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第85話 ℯ𝓃𝒹
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《TBside》
アルフェンロード大帝国一の大病院を運営するラフィコン侯爵とも挨拶をし終わった。おれが招いた人たちの中でも特別お世話になった人には、大抵挨拶できたと思う。あとは…。
「ティファニベルお兄様、ランスロットお兄様」
名を呼ばれ、ゆっくりと振り返る。おれたちのことを「お兄様」と呼ぶのは一人しかいない。
グレーの長髪を美しく結い、青紫の瞳を潤ませているのは、おれとランスの妹、ナターシアだ。瞳の色とよく合った青色のドレスがとても綺麗で、思わず見惚れてしまった。リラ夫人の面影を垣間見た気がする…。
そんなナターシアの隣に立つのは、お父様。今日は一段とダンディーだな。
「本当に、本当におめでとうございます。お兄様方の妹で、私は幸せです」
「ナターシア、ありがとう」
ぽろぽろと涙を溢れさせるナターシアの手をそっと握る。するとナターシアは、おれの横にいるランスに声をかけた。
「ランスロットお兄様。ティファニベルお兄様のこと、もう泣かせちゃダメですよ」
「言われなくとも、分かっている」
頬を薄っすらと赤らめ、照れるランス。実の妹に指摘されたことが恥ずかしいんだろう。そんな可愛い一面を見せるランスにニヤニヤしていると…。
「ランスロット、ティファニベル」
お父様に声をかけられた。
「オルドガルド大公家に恥じぬ大公夫婦となれ」
「もちろんです、お父様」
そう答えて優しく微笑む。しかし、ナターシアはお父様をよこからジト目で見つめる。まるで、今かける言葉はそんなものではないでしょう?とでも言いたげだ…。ナターシアの視線に気づいたお父様は、何度か咳払いをして再び口を開いた。
「今のは、建前だ…。幸せになってくれれば、何でもいい…」
照れ臭そうにぼそぼそと呟くお父様。よく見ると、炎の瞳に薄っすらと膜が張っている。
もしかして、お父様…。愛する息子たちの晴れ姿を前にして感極まってるの…?
「あら、泣いていらっしゃるわ」
「な、泣いてなどいない!出任せを言うな!」
珍しく声を荒げて怒るお父様。ナターシアは口に手を当てて上品に笑っている。
前までは、お父様のことを酷く誤解していた。でも、今は違う。おれの、おれたちの結婚式で泣いてくれるような父親をどうやって憎めと言うの?
おれは、お父様に近づき、角ばった手を握る。
「お父様。今日まで、実の子ではないおれのことを育ててくださり、本当にありがとうございました」
「っ……………」
おれの言葉にお父様の瞳が輝く。頬を流れ落ちて行く一筋の涙。その涙が描く弧があまりにも綺麗で、思わず見つめてしまう。お父様は、その涙を乱暴に拭い取って、小さく鼻を啜る。
「実の子ではなくとも、おまえは私の子だ」
ゴクリと唾を飲み込む。
止めてよ。今、そんなこと言うの止めてよ…。泣いちゃうじゃんか。
目元が熱くなり、唇を噛み締めて涙を堪える。
「ランスロット。おまえも私の大事な子だ。二人で、幸せな未来を築いていってくれ」
「はい…。父さん」
ランスの声も若干震えている。顔を見ずとも分かる。今、ランスがどんな顔をしているのかを。
お父様は、俯き涙を堪えるおれを優しく引き寄せた。ずっと冷たい人だと思っていたのに、とても、温かい…。トントン、と一定の速度で背を優しく叩かれる。とうとう、溢れ出した涙。我慢するのは無理だと思ったおれは、ひたすらお父様の胸の中で泣き続けたのだった。
「皆様!お写真を撮りましょう!!!」
とある貴族の声が響いて、会場で談笑していた人々がぞろぞろとそちらに集まって行く。おれも、そっとお父様から離れて、家族全員でその貴族の元へと向かう。
写真館の人が次々と指示を出し、あっという間に全員が列を成す。おれたち家族はもちろん一番前の中心だ。
「ティファニベル」
隣から名を呼ばれ、手をギュッと握られる。ランスの温もりを感じながら、酷く整った美貌を見つめる。
「幸せですか?」
そう、問われる。不安げに揺れる炎の瞳を見て、指を絡めて手を握り返した。その行為にランスは驚いた顔をしたが、すぐに安心しきった柔らかな笑みを湛えた。
その笑顔が見られるだけで、おれは十分すぎるくらいに_____
「幸せだよ」
‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦
『平民の子で嫌われ者のおれは幸せになるために奮闘します。』完結
‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
たくさんの方々に愛していただいた当作品は、2022.02.19にて完結を迎えました。
全85話、お付き合いくださった読者の皆様に、心より感謝申し上げます。
後日談の方も全4話投稿していきますので、よろしくお願い致します☺️
