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第69話
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《TBside》
「それは、本当か?」
「はい、本当です」
一枚の薄いレンズを隔てた向こう側。静かに揺らめく暖炉の炎のような瞳が、見開かれた。
たった今、おれはお父様にライドニッツ卿の求婚を受け入れライドニッツ家に嫁ぐことを報告した。
「何故…」
「おれの、幸せのためです」
お父様の問いかけに迷わずそう答えると、お父様は険しい表情を浮かべる。
総合的な評価をしたまで。ランスと結婚をしたとしても、エーデルワイス大公家側に着いた数々の貴族に社交界で後ろ指を指され続ける。あることないこと噂を勝手に流され、起業家としても投資家としても価値が下がってしまう。エーデルワイス大公家を敵に回したが最後、ランスにも迷惑がかかってしまうだろう。ライドニッツ卿と結婚して、アルフェンロード大帝国から去った方が、おれは幸せになれる。
考え込むお父様に、追い討ちをかけるような言葉を口にする。
「ランスと、エーデルワイス大公家末息子セリム様の結婚を容認してください」
俯いていたお父様が咄嗟に顔を上げて、おれを見つめる。
「自分が何を申しているのか、分かっているのか」
「…はい。エーデルワイス大公家の力は絶大です。セリム様を我が家に迎え入れるべきです」
地を這うような低い声に圧倒されながらも、おれは何とか自分の意見を述べた。
二人の結婚はまだしも、セリム様をオルドガルド大公家に嫁として迎え入れるということ自体、おれは反対だ。前回セリム様と会ってみて、世間知らずな箱入り息子だと感じた。血も見られないようなあの人に、最強の軍人の妻など到底務まらないだろうね…。
「婚約の件は任せると言ったしな…。とりあえず、おまえとライドニッツ卿の結婚は認めよう。しかし、ランスロットとエーデルワイスの末息子の婚約については…どうこう言えるものではない。ランスロットが決めることだからな」
お父様の眉間の皺が深まる。グッと薄い唇を噛み締めている。おれは「分かりました。ありがとうございます」と表向きの感謝を述べて、一礼をしお父様の執務室を出た。
その後、ライドニッツ卿とおれが婚約を結ぶという話が瞬く間に社交界に広がった。アルフェンロード大帝国もグラディドール大帝国も、そんな話で持ち切りだと言う。
本日は、ライドニッツ卿と共に舞踏会に参加する日だ。前回はティファニベルとしては出席しなかったため、久々の出席となる。
貴族たちは、会場に登場したおれたちを一目見て、あの話は本当だったのかと驚いた顔をしていた。一人の貴族が颯爽と話しかけてきた。
「ライドニッツ卿、ティファニベル様。御婚約の話は本当だったのですね!おめでとうございます」
「あぁ。正式な婚約はまだだがな」
いつもより柔らかい表情を浮かべるライドニッツ卿。おれは、偽りの笑みを無理に顔に貼り付けていた。ライドニッツ卿と貴族が話している間、チラリと視線を逸らしてみると、何とランスと目が合った。ドキッと胸が鳴る。ランスの隣には…エーデルワイス大公家末息子セリム様がいた。仲凄まじげに腕を組んでいる。
「オルドガルド次期大公!セリム様!」
そんなランスとセリム様に声をかけるとある貴族の男性。ニヤニヤと人の悪い笑みだ。
「珍しい組み合わせですね…。失礼ながら、御二人は御婚約をされるのですか?」
その質問に、セリム様は頬を赤らめて照れ始める。青い瞳が潤み、口元は緩む。可愛らしい表情だが、目の前の貴族の表情が見えていないのだろうか。そんな顔をした貴族の質問に、馬鹿正直に答えたどころで…。
隣に立つランスは、殺気を隠すこともせず貴族を見下ろしていた。あまりの迫力に、貴族の男性が震え始める。二人のやり取りに気づかないセリム様は、ゆっくりと口を開く。
「あ、…えっと、その…実は、」
「俺は誰とも結婚はしません」
セリム様の声に被せるように発せられた言葉。凛とした低い声が会場中に響き渡り、その場の全員が固唾を呑んでその様子を見つめていた。セリム様は、不安に染まった表情でランスを見上げている。
誰とも結婚しないって…どういうことなの?元帥として、最高位の爵位を受け継ぐ跡取りとして、結婚をし子を成すことはランスの役目だ。それなのに、その役目を放棄するなんて…。軍人としての階級も爵位も捨てるようなもの。養子でも取るつもりなのだろうか。
ランスは、沈黙を切り裂くように再び声を張る。
「ティファニベル以外の人間を娶ることなど、俺には考えられません」
外音が掻き消されたように、何も聞こえなくなる。ランスの言葉が繰り返し脳内を反響する。唇が震え、手先の感覚がなくなる。
ランスは「失礼します」と一言告げて、セリム様の腕を優しく払い、会場から出て行った。ランスが居なくなったことをいいことに、ザワザワと話し始める貴族たち。セリム様の視線は、おれの方へ向いている。
ランスは、ハッキリと言った。おれ以外の人間を娶ることなど考えられないと…。どうして、どうしてっ。やめてよ…。これ以上、おれにおまえのことを考えさせないで。おれは、ライドニッツ卿の元で幸せになるって決めたんだから。惑わせないでよ________。
