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第50話
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《TBside》
ランスが北部に向かい、リディガーラ王国との戦争に援軍として加わってから数日のこと。
おれは、オルドガルド大公家嫡男、そして起業家で投資家であるというティファニベルの役目を果たすため、皇宮へと訪れて来ていた。
隣国アリーシャリア王国の更に隣国。グラディドール大帝国。元々仲はあまり良好ではなかったが、数代前の両国の皇帝により平和条約を結ぶことができたのだ。そんな大国からリディガーラ王国を殲滅するための援軍が訪れていた。おれの役目は、彼らの、というよりかは彼らのトップの接待である。
「アルフェンロード大帝国皇帝陛下に謁見致します」
そう言って跪き深々と頭を下げたのは、グラディドール大帝国騎士団長にして、《剣聖》と呼ばれる世界最強の騎士一族ライドニッツ家当主フェリクス・ジャンヌ・ライドニッツ。絹のようにサラサラと陽光に輝く眩い金髪。そして、ライドニッツ家特有の光の当たり方で色が変わって見える虹色眼。誰が見ても美丈夫と呼ぶに相応しいライドニッツ卿は、真っ白の騎士服に身を包んでいた。
「ここまでよくぞ来てくれた。我は会えて嬉しいぞ、《剣聖》よ」
「有り難きお言葉」
アルフェンロード大帝国皇帝陛下は、穏やかな表情でライドニッツ卿を歓迎した。
グラディドール大帝国は、守護神とも言えるライドニッツ家の当主を援軍に送り出した。それだけ両国の仲が良好になった証だった。それにアルフェンロード大帝国も応えなければならない。
「二日という短い時間だが、十分に休んでいってくれ」
「皇帝陛下の御心に感謝致します。必ずや戦場にて戦果を挙げ、忌々しきリディガーラ王国軍を殲滅致すことを誓いましょう」
「頼りにしておるぞ。《剣聖》」
皇帝陛下の傍らに立つのは、宰相であるお父様。お父様はおれに目配せをする。もうすぐだ、という合図だろう。
「さて、この度《剣聖》の接待をすることになった者を紹介しよう」
「二日という短い期間ですが…」
「良い良い。好意は受け取れというものよ。ティファニベル」
皇帝陛下に名を呼ばれたおれは、一歩前へと出る。玉座の間の大窓から差し込んだ光がライドニッツ卿の瞳を照らす。キラキラと美しく反射する瞳は、美しい金色だった。大きな瞳が更に大きく見開かれる。あまりの瞳の美しさに、目を合わせるのが恐れ多いと感じてしまった。
「この者は、我がアルフェンロード大帝国が誇るオルドガルド大公家の嫡男ティファニベルだ」
「お初にお目にかかります。オルドガルド大公家が嫡男ティファニベル・クロニカル・オルドガルドと申します」
皇帝陛下の紹介を終え完璧な挨拶を済ませたおれは、そっと顔を上げる。ライドニッツ卿の目は、相変わらず見開かれている。
「オルドガルド大公家嫡男と言えば、起業家で投資家のあの…ティファニベル様ですか?」
「いかにも。ティファニベルは、あのベルである。エーデルワイス大公家の血も引いておるが故に、子も生むことができる二物も三物も持つアルフェンロード大帝国の誇りだ」
恐る恐る声を上げたのは、ライドニッツ卿の後ろに控えていた騎士の男性だった。皇帝陛下は、おれを高々と自慢するようにそう答えた。チラリとお父様を見ると、大きく溜息を着いて頭を抱えたそうにしている。まるでエーデルワイス大公家の血を引いているという情報は、不要だったとでも言いたげだ。
「ティファニベル…。おまえがあのティファニベルか」
ライドニッツ卿は、信じられないものを見たとでも言うような顔をしている。
皇帝陛下には敬語を使い、おれにはタメ口。それもそうだ。《剣聖》の名を持つライドニッツ家は、いくら他国の大公家と言えども蔑ろにしていい相手ではない。特定の爵位は持っていないが、世界への影響力は凄まじい。かのライドニッツ家当主がオルドガルド大公家嫡男に軽い口で話そうとも、何も問題は生じないのである。
「オルドガルド大公家嫡男ティファニベル。子が生めるというのは本当か?」
「…事実です」
初対面の相手にズカズカとそんなことを聞いてくるなんて、図々しい人だ。皇帝陛下の御前、そんなことは口が裂けても言えないけれど。
ライドニッツ卿は、何かを少し考えた後、結論に至ったのかおれの元へと歩み寄って来た。ランスほどにある高い身長に、自然と見上げる形となってしまう。
「ライドニッツ家当主フェリクス・ジャンヌ・ライドニッツは、オルドガルド大公家嫡男ティファニベル・クロニカル・オルドガルドとの婚姻を求める」
「……………………は?」
かつてないほどの衝撃。爆弾よりかは核爆弾と言った方がいいかもしれない。
ライドニッツ卿の言葉の意味が分からず、おれはただ七色に輝く瞳を見つめ返すことしかできなかった…。