アルフェンロード大帝国一の大病院を運営するラフィコン侯爵とも挨拶をし終わった。おれが招いた人たちの中でも特別お世話になった人には、大抵挨拶できたと思う。あとは…。
「ティファニベルお兄様、ランスロットお兄様」
名を呼ばれ、ゆっくりと振り返る。おれたちのことを「お兄様」と呼ぶのは一人しかいない。
グレーの長髪を美しく結い、青紫の瞳を潤ませているのは、おれとランスの妹、ナターシアだ。瞳の色とよく合った青色のドレスがとても綺麗で、思わず見惚れてしまった。リラ夫人の面影を垣間見た気がする…。
そんなナターシアの隣に立つのは、お父様。今日は一段とダンディーだな。
「本当に、本当におめでとうございます。お兄様方の妹で、私は幸せです」
「ナターシア、ありがとう」
ぽろぽろと涙を溢れさせるナターシアの手をそっと握る。するとナターシアは、おれの横にいるランスに声をかけた。
「ランスロットお兄様。ティファニベルお兄様のこと、もう泣かせちゃダメですよ」
「言われなくとも、分かっている」
頬を薄っすらと赤らめ、照れるランス。実の妹に指摘されたことが恥ずかしいんだろう。そんな可愛い一面を見せるランスにニヤニヤしていると…。
「ランスロット、ティファニベル」
お父様に声をかけられた。
「オルドガルド大公家に恥じぬ大公夫婦となれ」
「もちろんです、お父様」
そう答えて優しく微笑む。しかし、ナターシアはお父様をよこからジト目で見つめる。まるで、今かける言葉はそんなものではないでしょう?とでも言いたげだ…。ナターシアの視線に気づいたお父様は、何度か咳払いをして再び口を開いた。
「今のは、建前だ…。幸せになってくれれば、何でもいい…」
照れ臭そうにぼそぼそと呟くお父様。よく見ると、炎の瞳に薄っすらと膜が張っている。
もしかして、お父様…。愛する息子たちの晴れ姿を前にして感極まってるの…?
「あら、泣いていらっしゃるわ」
「な、泣いてなどいない!出任せを言うな!」
珍しく声を荒げて怒るお父様。ナターシアは口に手を当てて上品に笑っている。
前までは、お父様のことを酷く誤解していた。でも、今は違う。おれの、おれたちの結婚式で泣いてくれるような父親をどうやって憎めと言うの?
おれは、お父様に近づき、角ばった手を握る。
「お父様。今日まで、実の子ではないおれのことを育ててくださり、本当にありがとうございました」
「っ……………」
おれの言葉にお父様の瞳が輝く。頬を流れ落ちて行く一筋の涙。その涙が描く弧があまりにも綺麗で、思わず見つめてしまう。お父様は、その涙を乱暴に拭い取って、小さく鼻を啜る。
「実の子ではなくとも、おまえは私の子だ」
ゴクリと唾を飲み込む。
止めてよ。今、そんなこと言うの止めてよ…。泣いちゃうじゃんか。
目元が熱くなり、唇を噛み締めて涙を堪える。
「ランスロット。おまえも私の大事な子だ。二人で、幸せな未来を築いていってくれ」
「はい…。父さん」
ランスの声も若干震えている。顔を見ずとも分かる。今、ランスがどんな顔をしているのかを。
お父様は、俯き涙を堪えるおれを優しく引き寄せた。ずっと冷たい人だと思っていたのに、とても、温かい…。トントン、と一定の速度で背を優しく叩かれる。とうとう、溢れ出した涙。我慢するのは無理だと思ったおれは、ひたすらお父様の胸の中で泣き続けたのだった。
「皆様!お写真を撮りましょう!!!」
とある貴族の声が響いて、会場で談笑していた人々がぞろぞろとそちらに集まって行く。おれも、そっとお父様から離れて、家族全員でその貴族の元へと向かう。
写真館の人が次々と指示を出し、あっという間に全員が列を成す。おれたち家族はもちろん一番前の中心だ。
「ティファニベル」
隣から名を呼ばれ、手をギュッと握られる。ランスの温もりを感じながら、酷く整った美貌を見つめる。
「幸せですか?」
そう、問われる。不安げに揺れる炎の瞳を見て、指を絡めて手を握り返した。その行為にランスは驚いた顔をしたが、すぐに安心しきった柔らかな笑みを湛えた。
その笑顔が見られるだけで、おれは十分すぎるくらいに_____
「幸せだよ」
‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦
『平民の子で嫌われ者のおれは幸せになるために奮闘します。』完結
‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦‧✧̣̥̇‧✦
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
たくさんの方々に愛していただいた当作品は、2022.02.19にて完結を迎えました。
全85話、お付き合いくださった読者の皆様に、心より感謝申し上げます。
後日談の方も全4話投稿していきますので、よろしくお願い致します☺️
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