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20.通じない心(前世クリフトン)
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クリフトンは密かにそして早急に準備を進めた。そして父に相談した。
「ベイトソン公爵家の娘と婚約したい?」
「はい。お願いします」
父は思案すると首を振った。
「駄目だ。ベイトソン公爵は無能とまではいわぬがお前の後ろ盾としては弱い。それにブラックストン公爵が納得しないだろう。エレンは王太子妃に相応しい能力もあるしすでに妃教育も進めてしまっている。王妃が横やりを入れてもエレンがお前の婚約者になることは決まっている。今さら別の令嬢に変えるつもりはない」
「実は隣国の王太子エイブラムがエレンに思いを寄せています。ぜひ王妃に迎えたいと。見返りはダイヤモンド鉱山をひとつと多額の支度金の用意があると言っています」
「そんな話は聞いたことがないぞ」
父は怪訝な顔で呟く。
「彼は立場を弁えその素振りを見せなかったが私は気付いていました。今回私にも一緒になりたい人が出来てこれはお互いにいい機会だと話をしたのです。私はエイブラムの想いを叶えてやりたいと思っています。近いうちに正式に隣国から打診が来るでしょう」
「ダイヤモンド鉱山を差し出すほどエレンに執心なのか……」
父は頭の中で計算をしているようだ。最近発見されたばかりの鉱山、悪い話ではない。鉱山の権利を得て、自国の公爵令嬢が隣国の王太子妃になり国同士の絆も深まる。エレンが国を出れば必然的に家格が高く、また公爵家を継ぐための勉強をしてきたマリオンが一番王太子妃に相応しい。ベイトソン公爵の能力が低いからこそブラックストン公爵の政敵にはなり得ない。反対はしないはずだ。
クリフトンはだいぶ骨を折ってこの話を隣国に持ち掛けた。隣国の王太子であるエイブラムは初めて我が国に来てエレンを見たときから恋をしていた。目の前で人が恋に落ちるのを見て驚いたことを覚えている。
だが彼は理性的で己を律し、クリフトンの婚約者に内定していることを知ってエレンのことを諦めた。しかし未練が捨てられないのかエイブラムはいまだ婚約者を決めていなかった。クリフトンとエレンの結婚を見届けてから考えるつもりだったようだ。
なんと殊勝なことか。エイブラムとはいい友人付き合いをしていたがわざわざエレンとの仲を取り持つつもりはなかった。誰かの幸せのために何かをするのは面倒なだけで自分にメリットはなかった。マリオンに会うまでは――。
まずエレンに相談した。なぜならエレンもエイブラムに好意を抱いていた。利害が一致したのでエレンは父親の公爵を説得し、クリフトンはエイブラムに事情を話し決断を迫った。
「本当にエレン嬢とクリフトンは思い合っていないのか? 私のせいで無理をしているのでは……」
エイブラムは心優しく身分にかかわらず相手を気遣う。人の好さに笑いそうになる。こんなにお優しくて将来国を率いていけるのかと心配になる。きっとエレンはそこに惹かれている。だがクリフトンから見れば情けないと感じた。一国の王太子ならばもっと自我を通して望む者を手に入れてもいいだろうに。そう、クリフトンのように。
「いいや。エレンを女性として意識したことはない。他に好きな女性がいるんだ。エイブラムがエレンを望んでくれれば私はその女性を妃に迎えることができる。ただブラックストン公爵や父上を説得するにはそれなりのものを提示してもらわないと……」
エイブラムはホッとしたように笑顔を見せた。そして力強く頷く。
「それならダイヤモンド鉱山を差し出そう。もちろん支度金も出す。それなら国王陛下も公爵も納得してくれるのではないか?」
それはクリフトンの期待以上の申し出だった。それを独断で決めていいのかと訝しむ。
「エイブラムにそんな権限があるのか?」
「ああ、その鉱山は私の私有のものだから問題ない。私が手掛けた事業が上手くいって褒賞に受け取ったものだ」
「そうか」