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「それは、本当か?」
「はい、本当です」
一枚の薄いレンズを隔てた向こう側。静かに揺らめく暖炉の炎のような瞳が、見開かれた。
たった今、おれはお父様にライドニッツ卿の求婚を受け入れライドニッツ家に嫁ぐことを報告した。
「何故…」
「おれの、幸せのためです」
お父様の問いかけに迷わずそう答えると、お父様は険しい表情を浮かべる。
総合的な評価をしたまで。ランスと結婚をしたとしても、エーデルワイス大公家側に着いた数々の貴族に社交界で後ろ指を指され続ける。あることないこと噂を勝手に流され、起業家としても投資家としても価値が下がってしまう。エーデルワイス大公家を敵に回したが最後、ランスにも迷惑がかかってしまうだろう。ライドニッツ卿と結婚して、アルフェンロード大帝国から去った方が、おれは幸せになれる。
考え込むお父様に、追い討ちをかけるような言葉を口にする。
「ランスと、エーデルワイス大公家末息子セリム様の結婚を容認してください」
俯いていたお父様が咄嗟に顔を上げて、おれを見つめる。
「自分が何を申しているのか、分かっているのか」
「…はい。エーデルワイス大公家の力は絶大です。セリム様を我が家に迎え入れるべきです」
地を這うような低い声に圧倒されながらも、おれは何とか自分の意見を述べた。
二人の結婚はまだしも、セリム様をオルドガルド大公家に嫁として迎え入れるということ自体、おれは反対だ。前回セリム様と会ってみて、世間知らずな箱入り息子だと感じた。血も見られないようなあの人に、最強の軍人の妻など到底務まらないだろうね…。
「婚約の件は任せると言ったしな…。とりあえず、おまえとライドニッツ卿の結婚は認めよう。しかし、ランスロットとエーデルワイスの末息子の婚約については…どうこう言えるものではない。ランスロットが決めることだからな」
お父様の眉間の皺が深まる。グッと薄い唇を噛み締めている。おれは「分かりました。ありがとうございます」と表向きの感謝を述べて、一礼をしお父様の執務室を出た。
その後、ライドニッツ卿とおれが婚約を結ぶという話が瞬く間に社交界に広がった。アルフェンロード大帝国もグラディドール大帝国も、そんな話で持ち切りだと言う。
本日は、ライドニッツ卿と共に舞踏会に参加する日だ。前回はティファニベルとしては出席しなかったため、久々の出席となる。
貴族たちは、会場に登場したおれたちを一目見て、あの話は本当だったのかと驚いた顔をしていた。一人の貴族が颯爽と話しかけてきた。
「ライドニッツ卿、ティファニベル様。御婚約の話は本当だったのですね!おめでとうございます」
「あぁ。正式な婚約はまだだがな」
いつもより柔らかい表情を浮かべるライドニッツ卿。おれは、偽りの笑みを無理に顔に貼り付けていた。ライドニッツ卿と貴族が話している間、チラリと視線を逸らしてみると、何とランスと目が合った。ドキッと胸が鳴る。ランスの隣には…エーデルワイス大公家末息子セリム様がいた。仲凄まじげに腕を組んでいる。
「オルドガルド次期大公!セリム様!」
そんなランスとセリム様に声をかけるとある貴族の男性。ニヤニヤと人の悪い笑みだ。
「珍しい組み合わせですね…。失礼ながら、御二人は御婚約をされるのですか?」
その質問に、セリム様は頬を赤らめて照れ始める。青い瞳が潤み、口元は緩む。可愛らしい表情だが、目の前の貴族の表情が見えていないのだろうか。そんな顔をした貴族の質問に、馬鹿正直に答えたどころで…。
隣に立つランスは、殺気を隠すこともせず貴族を見下ろしていた。あまりの迫力に、貴族の男性が震え始める。二人のやり取りに気づかないセリム様は、ゆっくりと口を開く。
「あ、…えっと、その…実は、」
「俺は誰とも結婚はしません」
セリム様の声に被せるように発せられた言葉。凛とした低い声が会場中に響き渡り、その場の全員が固唾を呑んでその様子を見つめていた。セリム様は、不安に染まった表情でランスを見上げている。
誰とも結婚しないって…どういうことなの?元帥として、最高位の爵位を受け継ぐ跡取りとして、結婚をし子を成すことはランスの役目だ。それなのに、その役目を放棄するなんて…。軍人としての階級も爵位も捨てるようなもの。養子でも取るつもりなのだろうか。
ランスは、沈黙を切り裂くように再び声を張る。
「ティファニベル以外の人間を娶ることなど、俺には考えられません」
外音が掻き消されたように、何も聞こえなくなる。ランスの言葉が繰り返し脳内を反響する。唇が震え、手先の感覚がなくなる。
ランスは「失礼します」と一言告げて、セリム様の腕を優しく払い、会場から出て行った。ランスが居なくなったことをいいことに、ザワザワと話し始める貴族たち。セリム様の視線は、おれの方へ向いている。
ランスは、ハッキリと言った。おれ以外の人間を娶ることなど考えられないと…。どうして、どうしてっ。やめてよ…。これ以上、おれにおまえのことを考えさせないで。おれは、ライドニッツ卿の元で幸せになるって決めたんだから。惑わせないでよ________。
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