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後日談
授かりもの 2
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《TBside》
「懐妊…えっ!?おれがですかっ!?」
「えぇ。本当に、本当におめでとうございます」
ラフィコン侯爵の言葉が信じられず、思わず聞き返してしまった。ラフィコン侯爵の後ろに立っていたマリアとエリノアとフェオが声を上げて喜んでいる。挙句の果てには、ハイタッチまでしていた。
確かに、結婚してから欠かさずランスとシていたし、ここ最近妊娠の兆候もあった。体調が悪かったのは、赤ちゃんができたからだったの…?
おれはそっと自身の薄い腹に手を添える。
ここに、ここにいるんだ。おれとランスの愛する子が、ここに______。
「奥様。おめでとうございます」
エリノアの祝福の言葉に、ふと我に返る。目元が熱くなり、頬をつたう涙。ぽろぽろと雫のように溢れてくる涙は、止まることを知らずおれはひたすらに涙を流す。
そうか、おれ、妊娠したんだ…。どうしよう、幸せ過ぎて死にそうだ…。
あんなにも追い求めていた幸せが、今は何故か怖く感じる。こんなに幸せになってもいいのか、と思ってしまうから。
「男の子ですかね、女の子ですかね…?」
「大公とティファニベルの子供なら、どっちでも可愛いだろうがよ」
「そうだよね!?」
キャッキャウフフと喜ぶマリアとフェオ。
そうだよ。おれとランスの子供なら、どんな性別でも、どんな子でも、可愛くて可愛くて仕方がないよ。きっと。
あぁ、どうしよう。涙が止まらない。
泣きながらお腹を撫で続けていると、バンッと激しい音と共に扉が開け放たれた。
「ティファニベルっ!!!!!」
大きな声で名を呼ばれ、ベッド脇に目にも止まらぬ速さで駆け寄ってくるのは、何とランスだった。目元には涙が滲み、心配そうな表情を浮かべている。前髪を上げ露になった額には、じんわりと汗が滲んでいた。
「あなたが倒れたと聞いてっ、俺…」
「いてもたってもいられなくて帰って来てしまったの?」
「っ…。仕事を放棄したことはごめんなさい…。でもあなたに何かあったらっ!」
おれの手を握り締め、それを額に寄せる。しかしすぐに顔を上げると、おれが泣いているのに驚いてまたも声を荒らげる。おれはランスの手を握り返して、その手に優しくキスをした。
「ねぇ、ランス。今からおれが言うこと、落ち着いて聞くって約束できる?」
「へ………まさか、病気っ!?」
「約束できる?」
有無も言わさぬ顔で威圧感のある微笑みを向けると、ランスはゴクリと喉を鳴らして、恐る恐る頷いた。
おれが今から言うことを聞いたら、一体どんな表情を見せてくれるのだろう。驚くかな、嬉しがるかな、それとも悲しがるかな。もう少しあなたと二人っきりを堪能したい、なんてバカみたいに甘い言葉を吐くかもしれない。
おれはワクワクしながら、ランスの耳元に顔を寄せる。
「赤ちゃん、できたみたい」
「…………………」
「ランス…?」
「あか、ちゃ…?」
キョトンとした表情で首を傾げるランス。
気が抜けたような顔をするとは思ってなかったな…。まだ反応が追いついてないのかな?
「うん。赤ちゃん。ランスとおれの赤ちゃん、ここにいるって」
ランスの手をおれのお腹に持っていく。すると、ランスの目から涙が溢れ出た。
お、おおっ!おれと一緒の反応だ…。
流れ落ちていく涙を優しく拭っていると、ランスはガバッとおれに抱き着いてきた。
「ありがとう…。ありがとうっ、ティファニベルっ…」
「おれの方こそ、ありがとう」
泣きじゃくるランスの背中を、一定のリズムで撫でながら囁く。えぐえぐと泣いて体を震わすランスがあまりにも可愛くて思わず笑ってしまう。ランスは顔を上げて、おれの頬に手を添える。
「もう少しあなたと二人っきりがよかったけど…。こんなにも早く授かりものをいただけるなんて、思ってもいなかったです」
「そう、だね。授かりものだね…」
ここにいる子は、授かりものなんだ。かけがえのないもの。おれとランスのところにやって来るべくしてやって来た子。
たくさん愛して、たくさん甘やかして、この子がやりたいことをできる、なりたいものになれる環境を作ろう。どんな子でもいい。やんちゃな子でも大人しい子でも変わった子でも、どんな子でもいいんだ。おれとランスの子供というだけで、それだけで、もう十分だ________。
「ランス」
「はい…」
「愛してるよ」
「俺も、愛してます」
触れ合う唇。ふわりと透明のカーテンが舞い上がり、風に揺られながらまた元の位置に舞い戻る。
おれを愛してくれて、おれを思ってくれて、子供まで授からせてくれて、ありがとう。
たくさんの幸せを、ありがとう。
‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦
「懐妊…えっ!?おれがですかっ!?」
「えぇ。本当に、本当におめでとうございます」
ラフィコン侯爵の言葉が信じられず、思わず聞き返してしまった。ラフィコン侯爵の後ろに立っていたマリアとエリノアとフェオが声を上げて喜んでいる。挙句の果てには、ハイタッチまでしていた。
確かに、結婚してから欠かさずランスとシていたし、ここ最近妊娠の兆候もあった。体調が悪かったのは、赤ちゃんができたからだったの…?
