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第76話
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《RRside》
兄さんと二度目のセックスをしてから数日後___。
俺は、エーデルワイス大公家の邸宅へとやって来ていた。もちろん、俺の意志で来たわけではない。
「お待ち致しておりました、オルドガルド次期大公」
「挨拶はいい。さっさと案内しろ」
「かしこまりました」
エーデルワイス大公家の使用人に言いつけると、素直に案内をされる。オルドガルド大公家の邸宅よりも広い邸宅内を颯爽と歩く。どう見ても周りと違う部屋へ着き、扉が開かれる。中に居た人物が立ち上がり俺へ握手を求める。しかし、俺はそれに応じることなく、目の前の初老の男を睨んだ。
俺に手紙を寄越した人物、エーデルワイス大公。呼び出しに応じない暁には、ティファニベルに手を出すと脅しの手紙を書いた張本人だ。大丈夫だろうとは思っていたが、やはり不安は拭えない。兄さんのことを考えるあまり、素直にのこのこと呼び出しに応じてしまったわけだが…。
「立ち話はよくないな…。座ろうか、オルドガルド元帥よ」
「座るほど長く居座るつもりはありませんので。用件は手短に」
そう言うと、エーデルワイス大公は「つれないな」と呟いて笑みを零した。
「呼び出したのは、他でもない我が末息子セリムとの婚約の件に関してだ」
「……………」
「ティファニベル殿は既にライドニッツ卿と婚約をすることが決まっている。オルドガルド元帥も、叶わぬ恋をし続けるのは辛いだろう」
貴様に何が分かる?
そう言ってやりたかった。俺の気持ちを分かった気でいるみたいだが、余計な世話だな。もし兄さんがライドニッツ卿と結婚するなら、俺は死ぬつもりだし辛いのも少しの辛抱だ。そもそもの話、ライドニッツ卿と結婚させるつもりはないが。
「セリムはオルドガルド元帥のことを心から想っておる。病弱だが母親に似て心の優しい息子だ。きっとオルドガルド元帥の力となり癒しとなるだろう」
エーデルワイス大公は、自らの愛息子を思い浮かべて微笑んだ。
脳内で、セリムの姿を思い受かべる。幼い頃に見たことがあるエーデルワイス大公夫人にそっくりだったことは覚えているが、肝心のその顔が思い出せない。何度かは顔を合わせているはずなのに、その他大勢と変わらない。つまり、俺にとっては心底どうでもいい存在なのだ。
俺の力となり、癒しとなる、か。それは兄さん以上に適任はいないだろうな。箱入りの花畑の男が、俺の力になるだと?笑わせるなよ。精々体を使うことしかできない男に興味などない。
一向に反応を示さない俺に、エーデルワイス大公は覚悟を決めたように口を開いた。
「オルドガルド元帥よ。この場でもう一度頼もう」
「何でしょう」
「どうか、セリムと結婚してはくれないか?」
恥を忍んで頭を下げる、エーデルワイス大公。
一国を建国することもできる大公の爵位を持つ男が、自ら頭を下げるなど何を考えているんだ。そんなことをしたって、俺は情に流されない。
「お断りします」
軽く答える。前向きも何もなしに即答した俺に、エーデルワイス大公は動揺を露にした。しかし、すぐに我に返ると、残念そうに俯いて「そうか…」と呟いた。
「セリムに最後に会って行ってはくれないか?」
最後。その言葉に俺は察した。結婚に応じない代わりに、情けとして会って行けと言っているのだと。俺の手でセリムの初恋を終わらせてやれと…。
普通なら、いつもなら、俺がそれに応じることはないだろう。だが、ふと兄さんの姿が浮かんだ。兄さんならきっと会って行く。あの人は本当はとてもとても、優しい人だから。
「分かりました」
エーデルワイス大公に案内されがまま、セリムが待っていると言う応接間へと足を運んだ。
先程から、何か変な香りがするが、気の迷いか?
「終わったらまた声をかけてくれ」
そう言われ恐る恐る頷く。もうここまで来たらさっさと話を終わらせてやろう、と覚悟を決めて扉を開け中へと入る。と、同時に思いっきり扉が閉まられガチャン!と重厚な鍵がかけられた音がした。そして、俺は咄嗟に鼻を塞ぐ。
そういうことか。
「オルドガルド、次期大公…」
甘い猫なで声が背後から聞こえ、俺は呆れ混じりに溜息をつく。
胡散臭い男の言うことなんて聞くもんじゃない。
チラッと振り返ると、そこには淫らに乱れたセリムの姿があった。透ける寝間着は、際どい下着を映している。小柄で魅惑的な体。媚薬にあてられているのだろう。この部屋も媚薬が充満している。
「ランス、様。ずっと、ずっとお慕いしておりました…!どうか、僕を抱いてください!」
頬を真っ赤に染め上げて、俺の胸元に飛び込んでくるセリム。
こんな媚薬程度で俺が翻弄されるとでも思っているのか…?
「ランス様」
もう一度、名を呼ばれたとき、兄さんの姿が脳裏に浮かぶ。
その瞬間、感じたこともない怒りがこみあげて来る。
兄さんにしか触らせたくなかったのに、こんな男に触られてしまった。あぁ、どうしてやろうか?
