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第81話
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《TBside》
無事にエーデルワイス大公家邸宅からランスを救い出したおれは、オルドガルド大公家邸宅へと帰って来ていた。
既に、夕刻。赤いドレスを身に纏った空は、緩やかに深い青のドレスへと着替えていく。
エリノアに聞いたところ、ライドニッツ卿は丁重にもてなした後、皇宮まで送り届けたと言う。とりあえず、よかった。
ランスを連れて向かった先は、ランスの部屋。使用人や軍人に、今日一晩は誰も話しかけないように、と言いつけておいた。ランスは今、浴室で汗を流している。
どっと疲れた…。
「はぁ…」
明日にでも全ての件をお父様に御報告して、エーデルワイス大公家の罪を暴露しなければならない。エーデルワイス大公家は、もうこれ以上好き勝手はできない。一件落着、だね。
「兄さん」
「ランス…」
浴室から出て来たランスに声をかけられ、振り返る。急いで出て来たのか、漆黒の髪からは水滴がポタポタと垂れている。バスローブも、若干濡れてしまっている。
疲れているだろうし、もっとゆっくり入って来ればいいのに…。
生乾きの髪を拭いてあげようと思いながら、ランスに近づく。すると、思いっきり腰を抱かれ引き寄せられた。バスローブから覗いた胸元に自身の頬が触れる。
「兄さんっ…」
「…なあに」
「さっきの、一生一緒にいるっていう言葉、嘘ではないですか?」
「ふふ…。当たり前でしょう?」
温もりをもっと強く感じるために、おれはランスの背中に腕を回して抱き締め返す。ランスの体が少しだけ強張ったのが分かる。
「あのときの返事、遅くなって、ごめんね」
「っ………」
「おれもランスが好きだよ」
満面の笑みを浮かべて、心の内を明かす。
やっと、気づけたんだ。おまえがいないと幸せになれるわけがないっていうことを。
きっと、おれ以上に悩んで苦しんだよね、ランス。本当にごめん、ごめんね。
抱き締める力を強めると、ランスの体が小刻みに震えていた。え?、と思いながら見上げると、炎の瞳からポロポロと涙が零れ落ちているではないか。子供のように泣くランスに、胸が締め付けられる。
「どうして、そんなに泣いてるの」
「嬉しいからに決まってるでしょう…?」
「嬉しいから泣くの?」
「兄さんこそ、泣いてる…」
逞しく熱い手が、頬に添えられる。その手に自身の手を重ねると、おれの頬を水滴が零れ落ちて行った。
二人して傷ついて、傷つけて、バカみたい。こんなに可愛い子を傷つけてしまったなんて、おれが一番のバカだよ…。
愛おしくて仕方がないと言った目で見つめていると、ふとランスの赤くなった耳に目が止まった。おれは何かを思い出したように、ポケットからとある物を取り出した。
「これ、本当はランスが帰還したときに渡す予定だったんだ」
「それは…ピアス?」
パカッと開けた箱の中、控えめな輝きを放つ赤い光が二つ。炎のように燃え上がりそうな色のピアスだ。戦争から帰って来たときに渡すつもりだったのに、気づいたらかなりの日付が経ってしまった。
「おれと同じデザインだよ」
微笑みながら、髪を掻き上げて耳元を晒す。窓から差し込む夕日の光に照らされ、炎の瞳がキラリと輝いた。
「跪いてくれる?」
そう言うと、ランスはおれから離れて、その場に膝を着く。両耳に丁寧にピアスを差し込む。耳を触られているのが擽ったいのか、身を捩るようにして逃げようとしている。あぁ、そんなところも可愛い…。
着け終わり、ランスから離れようとすると、そっと手を握られた。
「ティファニベル・クロニカル・オルドガルド」
ほんのりと色付いた美しい唇が、手の甲に触れる。下から見上げられ、胸が高鳴った。沸騰しそうなほどに顔が熱いけれど、どうかバレていませんように…。
ランスの唇がゆっくりと開かれ、言葉を紡ぐ。辺りは無音になり、風が舞い込む。
「俺と結婚してください」
凛とした声。それなのに、目は赤く、耳も顔も赤い。赤くないところはないんじゃないの?と思うくらいに全身真っ赤だけど、それも当たり前だ。彼にとっては、一世一代の求婚なんだから_______。
目の前が霞む。ランスの顔も満足に見られなくなる。そのとき、初めて自分が泣いているのだと、理解した。
どうしよう、ランス。おれ、今、物凄く幸せだ。まだ結婚していないのに、幸せを感じているんだよ。
これが、好きな人と結ばれるということ。思っていたよりずっと、尊いことだ…。他のことがどうでもよくなってしまうほどに。
おれは、震えながらゆっくりと首を縦に振る。
「はい…。ランスロット、おれの旦那様になって、」
そう言って、ランスに思いっきり抱き着く。震える手が背中に回ったのを感じて、胸が熱くなる。
幸せを噛み締めるように、強く強く抱き締める。するとランスの両手が肩に添えられ、優しく押し返された。キスの合図だと受け取ったおれは、ランスの唇に自身の唇を重ねる。
結ばれて初めてのキスは、涙の味がして、少しだけ塩っぱかった。
「もう一回、ティファニベル」
「ランスっ」
二度目のキスは、うんと甘くて美味しかった。