おれはそっと自身の薄い腹に手を添える。
ここに、ここにいるんだ。おれとランスの愛する子が、ここに______。
「奥様。おめでとうございます」
エリノアの祝福の言葉に、ふと我に返る。目元が熱くなり、頬をつたう涙。ぽろぽろと雫のように溢れてくる涙は、止まることを知らずおれはひたすらに涙を流す。
そうか、おれ、妊娠したんだ…。どうしよう、幸せ過ぎて死にそうだ…。
あんなにも追い求めていた幸せが、今は何故か怖く感じる。こんなに幸せになってもいいのか、と思ってしまうから。
「男の子ですかね、女の子ですかね…?」
「大公とティファニベルの子供なら、どっちでも可愛いだろうがよ」
「そうだよね!?」
キャッキャウフフと喜ぶマリアとフェオ。
そうだよ。おれとランスの子供なら、どんな性別でも、どんな子でも、可愛くて可愛くて仕方がないよ。きっと。
あぁ、どうしよう。涙が止まらない。
泣きながらお腹を撫で続けていると、バンッと激しい音と共に扉が開け放たれた。
「ティファニベルっ!!!!!」
大きな声で名を呼ばれ、ベッド脇に目にも止まらぬ速さで駆け寄ってくるのは、何とランスだった。目元には涙が滲み、心配そうな表情を浮かべている。前髪を上げ露になった額には、じんわりと汗が滲んでいた。
「あなたが倒れたと聞いてっ、俺…」
「いてもたってもいられなくて帰って来てしまったの?」
「っ…。仕事を放棄したことはごめんなさい…。でもあなたに何かあったらっ!」
おれの手を握り締め、それを額に寄せる。しかしすぐに顔を上げると、おれが泣いているのに驚いてまたも声を荒らげる。おれはランスの手を握り返して、その手に優しくキスをした。
「ねぇ、ランス。今からおれが言うこと、落ち着いて聞くって約束できる?」
「へ………まさか、病気っ!?」
「約束できる?」
有無も言わさぬ顔で威圧感のある微笑みを向けると、ランスはゴクリと喉を鳴らして、恐る恐る頷いた。
おれが今から言うことを聞いたら、一体どんな表情を見せてくれるのだろう。驚くかな、嬉しがるかな、それとも悲しがるかな。もう少しあなたと二人っきりを堪能したい、なんてバカみたいに甘い言葉を吐くかもしれない。
おれはワクワクしながら、ランスの耳元に顔を寄せる。
「赤ちゃん、できたみたい」
「…………………」
「ランス…?」
「あか、ちゃ…?」
キョトンとした表情で首を傾げるランス。
気が抜けたような顔をするとは思ってなかったな…。まだ反応が追いついてないのかな?
「うん。赤ちゃん。ランスとおれの赤ちゃん、ここにいるって」
ランスの手をおれのお腹に持っていく。すると、ランスの目から涙が溢れ出た。
お、おおっ!おれと一緒の反応だ…。
流れ落ちていく涙を優しく拭っていると、ランスはガバッとおれに抱き着いてきた。
「ありがとう…。ありがとうっ、ティファニベルっ…」
「おれの方こそ、ありがとう」
泣きじゃくるランスの背中を、一定のリズムで撫でながら囁く。えぐえぐと泣いて体を震わすランスがあまりにも可愛くて思わず笑ってしまう。ランスは顔を上げて、おれの頬に手を添える。
「もう少しあなたと二人っきりがよかったけど…。こんなにも早く授かりものをいただけるなんて、思ってもいなかったです」
「そう、だね。授かりものだね…」
ここにいる子は、授かりものなんだ。かけがえのないもの。おれとランスのところにやって来るべくしてやって来た子。
たくさん愛して、たくさん甘やかして、この子がやりたいことをできる、なりたいものになれる環境を作ろう。どんな子でもいい。やんちゃな子でも大人しい子でも変わった子でも、どんな子でもいいんだ。おれとランスの子供というだけで、それだけで、もう十分だ________。
「ランス」
「はい…」
「愛してるよ」
「俺も、愛してます」
触れ合う唇。ふわりと透明のカーテンが舞い上がり、風に揺られながらまた元の位置に舞い戻る。
おれを愛してくれて、おれを思ってくれて、子供まで授からせてくれて、ありがとう。
たくさんの幸せを、ありがとう。
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