とりあえず…。
「貴様如きがその名で呼ぶな」
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兄さんと二度目のセックスをしてから数日後___。
俺は、エーデルワイス大公家の邸宅へとやって来ていた。もちろん、俺の意志で来たわけではない。
「お待ち致しておりました、オルドガルド次期大公」
「挨拶はいい。さっさと案内しろ」
「かしこまりました」
エーデルワイス大公家の使用人に言いつけると、素直に案内をされる。オルドガルド大公家の邸宅よりも広い邸宅内を颯爽と歩く。どう見ても周りと違う部屋へ着き、扉が開かれる。中に居た人物が立ち上がり俺へ握手を求める。しかし、俺はそれに応じることなく、目の前の初老の男を睨んだ。
俺に手紙を寄越した人物、エーデルワイス大公。呼び出しに応じない暁には、ティファニベルに手を出すと脅しの手紙を書いた張本人だ。大丈夫だろうとは思っていたが、やはり不安は拭えない。兄さんのことを考えるあまり、素直にのこのこと呼び出しに応じてしまったわけだが…。
「立ち話はよくないな…。座ろうか、オルドガルド元帥よ」
「座るほど長く居座るつもりはありませんので。用件は手短に」
そう言うと、エーデルワイス大公は「つれないな」と呟いて笑みを零した。
「呼び出したのは、他でもない我が末息子セリムとの婚約の件に関してだ」
「……………」
「ティファニベル殿は既にライドニッツ卿と婚約をすることが決まっている。オルドガルド元帥も、叶わぬ恋をし続けるのは辛いだろう」
貴様に何が分かる?
そう言ってやりたかった。俺の気持ちを分かった気でいるみたいだが、余計な世話だな。もし兄さんがライドニッツ卿と結婚するなら、俺は死ぬつもりだし辛いのも少しの辛抱だ。そもそもの話、ライドニッツ卿と結婚させるつもりはないが。
「セリムはオルドガルド元帥のことを心から想っておる。病弱だが母親に似て心の優しい息子だ。きっとオルドガルド元帥の力となり癒しとなるだろう」
エーデルワイス大公は、自らの愛息子を思い浮かべて微笑んだ。
脳内で、セリムの姿を思い受かべる。幼い頃に見たことがあるエーデルワイス大公夫人にそっくりだったことは覚えているが、肝心のその顔が思い出せない。何度かは顔を合わせているはずなのに、その他大勢と変わらない。つまり、俺にとっては心底どうでもいい存在なのだ。
俺の力となり、癒しとなる、か。それは兄さん以上に適任はいないだろうな。箱入りの花畑の男が、俺の力になるだと?笑わせるなよ。精々体を使うことしかできない男に興味などない。
一向に反応を示さない俺に、エーデルワイス大公は覚悟を決めたように口を開いた。
「オルドガルド元帥よ。この場でもう一度頼もう」
「何でしょう」
「どうか、セリムと結婚してはくれないか?」
恥を忍んで頭を下げる、エーデルワイス大公。
一国を建国することもできる大公の爵位を持つ男が、自ら頭を下げるなど何を考えているんだ。そんなことをしたって、俺は情に流されない。
「お断りします」
軽く答える。前向きも何もなしに即答した俺に、エーデルワイス大公は動揺を露にした。しかし、すぐに我に返ると、残念そうに俯いて「そうか…」と呟いた。
「セリムに最後に会って行ってはくれないか?」
最後。その言葉に俺は察した。結婚に応じない代わりに、情けとして会って行けと言っているのだと。俺の手でセリムの初恋を終わらせてやれと…。
普通なら、いつもなら、俺がそれに応じることはないだろう。だが、ふと兄さんの姿が浮かんだ。兄さんならきっと会って行く。あの人は本当はとてもとても、優しい人だから。
「分かりました」
エーデルワイス大公に案内されがまま、セリムが待っていると言う応接間へと足を運んだ。
先程から、何か変な香りがするが、気の迷いか?
「終わったらまた声をかけてくれ」
そう言われ恐る恐る頷く。もうここまで来たらさっさと話を終わらせてやろう、と覚悟を決めて扉を開け中へと入る。と、同時に思いっきり扉が閉まられガチャン!と重厚な鍵がかけられた音がした。そして、俺は咄嗟に鼻を塞ぐ。
そういうことか。
「オルドガルド、次期大公…」
甘い猫なで声が背後から聞こえ、俺は呆れ混じりに溜息をつく。
胡散臭い男の言うことなんて聞くもんじゃない。
チラッと振り返ると、そこには淫らに乱れたセリムの姿があった。透ける寝間着は、際どい下着を映している。小柄で魅惑的な体。媚薬にあてられているのだろう。この部屋も媚薬が充満している。
「ランス、様。ずっと、ずっとお慕いしておりました…!どうか、僕を抱いてください!」
頬を真っ赤に染め上げて、俺の胸元に飛び込んでくるセリム。
こんな媚薬程度で俺が翻弄されるとでも思っているのか…?
「ランス様」
もう一度、名を呼ばれたとき、兄さんの姿が脳裏に浮かぶ。
その瞬間、感じたこともない怒りがこみあげて来る。
兄さんにしか触らせたくなかったのに、こんな男に触られてしまった。あぁ、どうしてやろうか?
とりあえず…。
「貴様如きがその名で呼ぶな」
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