隣国は多くの鉱山を有し、また天然ガスなど地下資源に恵まれている。エイブラム個人の保有する資産は多そうだ。これならブラックストン公爵も納得するだろう。そうして話がまとまり父にエレンを隣国に嫁がせる説得をし終え上手くまとまった。
「まあ、隣国と親しくしておくほうが得策なのは明らかだ。すでにブラックストン公爵を説得しているのならベイトソン公爵令嬢のことは認めよう。身分的にも問題はないし素行も悪い話を聞いたことがない」
ベイトソン公爵を呼び出しマリオンを妃に迎えたい旨を伝えれば、驚きの後大袈裟なほど喜んだ。そして愛人との間に生まれた子を嫡子に出来ると浮かれている。その姿にマリオンが気の毒になった。彼女は父親の中でどうでもいい存在として扱われている。でも、もう大丈夫だ。これからはマリオンには私がいる。
――ようやく顔合わせの日が来た。
「マリオン。これからよろしく」
「はい。こちらこそ至らぬ身ではありますが精一杯務めさせていただきます」
彼女はこの婚約が政略だと思っている。そういう建前なのだから仕方がないが、私にとっては心から彼女を愛しいと思っての婚約だ。それを伝えられないのが歯がゆい。だが焦らなくても彼女とはこれから長い時間を過ごすことになる。いずれクリフトンの気持ちを理解するだろう。
そして交流を始めたが――。
マリオンはクリフトンに対して一歩どころか何歩も下って歩こうとするほど遠慮をする。婚約者なら堂々と隣にいて欲しい。奥ゆかしさが好ましかったが度を過ぎれば不快になる。それでもまだ彼女は戸惑っているのだと自分に言い聞かせ穏やかに語りかけ歩み寄った。
急に始まった妃教育の大変さも想像できるがほとんど一緒に過ごす時間は取れない。クリフトンは不満を押し殺しマリオンのフォローをした。積極的に二人の時間を設けるが彼女は儀礼的な笑みしか浮かべない。あの社交界デビューした時の笑みを見せて欲しいのに、一向にクリフトンに心を許さないマリオンに対し段々苛立つようになる。
クリフトンは言い寄られることはあるが自分から特定の女性に好意を示したことがない。また自分の気持ちを伝えたこともない。常に周りの人間はクリフトンの顔色を窺い自分が何かを言う前に察して動く。それが当然だ。だからマリオンもクリフトンの気持ちを察し、彼女から好意を伝えて欲しかった。
マリオンにプレゼントを贈っても控えめにお礼を言うだけでさほど感激したようには見えない。ライラならこちらが驚くほどはしゃぐのに不満なのか? クリフトンはマリオンが自分の望む反応をしないことに納得できなかった。自分が片思いをするなど想像すらしたことがない。自分が愛せば同じくらいもしくはそれ以上に相手が愛してくれると思っていた。
夜会でもクリフトンが声をかければ令嬢たちは感激して喜ぶのにマリオンの反応は違う。自分がマリオンに向ける熱量と彼女が自分に向けるものの違いが許せない。
マリオンと一緒に夜会に出席したとき彼女はときおり周囲を見渡している。最初は友人を探しているのかと思ったが違うようだ。ある日マリオンがある騎士を見つけたときに、一瞬だけその口元を綻ばせた。嬉しそうに目を細める。クリフトンに向ける表情とは違うそれに愕然とした。
クリフトンはその騎士を調べた。騎士の名はコンラッド。エッジ伯爵家の子息でベイトソン公爵がマリオンの婚約者にしようとしていた男。だが二人は親戚であっても付き合いはなく特別な中ではなかったと報告を受けた。
でもマリオンの様子からはそうとは思えない……。クリフトンは急激に頭の中が怒りでいっぱいになった。私という婚約者がいながら別の男に思いを寄せているのか。それは母と同じふしだらなことだ。
「何かの間違いだ……」
マリオンはそんな女じゃない。クリフトンは必死で否定した。エレンのように気が強くなく、ライラのように我儘じゃなく、清純で穏やかな女性なはずだ。
それからマリオンを監視させたが特にコンラッドと連絡を取っている様子はない。それなら何故クリフトンを愛さない? クリフトンは苛立ちから母のご機嫌窺いに来ていたライラに思わず愚痴をこぼしてしまった。
「私は……マリオンの気持ちが分からない」