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無事にエーデルワイス大公家邸宅からランスを救い出したおれは、オルドガルド大公家邸宅へと帰って来ていた。
既に、夕刻。赤いドレスを身に纏った空は、緩やかに深い青のドレスへと着替えていく。
エリノアに聞いたところ、ライドニッツ卿は丁重にもてなした後、皇宮まで送り届けたと言う。とりあえず、よかった。
ランスを連れて向かった先は、ランスの部屋。使用人や軍人に、今日一晩は誰も話しかけないように、と言いつけておいた。ランスは今、浴室で汗を流している。
どっと疲れた…。
「はぁ…」
明日にでも全ての件をお父様に御報告して、エーデルワイス大公家の罪を暴露しなければならない。エーデルワイス大公家は、もうこれ以上好き勝手はできない。一件落着、だね。
「兄さん」
「ランス…」
浴室から出て来たランスに声をかけられ、振り返る。急いで出て来たのか、漆黒の髪からは水滴がポタポタと垂れている。バスローブも、若干濡れてしまっている。
疲れているだろうし、もっとゆっくり入って来ればいいのに…。
生乾きの髪を拭いてあげようと思いながら、ランスに近づく。すると、思いっきり腰を抱かれ引き寄せられた。バスローブから覗いた胸元に自身の頬が触れる。
「兄さんっ…」
「…なあに」
「さっきの、一生一緒にいるっていう言葉、嘘ではないですか?」
「ふふ…。当たり前でしょう?」
温もりをもっと強く感じるために、おれはランスの背中に腕を回して抱き締め返す。ランスの体が少しだけ強張ったのが分かる。
「あのときの返事、遅くなって、ごめんね」
「っ………」
「おれもランスが好きだよ」
満面の笑みを浮かべて、心の内を明かす。
やっと、気づけたんだ。おまえがいないと幸せになれるわけがないっていうことを。
きっと、おれ以上に悩んで苦しんだよね、ランス。本当にごめん、ごめんね。
抱き締める力を強めると、ランスの体が小刻みに震えていた。え?、と思いながら見上げると、炎の瞳からポロポロと涙が零れ落ちているではないか。子供のように泣くランスに、胸が締め付けられる。
「どうして、そんなに泣いてるの」
「嬉しいからに決まってるでしょう…?」
「嬉しいから泣くの?」
「兄さんこそ、泣いてる…」
逞しく熱い手が、頬に添えられる。その手に自身の手を重ねると、おれの頬を水滴が零れ落ちて行った。
二人して傷ついて、傷つけて、バカみたい。こんなに可愛い子を傷つけてしまったなんて、おれが一番のバカだよ…。
愛おしくて仕方がないと言った目で見つめていると、ふとランスの赤くなった耳に目が止まった。おれは何かを思い出したように、ポケットからとある物を取り出した。
「これ、本当はランスが帰還したときに渡す予定だったんだ」
「それは…ピアス?」
パカッと開けた箱の中、控えめな輝きを放つ赤い光が二つ。炎のように燃え上がりそうな色のピアスだ。戦争から帰って来たときに渡すつもりだったのに、気づいたらかなりの日付が経ってしまった。
「おれと同じデザインだよ」
微笑みながら、髪を掻き上げて耳元を晒す。窓から差し込む夕日の光に照らされ、炎の瞳がキラリと輝いた。
「跪いてくれる?」
そう言うと、ランスはおれから離れて、その場に膝を着く。両耳に丁寧にピアスを差し込む。耳を触られているのが擽ったいのか、身を捩るようにして逃げようとしている。あぁ、そんなところも可愛い…。
着け終わり、ランスから離れようとすると、そっと手を握られた。
「ティファニベル・クロニカル・オルドガルド」
ほんのりと色付いた美しい唇が、手の甲に触れる。下から見上げられ、胸が高鳴った。沸騰しそうなほどに顔が熱いけれど、どうかバレていませんように…。
ランスの唇がゆっくりと開かれ、言葉を紡ぐ。辺りは無音になり、風が舞い込む。
「俺と結婚してください」
凛とした声。それなのに、目は赤く、耳も顔も赤い。赤くないところはないんじゃないの?と思うくらいに全身真っ赤だけど、それも当たり前だ。彼にとっては、一世一代の求婚なんだから_______。
目の前が霞む。ランスの顔も満足に見られなくなる。そのとき、初めて自分が泣いているのだと、理解した。
どうしよう、ランス。おれ、今、物凄く幸せだ。まだ結婚していないのに、幸せを感じているんだよ。
これが、好きな人と結ばれるということ。思っていたよりずっと、尊いことだ…。他のことがどうでもよくなってしまうほどに。
おれは、震えながらゆっくりと首を縦に振る。
「はい…。ランスロット、おれの旦那様になって、」
そう言って、ランスに思いっきり抱き着く。震える手が背中に回ったのを感じて、胸が熱くなる。
幸せを噛み締めるように、強く強く抱き締める。するとランスの両手が肩に添えられ、優しく押し返された。キスの合図だと受け取ったおれは、ランスの唇に自身の唇を重ねる。
結ばれて初めてのキスは、涙の味がして、少しだけ塩っぱかった。
「もう一回、ティファニベル」
「ランスっ」
二度目のキスは、うんと甘くて美味しかった。
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