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ランスが北部に向かい、リディガーラ王国との戦争に援軍として加わってから数日のこと。
おれは、オルドガルド大公家嫡男、そして起業家で投資家であるというティファニベルの役目を果たすため、皇宮へと訪れて来ていた。
隣国アリーシャリア王国の更に隣国。グラディドール大帝国。元々仲はあまり良好ではなかったが、数代前の両国の皇帝により平和条約を結ぶことができたのだ。そんな大国からリディガーラ王国を殲滅するための援軍が訪れていた。おれの役目は、彼らの、というよりかは彼らのトップの接待である。
「アルフェンロード大帝国皇帝陛下に謁見致します」
そう言って跪き深々と頭を下げたのは、グラディドール大帝国騎士団長にして、《剣聖》と呼ばれる世界最強の騎士一族ライドニッツ家当主フェリクス・ジャンヌ・ライドニッツ。絹のようにサラサラと陽光に輝く眩い金髪。そして、ライドニッツ家特有の光の当たり方で色が変わって見える虹色眼。誰が見ても美丈夫と呼ぶに相応しいライドニッツ卿は、真っ白の騎士服に身を包んでいた。
「ここまでよくぞ来てくれた。我は会えて嬉しいぞ、《剣聖》よ」
「有り難きお言葉」
アルフェンロード大帝国皇帝陛下は、穏やかな表情でライドニッツ卿を歓迎した。
グラディドール大帝国は、守護神とも言えるライドニッツ家の当主を援軍に送り出した。それだけ両国の仲が良好になった証だった。それにアルフェンロード大帝国も応えなければならない。
「二日という短い時間だが、十分に休んでいってくれ」
「皇帝陛下の御心に感謝致します。必ずや戦場にて戦果を挙げ、忌々しきリディガーラ王国軍を殲滅致すことを誓いましょう」
「頼りにしておるぞ。《剣聖》」
皇帝陛下の傍らに立つのは、宰相であるお父様。お父様はおれに目配せをする。もうすぐだ、という合図だろう。
「さて、この度《剣聖》の接待をすることになった者を紹介しよう」
「二日という短い期間ですが…」
「良い良い。好意は受け取れというものよ。ティファニベル」
皇帝陛下に名を呼ばれたおれは、一歩前へと出る。玉座の間の大窓から差し込んだ光がライドニッツ卿の瞳を照らす。キラキラと美しく反射する瞳は、美しい金色だった。大きな瞳が更に大きく見開かれる。あまりの瞳の美しさに、目を合わせるのが恐れ多いと感じてしまった。
「この者は、我がアルフェンロード大帝国が誇るオルドガルド大公家の嫡男ティファニベルだ」
「お初にお目にかかります。オルドガルド大公家が嫡男ティファニベル・クロニカル・オルドガルドと申します」
皇帝陛下の紹介を終え完璧な挨拶を済ませたおれは、そっと顔を上げる。ライドニッツ卿の目は、相変わらず見開かれている。
「オルドガルド大公家嫡男と言えば、起業家で投資家のあの…ティファニベル様ですか?」
「いかにも。ティファニベルは、あのベルである。エーデルワイス大公家の血も引いておるが故に、子も生むことができる二物も三物も持つアルフェンロード大帝国の誇りだ」
恐る恐る声を上げたのは、ライドニッツ卿の後ろに控えていた騎士の男性だった。皇帝陛下は、おれを高々と自慢するようにそう答えた。チラリとお父様を見ると、大きく溜息を着いて頭を抱えたそうにしている。まるでエーデルワイス大公家の血を引いているという情報は、不要だったとでも言いたげだ。
「ティファニベル…。おまえがあのティファニベルか」
ライドニッツ卿は、信じられないものを見たとでも言うような顔をしている。
皇帝陛下には敬語を使い、おれにはタメ口。それもそうだ。《剣聖》の名を持つライドニッツ家は、いくら他国の大公家と言えども蔑ろにしていい相手ではない。特定の爵位は持っていないが、世界への影響力は凄まじい。かのライドニッツ家当主がオルドガルド大公家嫡男に軽い口で話そうとも、何も問題は生じないのである。
「オルドガルド大公家嫡男ティファニベル。子が生めるというのは本当か?」
「…事実です」
初対面の相手にズカズカとそんなことを聞いてくるなんて、図々しい人だ。皇帝陛下の御前、そんなことは口が裂けても言えないけれど。
ライドニッツ卿は、何かを少し考えた後、結論に至ったのかおれの元へと歩み寄って来た。ランスほどにある高い身長に、自然と見上げる形となってしまう。
「ライドニッツ家当主フェリクス・ジャンヌ・ライドニッツは、オルドガルド大公家嫡男ティファニベル・クロニカル・オルドガルドとの婚姻を求める」
「……………………は?」
かつてないほどの衝撃。爆弾よりかは核爆弾と言った方がいいかもしれない。
ライドニッツ卿の言葉の意味が分からず、おれはただ七色に輝く瞳を見つめ返すことしかできなかった…。
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