「それならば試してみましょうよ!」
「試す?」
「ええ。そうです!」
クリフトンは頷きライラの提案に乗った。
「ベイトソン公爵家の娘と婚約したい?」
「はい。お願いします」
父は思案すると首を振った。
「駄目だ。ベイトソン公爵は無能とまではいわぬがお前の後ろ盾としては弱い。それにブラックストン公爵が納得しないだろう。エレンは王太子妃に相応しい能力もあるしすでに妃教育も進めてしまっている。王妃が横やりを入れてもエレンがお前の婚約者になることは決まっている。今さら別の令嬢に変えるつもりはない」
「実は隣国の王太子エイブラムがエレンに思いを寄せています。ぜひ王妃に迎えたいと。見返りはダイヤモンド鉱山をひとつと多額の支度金の用意があると言っています」
「そんな話は聞いたことがないぞ」
父は怪訝な顔で呟く。
「彼は立場を弁えその素振りを見せなかったが私は気付いていました。今回私にも一緒になりたい人が出来てこれはお互いにいい機会だと話をしたのです。私はエイブラムの想いを叶えてやりたいと思っています。近いうちに正式に隣国から打診が来るでしょう」
「ダイヤモンド鉱山を差し出すほどエレンに執心なのか……」
父は頭の中で計算をしているようだ。最近発見されたばかりの鉱山、悪い話ではない。鉱山の権利を得て、自国の公爵令嬢が隣国の王太子妃になり国同士の絆も深まる。エレンが国を出れば必然的に家格が高く、また公爵家を継ぐための勉強をしてきたマリオンが一番王太子妃に相応しい。ベイトソン公爵の能力が低いからこそブラックストン公爵の政敵にはなり得ない。反対はしないはずだ。
クリフトンはだいぶ骨を折ってこの話を隣国に持ち掛けた。隣国の王太子であるエイブラムは初めて我が国に来てエレンを見たときから恋をしていた。目の前で人が恋に落ちるのを見て驚いたことを覚えている。
だが彼は理性的で己を律し、クリフトンの婚約者に内定していることを知ってエレンのことを諦めた。しかし未練が捨てられないのかエイブラムはいまだ婚約者を決めていなかった。クリフトンとエレンの結婚を見届けてから考えるつもりだったようだ。
なんと殊勝なことか。エイブラムとはいい友人付き合いをしていたがわざわざエレンとの仲を取り持つつもりはなかった。誰かの幸せのために何かをするのは面倒なだけで自分にメリットはなかった。マリオンに会うまでは――。
まずエレンに相談した。なぜならエレンもエイブラムに好意を抱いていた。利害が一致したのでエレンは父親の公爵を説得し、クリフトンはエイブラムに事情を話し決断を迫った。
「本当にエレン嬢とクリフトンは思い合っていないのか? 私のせいで無理をしているのでは……」
エイブラムは心優しく身分にかかわらず相手を気遣う。人の好さに笑いそうになる。こんなにお優しくて将来国を率いていけるのかと心配になる。きっとエレンはそこに惹かれている。だがクリフトンから見れば情けないと感じた。一国の王太子ならばもっと自我を通して望む者を手に入れてもいいだろうに。そう、クリフトンのように。
「いいや。エレンを女性として意識したことはない。他に好きな女性がいるんだ。エイブラムがエレンを望んでくれれば私はその女性を妃に迎えることができる。ただブラックストン公爵や父上を説得するにはそれなりのものを提示してもらわないと……」
エイブラムはホッとしたように笑顔を見せた。そして力強く頷く。
「それならダイヤモンド鉱山を差し出そう。もちろん支度金も出す。それなら国王陛下も公爵も納得してくれるのではないか?」
それはクリフトンの期待以上の申し出だった。それを独断で決めていいのかと訝しむ。
「エイブラムにそんな権限があるのか?」
「ああ、その鉱山は私の私有のものだから問題ない。私が手掛けた事業が上手くいって褒賞に受け取ったものだ」
「そうか」
隣国は多くの鉱山を有し、また天然ガスなど地下資源に恵まれている。エイブラム個人の保有する資産は多そうだ。これならブラックストン公爵も納得するだろう。そうして話がまとまり父にエレンを隣国に嫁がせる説得をし終え上手くまとまった。
