上 下
14 / 41

14話

しおりを挟む
その後、ローレンスと一旦別れたアポロとローラは、エリザベスの案内でギルドの一室に移動する。

本来の新米商人のギルドカード受け取りに対して破格の対応である。

それも招き猫商会のローレンスと一緒に来たことによるところが大きい。

ギルド職員のエリザベスは、今回のギルドカード受け渡しを機にアポロに好印象を与え、あわよくば専属のアドバイザーとして名乗り出るつもりであった。

彼女にとってはで一対一の密室で行えれば都合が良かったのだが……

女冒険者が一緒に着いてくるのは頭になかったが、何とかなるだろう。

どこかで見た覚えがある『女冒険者』なのだが、明確に思い出す事が出来なかった。

「それではアポロさんと冒険者さんはこの部屋で少々お待ちください。アポロさんのギルドカードとギルドの説明資料をお持ちしますね」

「よろしくおねがします」

笑顔で返すアポロに対して、ウインクを飛ばすエリザベス。

そしてローラはエリザベスが出ていくと
「お父様が私の名前を伏せて、こちらにつけたのはそういうことね…」ため息交じりに呟いた。

アポロはこれから受け取る商人の証であるギルドカードの受け渡しに心ここに在らずの状態であった。

ほどなくしてエリザベスが資料とカード飲み物を持って来た。

そして先ほどよりも化粧を施し、体からは先ほどとは異なる香水の匂いが漂う。

胸元も先ほどより開いており如何わしいアピールしていることは明白であった。

「アポロさんではこれから説明を始めたいと思います。説明に結構時間がかかりますから冒険者さんは席を外しても大丈夫ですよ?」

「お気遣いありがとうございます。
私のことは気になさらずにし説明を始めてください。
護衛とは依頼者を危険から守ることです。
そう…何も部屋の中でも依頼者が不利益を被る危険がないとは言い切れないのですから……。
それに優秀なギルド職員ならば説明も上手いはず、さして時間はかからないでしょう?」

エリザベスは冒険者にしては丁寧な言葉遣いと、こちらの意図を見透かしての発言に彼女に対しての認識を改めた。

そこでアポロをこの場で籠絡させるのは難しいと考え、方針を変え真面目にギルドの説明を行う。

なんてことはない。先日書かれていた規約書の内容の確認と受け取りのサインそして今回は下請け依頼の簡単な内容だけである。

アポロから特別質問も無く早々に説明が終わってしまった。
しかしこのままアポロを返してしまえば次に繋がらない。

「これで説明は一通り終わったけど、アポロさんはローレンス様からどんな下請け依頼を受けるのかしら?」

「はい。ローレンスさんから新しく発見されたダンジョン近くの仮設村への物資の臨時配達を依頼されました」

「なるほど…では護衛一人では危険ですね。
見たところによるとお隣の冒険者さんはそれほど腕が立ちそうには思えません。
商人ギルド馴染みの護衛専門に行っている冒険者を紹介しましょうか?」

「なっ失礼な人ね!」

顔を赤くするローラに対しエリザベスは冷静に質問する。

「あなたランクいくつ?」

「Fよ………」

冒険者ギルドではその実力と功績によりランク付けされている。

 最高ランクSを頂点にABCDFと続く。

つまりランクFとは一番下であり駆け出しでもない限り、実力のなさの現れである。

下を向きながらボソリと話すローラに対し、勝ち誇ったようにエリザベスは話を続ける。

「アポロくん悪いことは言わない。
護衛を新しく雇うことをお勧めするわ。彼女はあなたに相応しくない。
仮設村に行く途中には魔物の生息している森を横切ることになるの。
そこにはグレートボアっていう危険なイノシシが生息しているのよ」

「グレートボア!あぁあの独特な風味がたまらないイノシシですね!肉は噛めば噛むほど味が出るし、道中が楽しみです!ローラさん解体道具を後で買い足しましょう。エリザベスさん情報ありがとうございます」

「えっとだから危険なのよ?」

「コツさえつかめば簡単に狩れますよ。グレートボアは突進するしか能がありませんから…頑丈そうな岩や木を背にして突撃を交わせば勝手に自滅しますし、横から蹴り上げれば一撃ですよ?」

とても商人の口から出る言葉ではなかった。
あたかも倒したことのあるような口ぶり、いや、おそらく過去に何度も倒した事がある経験者が思い出しながら説明している様に思えた。

固まっているエリザベスにローラはここぞとばかりに話し始める。

「アポロさんがこれから受ける下請け依頼の中には、私が護衛を依頼する事が契約内容に含まれています。
エリザベスさんの手もわづらわせることはないでしょう。そろそろ戻ってお父様所に戻りましょう」

そう言い残しローラは部屋を出る。

「あっローラさん待って、エリザベスさん色々とありがとうございました」

アポロも一礼して部屋を出る。

 エリザベスの思考が戻った所で自分の過ちに頭を抱えた。

「あの女冒険者。ローレンス様の娘さんじゃない。とんでもない失態を犯したわ」

再び固まるエリザベスであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

幼女エルフの自由旅

たまち。
ファンタジー
突然見知らぬ土地にいた私、生駒 縁-イコマ ユカリ- どうやら地球とは違う星にある地は身体に合わず、数日待たずして死んでしまった 自称神が言うにはエルフに生まれ変えてくれるらしいが…… 私の本当の記憶って? ちょっと言ってる意味が分からないんですけど 次々と湧いて出てくる問題をちょっぴり……だいぶ思考回路のズレた幼女エルフが何となく捌いていく ※題名、内容紹介変更しました 《旧題:エルフの虹人はGの価値を求む》 ※文章修正しています。

罠に嵌められたのは一体誰?

チカフジ ユキ
恋愛
卒業前夜祭とも言われる盛大なパーティーで、王太子の婚約者が多くの人の前で婚約破棄された。   誰もが冤罪だと思いながらも、破棄された令嬢は背筋を伸ばし、それを認め国を去ることを誓った。 そして、その一部始終すべてを見ていた僕もまた、その日に婚約が白紙になり、仕方がないかぁと思いながら、実家のある隣国へと帰って行った。 しかし帰宅した家で、なんと婚約破棄された元王太子殿下の婚約者様が僕を出迎えてた。

【完結】ご都合主義で生きてます。-ストレージは最強の防御魔法。生活魔法を工夫し創生魔法で乗り切る-

ジェルミ
ファンタジー
鑑定サーチ?ストレージで防御?生活魔法を工夫し最強に!! 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 しかし授かったのは鑑定や生活魔法など戦闘向きではなかった。 しかし生きていくために生活魔法を組合せ、工夫を重ね創生魔法に進化させ成り上がっていく。 え、鑑定サーチてなに? ストレージで収納防御て? お馬鹿な男と、それを支えるヒロインになれない3人の女性達。 スキルを試行錯誤で工夫し、お馬鹿な男女が幸せを掴むまでを描く。 ※この作品は「ご都合主義で生きてます。商売の力で世界を変える」を、もしも冒険者だったら、として内容を大きく変えスキルも制限し一部文章を流用し前作を読まなくても楽しめるように書いています。 またカクヨム様にも掲載しております。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...