
さて、そんな数多くある死後の世界の一説にリーインカーネイションというものが存在するらしい。生あるものが死後彷徨いの中、次の世に向けて生と死を繰り返す。簡単に言ってしまえば死んでも魂は違った体を手に入れて、次なる人生を歩めるという話さ。
現世で徳を積めば積むほど来世では恵まれた人間になれる。そういった一見都合の良さそうなものに、人間性を見つめ直す寓話の教訓性が見え隠れしている宗教的思想は嫌いじゃない。寧ろ好きだ。死とは他者から忘却される無だけの世界なんてつまらない思想よりもね。欲深くて、愚かで、実にくだらない。人間はそうでなくちゃ面白くないだろう?
今回こんな長話をしようとしたのは、そんな輪廻とやらの中でちょいと面白い魂を見つけたからなんだ。
どの世界でも目の前で失い、来世になってまた同じ運命を繰り返す。いつか失い、消えると分かっていたとしても、それに立ち向かおうとする魂がさ。いやあ本当に、愚かで哀れな魂だよねえ。いつだって俺を裏切らない驚きを与えてくれる。これだから人間は面白い。特にこいつの魂は俺のお気に入りなんだ。だから、誰にも渡さないし、あげないよ。だって先に目をつけたのは俺だからね。
え? 結局のところ俺は誰かって? 随分と今更だなあ。俺はただの傍観者だよ。それぞれの世界の魂を見ては楽しみ、そして最後は喰っていた、なんて。あっは、その怯えた顔いいねえ。そういう顔、俺大好物なんだ。
まあ、半分冗談だよ。楽しさ驚きこそが俺の生きる糧。そう簡単に喰って楽しみが無くなったら、つまらないだろ? 俺は最後まで好きなものを取っておくタイプだからさ。一番美味しくなるその時まで待っているよ。こう見えて結構忍耐強いんだよ、俺って。
さて、無駄話はここまでかな。俺ばかり話すのも飽きちゃったしね。
俺はさ、退屈な事が大嫌いなんだ。だからさ、君も俺を楽しませてくれるかい? あ、でもつまらなかったら喰べちゃうよ、なーんてね。
さあ、俺に聞かせてくれよ。君達が紡いできた「生きた証」とやらをさ。
かつて人間は、人生最大の恐怖である死の向こう側の世界を創造し、そして死の本質を覗こうとした。不可解なものというのは、人間が死を恐れる材でもあったからだ。自分が知らないものというのは、なにより怖いし、不気味でならない。そういった不安を解決させようと創造された世界は星の数ほどある。
未知なる恐怖に対抗する為の神や世界を創造し、尊敬し、それを信仰して死後の世界に縋りつく―――死を尊重することで自らを救済する手立てを生み出そうとしたんだ。
そして、時代が変わって今じゃどこも希死念慮やら無関心が美徳やら……死は生者にとってのエンターテインメントだ。人間はいつか死ぬだなんて虚無的心理が他者の死を見ることで安心を得ようと働きかけているのかもしれない。死は全ての責任や苦痛から解放されるだなんて甘美な言葉でさ。
そうやって死を美化することは、宗教じみた考えを彷彿させられるものがある。結局、今も昔も無意味であることは変わらないのに、哀れだよなあ。
君達にとっては当然なのかもしれないけど、人間はとても異質で奇妙な動物だ。死や不幸を認識する知能や底抜けの創造力によって生み出される行動原理は目を見張る不可解さがあり、けれども、目が離せなくなるような確かな輝きがある。苦しみ悶えながら生と死の間で葛藤する様とかね。他の動物では見ることが出来ない、人間ならではだよ。
何かを信じ続けて生きたとして、それが報われる可能性なんてないかもしれないのに。目に見えないことを信じようとしてさ―――まあ結局それも全部、自分に都合のいい何かを信じているだけなんだけどね。
好意的に接してくる人がもしかしたら裏では嘲笑的に見下しているかもしれない。悩みのなさそうな愉快な人が、いつも死ぬことばかり考えているかもしれない。いかにも優しそうな人が実は凶悪な殺人鬼だったりして。
世の中、目に見えるものだけが全てじゃないのさ。さっきと言っていることが違うって? そもそも否定してないよ? 俺は君たちを肯定してんの。
誰しも不完全で、醜くて―――自分に都合のいい何かを信じようとしている。自分に都合のいい何かを求めている。それに至った先が拗れた思想に過ぎないだけ。そのためには真実さえねじ曲げ、記憶を改ざんし、偽の真実を本物だと信じることも厭わない。
つまりはさ、人間って根っからの幻想好きなんだよ。幻想に囚われて、結局真実をこの目で見ていないのさ。脳がそう錯覚している。
自分にとっていい人だったらいいな、自分を好きでいてくれたらいいな。他人の真実なんて分かりっこない。だから、自分の都合のいい方に真実を作り上げる。要は宗教も典型的なソレだよね~って話。
実に愚か。だけど、俺はそんな身勝手で自己中心的な人間が好きだよ。もちろん本心さ。
さて、そんな数多くある死後の世界の一説にリーインカーネイションというものが存在するらしい。生あるものが死後彷徨いの中、次の世に向けて生と死を繰り返す。簡単に言ってしまえば死んでも魂は違った体を手に入れて、次なる人生を歩めるという話さ。
現世で徳を積めば積むほど来世では恵まれた人間になれる。そういった一見都合の良さそうなものに、人間性を見つめ直す寓話の教訓性が見え隠れしている宗教的思想は嫌いじゃない。寧ろ好きだ。死とは他者から忘却される無だけの世界なんてつまらない思想よりもね。欲深くて、愚かで、実にくだらない。人間はそうでなくちゃ面白くないだろう?
今回こんな長話をしようとしたのは、そんな輪廻とやらの中でちょいと面白い魂を見つけたからなんだ。
どの世界でも目の前で失い、来世になってまた同じ運命を繰り返す。いつか失い、消えると分かっていたとしても、それに立ち向かおうとする魂がさ。いやあ本当に、愚かで哀れな魂だよねえ。いつだって俺を裏切らない驚きを与えてくれる。これだから人間は面白い。特にこいつの魂は俺のお気に入りなんだ。だから、誰にも渡さないし、あげないよ。だって先に目をつけたのは俺だからね。
え? 結局のところ俺は誰かって? 随分と今更だなあ。俺はただの傍観者だよ。それぞれの世界の魂を見ては楽しみ、そして最後は喰っていた、なんて。あっは、その怯えた顔いいねえ。そういう顔、俺大好物なんだ。
まあ、半分冗談だよ。楽しさ驚きこそが俺の生きる糧。そう簡単に喰って楽しみが無くなったら、つまらないだろ? 俺は最後まで好きなものを取っておくタイプだからさ。一番美味しくなるその時まで待っているよ。こう見えて結構忍耐強いんだよ、俺って。
さて、無駄話はここまでかな。俺ばかり話すのも飽きちゃったしね。
俺はさ、退屈な事が大嫌いなんだ。だからさ、君も俺を楽しませてくれるかい? あ、でもつまらなかったら喰べちゃうよ、なーんてね。
さあ、俺に聞かせてくれよ。君達が紡いできた「生きた証」とやらをさ。
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