「まあ、隣国と親しくしておくほうが得策なのは明らかだ。すでにブラックストン公爵を説得しているのならベイトソン公爵令嬢のことは認めよう。身分的にも問題はないし素行も悪い話を聞いたことがない」
ベイトソン公爵を呼び出しマリオンを妃に迎えたい旨を伝えれば、驚きの後大袈裟なほど喜んだ。そして愛人との間に生まれた子を嫡子に出来ると浮かれている。その姿にマリオンが気の毒になった。彼女は父親の中でどうでもいい存在として扱われている。でも、もう大丈夫だ。これからはマリオンには私がいる。
――ようやく顔合わせの日が来た。
「マリオン。これからよろしく」
「はい。こちらこそ至らぬ身ではありますが精一杯務めさせていただきます」
彼女はこの婚約が政略だと思っている。そういう建前なのだから仕方がないが、私にとっては心から彼女を愛しいと思っての婚約だ。それを伝えられないのが歯がゆい。だが焦らなくても彼女とはこれから長い時間を過ごすことになる。いずれクリフトンの気持ちを理解するだろう。
そして交流を始めたが――。
マリオンはクリフトンに対して一歩どころか何歩も下って歩こうとするほど遠慮をする。婚約者なら堂々と隣にいて欲しい。奥ゆかしさが好ましかったが度を過ぎれば不快になる。それでもまだ彼女は戸惑っているのだと自分に言い聞かせ穏やかに語りかけ歩み寄った。
急に始まった妃教育の大変さも想像できるがほとんど一緒に過ごす時間は取れない。クリフトンは不満を押し殺しマリオンのフォローをした。積極的に二人の時間を設けるが彼女は儀礼的な笑みしか浮かべない。あの社交界デビューした時の笑みを見せて欲しいのに、一向にクリフトンに心を許さないマリオンに対し段々苛立つようになる。
クリフトンは言い寄られることはあるが自分から特定の女性に好意を示したことがない。また自分の気持ちを伝えたこともない。常に周りの人間はクリフトンの顔色を窺い自分が何かを言う前に察して動く。それが当然だ。だからマリオンもクリフトンの気持ちを察し、彼女から好意を伝えて欲しかった。
マリオンにプレゼントを贈っても控えめにお礼を言うだけでさほど感激したようには見えない。ライラならこちらが驚くほどはしゃぐのに不満なのか? クリフトンはマリオンが自分の望む反応をしないことに納得できなかった。自分が片思いをするなど想像すらしたことがない。自分が愛せば同じくらいもしくはそれ以上に相手が愛してくれると思っていた。
夜会でもクリフトンが声をかければ令嬢たちは感激して喜ぶのにマリオンの反応は違う。自分がマリオンに向ける熱量と彼女が自分に向けるものの違いが許せない。
マリオンと一緒に夜会に出席したとき彼女はときおり周囲を見渡している。最初は友人を探しているのかと思ったが違うようだ。ある日マリオンがある騎士を見つけたときに、一瞬だけその口元を綻ばせた。嬉しそうに目を細める。クリフトンに向ける表情とは違うそれに愕然とした。
クリフトンはその騎士を調べた。騎士の名はコンラッド。エッジ伯爵家の子息でベイトソン公爵がマリオンの婚約者にしようとしていた男。だが二人は親戚であっても付き合いはなく特別な中ではなかったと報告を受けた。
でもマリオンの様子からはそうとは思えない……。クリフトンは急激に頭の中が怒りでいっぱいになった。私という婚約者がいながら別の男に思いを寄せているのか。それは母と同じふしだらなことだ。
「何かの間違いだ……」
マリオンはそんな女じゃない。クリフトンは必死で否定した。エレンのように気が強くなく、ライラのように我儘じゃなく、清純で穏やかな女性なはずだ。
それからマリオンを監視させたが特にコンラッドと連絡を取っている様子はない。それなら何故クリフトンを愛さない? クリフトンは苛立ちから母のご機嫌窺いに来ていたライラに思わず愚痴をこぼしてしまった。
「私は……マリオンの気持ちが分からない」
「それならば試してみましょうよ!」
「試す?」
「ええ。そうです!」
クリフトンは頷きライラの提案に乗った。
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